写真はライカVFとエルマー5cmf3.5のコピーレンズ2本である。世の中には良いレンズ・ボディのコピーはある意味で常套手段のようで、東西を問わずなされ続けてきた。特許権や商標権と言った問題は別途あるが、技術的に途上の国やメーカーにとっては開発の過程で不可欠なこととも言える。いかに法に触れない方法を考えるか、特許料を支払うか・・・。それにしてもエルマーは沢山のコピーがあることか!シンプルさと沈胴したときの薄さ、レンズ構成の単純さ、決して使い易いとは言えないが魅力のあるレンズであることは間違いない。私は今は新旧3本のエルマー50mmf2.8MとF3.5Mを1本持っている。まだ日が浅いので詳しくは語れないが、古い割には良く写ったとだけ言っておこう。私は写真にあるとおり、特に本格的に使うという事ではなく、安かったこともあり研究用にトプコール5cmF3.5(1955年前後
\25000)とソ連のインダスタール5cmF3.5(1952 \6000
!)の2本を持っており、試しにテストしてみた。本家エルマーの事は各種ライカ本で見てみると良い。その他のレンズは藪の内である。そのうちの2本を今回解説し、それがくっついているライカVFの数奇な運命を語りたい(VFの性能や定格については皆さんの方が良く知っている)。今回は実用を離れた解説で、このホームページの趣旨と異なり申し訳ないが、ライカブームの折り、趣味的に購入を考えている人やLマウントの中古レンズがずいぶん高くなっている昨今、少し肩の力を抜いた話を書いてみようと考えた。 見た目は2本ともエルマーそっくりに作ってある。トプコールがfeet、インダスタールがm表示であるがマウントの座金部に距離の目盛りが彫ってあり、真鍮にクロームメッキ、円周方向の細かなヘアライン仕上げとこの部分はほぼ同じ(メッキの質はややトプコールが上)である。その上の回転リングの仕上げは多少異なる。トプコンはエルマーそっくりの質の良い梨地仕上げで、絞り数値の彫刻も美しい。R表示も当然ある。ピントレバーの座金もヘアライン仕上げで良好。対してインダスタールは同じ梨地に見えるがよく見ると梨地にヘアライン仕上げをしている。梨地だけでは仕上げの美しさが不足でその上からヘアラインを引いたようである。ピントレバーの座金はクロームメッキの鏡面仕上げだが薄いようで少し剥がれかけている。しかもインフィニテイストッパーがカチンと止まらず、更にマウント座金の上のストッパーの突起と座金に作り出しているストッパーの位置がずれており突起が役にたっていないのである。トプコールは当然そんなことはなく、両方がきちんと無限遠位置でとまる。またインダスタールの場合、どうした訳かボディにねじ込むと回りすぎてストッパーがやや上方向に向く。距離計には連動しているので、それだけなら問題はないのだ が*1、L-MマウントアダプターをつけてMボディに取り付けると、ストッパーが無限遠位置でマウントのロックボタンと干渉し、無限遠まで動かせない。ぎりぎりの位置関係なのでほんの少しロックボタンを沈めると回せるためテスト撮影程度ならできるが、ボディによってはレンズが外れたり、無限遠に持っていくたびにボタンと衝突し傷だらけになる。Lマウントボディだと問題はない。鏡胴は両方ともハードクロームメッキの鏡面仕上げで良好である。ただし長さはインダスタールの方が3mm程長く、後で述べるがレンズの構成が異なることが分かる。レンズ先端部は外周部の仕上げが異なり、トプコールはやはりエルマーの徹底したコピーでインダスタールは縦ローレットが刻んである。正面から見ると両方とも座金より更に細かいヘアライン仕上げで光沢はややトプコールが強い。メーカー名、レンズ名などの彫る方向は逆でトプコールは外側から見て正、インダスタールは内側から見て正である。絞り値はどちらも内側からみて正の方向である。ここでもトプコールはエルマー式を踏襲している。たいした差ではないが彫り方としてはインダスタールの方が理にかなっており、トプコールはただエルマーをコピーしただけと受け取られても仕方がないだろう。絞りの調整はやはりトプコールはエルマーとほぼ同一、インダスターは絞り環となっており、クリックストップも弱いながらあって、独自性があるし使いよい。そしてレンズ前面にあるプリズム模様の意匠の彫刻は良いと思う。レンズタイプは同じテッサー型の3群4枚構成である。絞りはトプコールはエルマーと同じくレンズ1枚目のすぐ後ろにあり、インダスターは2枚目の後ろにある。設計としてはこちらが理にかなっており、この後のテッサータイプのレンズはほぼこのような設定になっている(ライカも含め)。コーティングはトプコールが1面目がアンバー系でそれ以外は少し色に変化があるもののシアン・マゼンタである。インダスターはコーティングがやや弱く、一面目がアンバーそれ以外はシアン系の薄い色、最終面のみ濃いマゼンタと後世のジュピターなどと似たような色である。全体をとおして見ると仕上げはトプコールの方が良く、独自性と言う点ではインダスターに利がある。モノとして残るには人気機種のコピーでは難しく、独自性を出せたものが生き残れる事が一般的であり、その意味ではインダスターをかいたい。 写りはどうだろう?これは期待しない方が良い。その前提でみるなら、結論はどちらも合格点と言えよう。トプコールはレンズ前面に傷があり、かなり乱反射によるフレアが出るが色調はニュートラルでピントも周辺まで充分来る。ただしf8位には絞りたい。インダスターはレンズが綺麗なこともあり、抜けがよいがやや温調で、トプコールと比べると周辺は落ちる。しかしf8まで絞ると実用の範囲に入ってくる。描写については総合的に比べると、おそらくレンズの傷がなければトプコールが少し上だろう。最初に実用を離れたと言ったが、案外条件を限った撮影なら実用も可能かも知れない。ただし無理に使うことは賢明な選択とは言えないだろう。沈胴式が良いなら現行の新エルマーMかヘキサノン50f2.4L(どちらも極めて良い描写性能でかつ個性のある写りである)を使えば良いのだから・・・。それにしてもライツは不思議な形と構造のレンズを作ったものだ。その創意と工夫に敬意を表する。しかし私は少々かさばってもリジット式がよい。鏡胴を引き出し忘れたり、沈胴状態でボディ内部を痛めたりする危険性を忘れないのである。人間は誰でも間違いは犯す。それを未然に防ぐ工夫が最後には勝利するものだ。 さて、おまけとして私の不思議な縁で繋がった二台のライカ3Fについて語ろう。 そして写真にある3Fは今年(2000年)の正月、やはり知人のご婦人が引っ越しをする際出てきたもので、15年程前に亡くなった父上の遺品の一つで、仕事の上でお世話をさせて頂いたお礼として、これも私が写真家でカメラの事に詳しい人間と見込んで下さったものである。元箱、取説、ズマリット5cm付きの1954年モデルであった。結局亡き人から引き継いだもので、使わないが価値の高いもののため処分もできず(ライカをその時代持つ人はお金持ちで「売る」などとは思いもよらない)、かといって使用も普通の人にとっては不可能で、年数が経ち、持ちきれなくなって適当な人物のもとに「お礼」などの大義名分によって手渡される。そのような図式になるものかと思う。私もこの3Fはシャッターの不良もあり一度も使ってはいない(その後修理し、現在は完全に蘇っている)。掛け軸や焼き物のような存在なのかと思う。ズミタールは使い物にならないと思ったが、ズマリットはテストの結果良好な成績を残した。エルマー90、ズマロン35と共にクラシックな描写の撮影を楽しむのも一興と思う。 これ以外にも似たような状況で、クラシックなカメラ(高級品ばかりでなく、安い物も多くある)が15台ぐらい私の手元にやってきた。貰ったというより預かったと言う方が正確かもしれない。故障品は修理・調整に出してできるだけ完動の状態にして保管を続けるのである。勿論、当人やその遺族が望めばいつでも返還するし、別の人が何かの必然があって望めば差し上げる。カメラには使った人の意志や想い出がこもり、家族も持ちきれず持つべき人に託すことになるのであろう。モノが意志を持つこととはこういう事であろう。私の膨大なカメラ・レンズの山もいずれそうなるのだろう。すでに一部使わなくなったカメラをそのカメラにふさわしい(使ってもらえる人)知人に渡し始めている。コレクターではないので数が増える事に少しく恐怖を感じると言っても間違いではない。 本家、赤エルマー5cmF3.5とIII f、沈胴状態だがさすがに格好がいい。 キャノンPに取り付けたトプコールとインダスター M6+トプコン5cmF3.5(F5.6で撮影)+RA=ソフトフォーカスと化しているが芯はシャープである。 参考文献 *1 朝日ソノラマ「クラシックカメラ専科 NO.54 ライカブック2000」−透視ファインダーカメラのマウント4題−縦野横行著 Lマウントなどの規格についての良い論考があるので紹介しておく。マウントはレンズが付けば良いと言うだけではないことを知った。厳密にはライカスクリューマウントとロシアンライカマウントは別のマウントと言える。以前にライカのスクリューマウントと同寸のアンジェニューの135mmレンズを購入したが、ボディに付いても距離計に全く連動しなかった事もある。 エルマー50mmF3.5M。赤エルマーと同じレンズ構成だとされている。内面反射防止の措置もとられており、性能は上がったと見る向きもあるが、旧式のレンズであることは事実である。 キヤノン50mmF3.5...ついでの話だが、私の持っているエルマー/テッサータイプ(本当は両タイプは異なるものだが、本質的には同じ考え方のレンズ構成)のレンズをあげておく(ソビエト物のインダスター50mmF3.5沈胴/リジッド/2.8モデルの3本はすでに友人にあげてしまった)。どれも簡単な構成のレンズだが、ちょっと気をつかうといい絵を作り出す。私は時として感じられる絞り値による「焦点移動」が嫌いで、使い込むことをためらっているが気にするほどのことはない。私が神経質なだけである。 1. キヤノン35mmF3.5・・・かなりの個性。テッサータイプの「薄くできる」特性を生かしている。
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