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ライカ ズミクロンM35mmF2 ASPH

トップの写真とは別のフード。左がプラスチックの12538、右が12504である。

ライカの話は今後も度々出てくるが、数少ない現行のマニュアルカメラの代表としてでの事で、特にこのレンズは最新の設計であり、購入を考えている人も多いだろうと取り上げた。従前の35mmF2と比べだいぶ大きくなったが、操作性自体はヘリコイドリング、絞りリングに余裕が出て良くなったと感じる。ただし感覚的なコンパクトさは失われた。鏡胴はシルバーとブラックがあり、材質が違うためシルバーがかなり重い。私は軽合金を多用した黒が、その軽さと目立ちにくさで好ましいと思う。太さも多少太くなったため、ボディ装着時、レンズ脱着ボタンが1/3程かくれ、脱着はM6は問題ないが、古いモデルだとしにくいかも知れない。ちなみに私の持っているCLには脱着ボタンがレンズの下端と干渉して取り付きにくい。フードは専用のバヨネットタイプの角形フード(12528)でフードキャップも付属している。私としては以前のスリット型のフードの方が良いと感じている。と言うのは好みの問題以外でも、角形はワイドの場合ファインダー枠がケラれ、スリット型はそれがないのである。現状ではまだ販売しているので購入しておくべきである(2005年現在新品の入手は不能となった)。いずれ中止になるとプレミアがつくこととなる。中古フードが1−3万円はざらである。ナンバー12538(プラスチック製で現行品のひとつ前のズミクロン50と兼用。2スリットのタイプ。まだカタログにのつてはいるが、該当する現行レンズがないので遠からずなくなるだろう)、値段は5−6千円ほど。あるいは12504(旧ズミルックス35mmと兼用。最近スクリューマウントの限定版ズミクロン35が出たため再生産されたようである。私はすぐ購入したが後の入荷は?である。またフードに関しては同じ型式でも買うたびに仕様が異なり(都合で12504と12575を三個づつ持っているが全部微妙な部分で異なる。品質管理に対しての考え方が日本とは違うようである。シリーズ7フィルターが付くのと姿が綺麗なので私はこれを勧める)、値段は新品があれば9000-10000円。ライツ名の新同中古になると倍はする。写真のフードはもう生産をやめた12585のメタルフード(ズミクロン50mmと兼用)で12504と同じく三つのスリットを持つ。これは中古しかなく、1.5万円もする。ただし声を大にして付け加えるが、フードとしての機能(遮光性)としてはオリジナルの角形がよく、比較的逆光に弱い7枚玉はぜひとも角形12528にするべきである。ついでだが下のM6は、すべてM6TTLになる直前のモデルで「駆け込み」で1998/11に購入したものである。M6TTLの発表後で、その諸元と意匠を知って、私はM6の方が良いと考えた。故障のリスクについて考えると、経験的に不要な機能はない方がよいと思っている。つまり使わないのに壊われるところが増えるということである(M6TTLはその後入手したが、特に故障が多いと云うことはなさそうで、私が想像しただけである)。シルバーは前から持っていたのだが派手すぎて使いにくいので(ある祭りを取材中、宮司さんがいきなり近寄ってきて「ライカはいいですな−」と話しかけてきた。20m向こうからでも分かるのである)ブラックをと考えていた矢先のことであった。このレンズはフードも含めるとかなり大きな姿で、M6はおろかM5でもバランスが取れるデザインと言えよう。描写性能については、問題点だけ述べよう。それらを注意しておれば一級品であることは云うまでもない。

M6ノーマルに取りつけた。横から見ると少し大柄だが、前から見るとすんなり落ち着いて「いつものライカ」の顔である。角形フード付き、最近はこちらを多く使うようになった=フードキャップが便利である・・・しかしこのキャップは落ちやすく、電車に飛び乗る瞬間に一度はホームに(しかも電車のドアは閉まり泣き別れ)、一度は線路に落としてしまった。最初は次の駅から戻り拾った=誰も大切なものとは思わない。次は駅員に拾って貰った。更に最近、富山の浜辺で知らぬ間に落とし、気が付かずに次の地点まで行って、「いけない!」と気が付き、元の浜に戻って探した。もう慣れたもので(これら以外もポロポロ落とす)落とすタイミングが分かっているため自信を持って戻ったが、無い・・・と思ったら砂浜の自分の車のタイアの下にあった。踏んづけても大丈夫、運のいいキャップである。私の冒険とは別に、キャップも冒険をしている。

1. フードを取り付けても逆光時フレアが出ることがある。これは従来からライカレンズの欠点(条件によっては結構甚だしい)だが、これとこのレンズの軟らかい味(6−7枚玉はボケ味がやや硬い)との関連がたぶんあるのだろう。ゴーストはほとんど目立たない。一眼レフでないのでファインダーで確認できず、限界点を経験で学ぶ他ない。

2. 私も学校で学んだが、レンズは開放から3段程度絞ったところが一番ピントが良いと云う。事実そうだろうが、実写では最近の国産レンズ(私はキャノンFD、コンタックスRTSを使っている)は良くも悪しくも絞ってもそう変化はない。その点ライカはかなり極端で、このレンズに関しては開放から使える代わりにF8より絞ると回折によるのか、多少画質が(解像力、コントラスト)落ちる。実際の撮影ではISO50−100ならF5.6−8までを多用し、シャッター速度を上げて調整するのが良いだろう。その意味でも絞り優先の露出制御が望ましいのだが、M6がそうなっていないのは不思議である。M6TTLはシャッターダイアルを大きくしてファインダーを覗いたまま操作できるようにしているが、シャッター値が表示されず、操作性も充分とは言えない。30年近く前のM5のほうが良いのである(絞り優先AEのM7の登場は大歓迎=私には過去のモデルチェンジの中でM7の登場が最も大転換だと思っている)。さて、このように絞りすぎを避けるため高感度フィルムは禁物である。そのかわり絞り開放からf5.6はたいへん線が細いにもかかわらず力強い、つまりはコントラストと解像力が高く、かつバランスがとれていると言うことである。(ライカ使いの名手、木村伊兵衛氏が常に開放付近で撮っていたことを思い出してみよう)ボケ味のマイルドさ=大事なヒント・・・前ボケに注意をはらおう。一般的にボケ味の作例は後ボケを多く紹介しているが、本当は前ボケに妙味があると考えている(もう少し踏み込んだ話は後日)。1と同じように何か意味があるのだろう。このレンズも広角ながら比較的きれいなボケ味がある(しかしボケた部分の滲みが少なくやや不自然なボケである=これも作られたボケ味とふんでいる)。そして開放付近では同じ明るさのFDレンズよりごく周辺を除きピントがあっておりさえすればシャープである。しかし、少し外れると像の崩れは大きくなる(ピントが外れるとボケが大きい=見方によってはボケが良いとの評価もあるかも知れない)。つまり広角ながら深度を利用して撮るのは適切ではない。深度の深いレンズを良しとする風潮があるが私はそうは思わない。ピントは一点で合う。あとはボケが見ための許容範囲内(よく言う直径1/30mmの許容錯乱円)かどうかの問題なのである。試しに絞りを開けて正確に計って撮った像と、絞って少し外した像を見比べると違いがよく分かる。正確に測距しよう。ライカの距離計の精密さも必然性があるのである。

3. 画面全体にコントラストが高く、FDの最終型のアスフェリカルレンズより高い位である。ピーカンならコンタックスG用のレンズの方がはるかにマイルドな味の表現をする。高緯度地方または曇った日には、開放近くが良い描写をすることとあいまって大変良好。熱帯地方や晴れた日にはカールツァイスか・・・? ついでに記せば、RTS用も含めツァイスのレンズは見ためのシャープさには欠ける。線の細い描写で、おそらく解像力は高いのだろうが滑らかさが身上である。ライカとは次元の異なる個性的な描写で、Gビオゴン28mmをLマウントに改造するサービスをアベノン他が請け負っているが、その誘惑に負けてしまいそうな美しい絵である・・・私は負けてしまった。ただしこれもフレアは出る。口径が同じなのでヘキサノンKM28mmのスリットフードを付けると良い...私は付けた。

4. 色彩は古いタイプのライカレンズに比べやや派手な発色である。8枚玉は云うに及ばず、ズミクロン35ノーマルの最終型(7枚玉。1979-1998まで販売。特に古いとは言えない)でも多少だがライカ独特の黄色みがあり、これに比べると自然な発色と言えよう。現行のひとつ前の時代までのライカレンズの味、あるいは癖のひとつに色再現性の問題があるが、このことは後日論評する。ただしG用のツァイスよりは地味な発色だろう。そしてコントラストが高いこととも関係あるが、暗い色がやや沈む。

5.上記3rdズミクロンは多少の周辺光量の落ちがあるのだが、このレンズは全く感じられない。またそれは画質と共に絞り開放からF8位まで深度が深まるだけで大きな変化はない(裏を返せば絞っても画質は伸びない、絞りによる距離感のコントロールもできないとも云えよう=この辺の話は難しいのでまたいつか)。まさに深絞り以外は優等生的なレンズに仕上がっている。「味」や「癖」は少なくなり面白みは減ったと言えよう。ズミクロン35の8枚玉をテストしたが全く次元の異なる描写である(絞りや光線状態で絵が激変する)。つまりこれ1本持てば35mmはOKとも言えるし、コシナ=フォクトレンダーウルトロン35を使っても大差はないとも言える。ただしややこしくなるのでここでは詳しく述べないが、これより深い部分の話はこれから以後の事である。

ほぼ完了したライカの新バージョンレンズを俯瞰してみると、ある傾向が浮かび上がってくる。簡単にこの点を述べると、向かうところ敵なしとされているズミクロン50を中心にして、ワイド系の非球面化と望遠系の色収差の高次補正のためのアポクロマート化の図式が見え、国産のズームを中心に据えた開発方針と異なり(次のカメラ談義に述べるとおり、国産のズームレンズシステムの完成はそれで価値の高いものである)かのエルマー5cmf3.5の時代と同じく、標準レンズを基本にレンズシステムを構築しつつあるのである。昔より増えたとはいえ6種類の焦点距離のフレームの中でのみ発想できるシステムを期待する。これも後述するが、トリエルマーの開発は画期的であるのと同時に技術者の意図を垣間見たような気がする。

ともあれ私自身がテストした40本程の新旧各社の35mmL-Mマウントレンズの中では客観的に見て(好みは別・・・私は6枚玉か7枚玉が好み)最高級の画質と言えようが(最高=決定版とは言わない)、少々個性に欠け(いやリアルな描写そのものが個性なのだろうか?)、実用性と言う点では価格の面(実勢価格は12−13万円程度)以外は良いと思う。しかし表現の多様さを求めるのなら、最低でもこれ以外に1−2本は必要だろう。写真をレンズと感材を使った造形表現と考えるなら、良いレンズとはひとつであろうはずはなく、ふたつあるいはみっつの選択肢を持つべきと考える。今は扉を叩いたところである。これ以上の深い論議は避けるが、これからの長い探索の旅のプロローグのレンズとしては最適の選択と思われる。

倉敷チボリ公園の大観覧車から曇り日の夕方の倉敷の街を見る。低いコントラストの条件だが細かな所までキチンと写っている。  M6+S35mmASPH+KR  最近のKRは乳剤のせいか、現像のせいか分からないが、条件が悪いと緑に振れた濁りが出て、しかも実効感度の低下が見られる。以前はほとんどの撮影をKR.KL.PKRでこなしていたのだが・・・。

M2BPと。M5に取りつけたらいいのだろうが、M2(当然その他のMボディも)だとレンズがやや大きめに感じる。

大きめのレンズなので(重さもある)M5に取りつける。ぐっとバランスがいい。最近は「好みの問題ではなく」どちらもあまり使わないが...どうも7枚玉の出動が多くて、更に昨今は28mmレンズが中心となっている。でもやっぱりLeicaはM5、青春時代がM5の時代だっただけに思い入れは大きい。たぶんM5とCLだけはカッコつけて撮っているかな?


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