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トプコン スーパーDM

わが青春のトプコン

写真はスーパーDMと35mm、100mm(ついでにストロボ接点付きアクセサリーシュー)である。決してコレクションではなく、23年前に新品で買い、約3年間使用したものである。この当時コマーシャルで使用していたため、期間の割には使い込んだカメラである。写真では分からないだろうが、ブラックペイントは各部で剥げて下地の真鍮が見えている。もう売却してしまったが、レンズはこれ以外に20mmf4、25mmf3.5、58mmf1.8(以上クローム)、58mmf3.5マクロ(ブラック)を、ボディは26−7年前学生の頃に買ったREスーパーとRE2を持っていた。このうち以前に少し触れたが、RE2+58mmf1.8はキャノン7と交換し、REスーパーはシャッターレリーズ時にミラーの跳ね上がりが遅れるという妙なトラブルが出て(要するにミラーが上がりきる前にシャッターが切れ、画面の一部がきれる。フィルム5本にワンカット程度だが、現像してみないと分からない)、20mmレンズと共に売ってしまった。いずれも中古での購入だったので不安があったことも事実である。この20mmレンズはどうしようもない癖玉で、中心部はかなりのシャープさがあるのだが周辺部がコントラスト、解像力共にかなり落ち、放射方向の流れもある。しかし周辺光量も落ちるため、それが目立たない。絞ると中心部はあまり変化なく、周辺部がおとなしくなり実用性が出てくるが、同時代のニコンに比べて平均値は良くない。絞りが開いているときは、他メーカーレンズよりむしろ中央部のみではまさっているのだが・・・。実際に撮ってみると、例えば夕方の順光で広い場所での人物などを点景としての撮影だと、中心の人物とその付近はかなりキリッと写り(画面の1/3程度)、周辺に行くに従って像が流れ、コントラストも落ち、光量も極端にしかし緩やかに落ちる。細かなものがぼやけ、沈んでいくのである。そんな条件では何を撮っても、妙に劇的な絵となる。いわば当時流行のコンポラ写真向けのレンズである。かくいう私もコンポラ派だったことは言うまでもない。その頃はレンズの味など理解できなかったし、仕事に使えないので絶望的なレンズと感じた。今は条件を整えて撮影すると個性的な描写が味わえると考えている。レンズも進化するし、私たちの目も進化するのである。当時のライカなどと同じく周辺部を多少犠牲にしても中心部を鮮鋭に、そしてなだらかに周辺の低下につなげていくという手法なのだろう。それにしてもこの時代のトプコンレンズの意匠は優れていた。ヘリコイドのゴムリングを採用したのも最初だったと思うし、各部のデザインも見た目が良いし、仕上げの梨地も良い物で、かつ使っても悪くない触感があった。 この時点で一旦トプコンはなくなり、そのあと2年後ぐらいにスーパーDM+ワインダーと共に25mm、35mm、100mm、58mmマクロをすべて新品で(私の先輩の人=この人も大のトプコン党=にトプコンの大阪支社に知り合いが居て、直接トプコンから買ったことを覚えている)購入し、仕事に使った。当時仕事カメラと言えばニコンかキャノンでトプコンを使っている人は見たことがない。ワインダー装備というのは新しい形式だが、その当時はミラーメーターの開放測光という機構は、すでに他のメーカーも達成しており、カメラシステム全体の完成度は先の2社が他を圧倒していた。接写(しかも学術系)のみトプコンが多少リードしていたと思う。ともあれ私の選択は私の仕事の範囲では正しかった。結局これが必要な仕事のあった約2年間トラブルがなく、その後休眠に入った後もトラブルはメーターの指示値が少しずつ下がっていく以外全く問題なく今日に至っている。丈夫であることは事実である。

私が最初にトプコンを選んだ理由は、最初のREスーパーの時は単にデザインが良かった事と、人気がなかったのでグレードの割に(一応ニコンF2やキャノンF−1に準じたプロ用のシステムだった。人気・性能ともに高かったミノルタSRTやペンタックスはアマチュア用という認識があった)中古価格が低かったためである。当時学生だったが、プロになるつもりだったので必然的な選択とも言えよう。まさにコーワ6を買ったことと同じような理由である。最初はレンズ2本(20mm.58mm)とボディ2台という奇妙な組み合わせで始まった。経済的な理由と広角レンズが好きで1本だけならワイドという意志である。2回目の選択の理由は、すでにプロになっていたので他でも良かったが、前に使っていたときの使い勝手が大変良く、レンズの性能でも標準は良かったためと、仕事が近接撮影(接写という程ではないが比較的小さな物ばかり撮る仕事だったので近接撮影となる)が多く、定評のあったマクロレンズを信じて買ったのである。事実今度は4本のレンズのうちマクロだけしか使わなかった。性能は満足できるもので、少なくとも同時に使ったロッコール50mmマクロより近接時は良かった。趣味的領域で他のレンズは使った。35.100mmは現在所有しているので後日テストし報告する。しかし25mmF3.5(正式にはREオートトプコール2.5cmF3.5)は個性的なレンズで、その詳細を書いてみようと思う。外見はクローム仕上げで黒の目の細かいゴムターレットのヘリコイドリングというのは同じだが、前玉が大きくハッセルの昔の50mmを彷彿とさせるような先の開いたラッパ型のシルエットである。どうした理由かレンズの前面には2.5cmf3.5と書いてあり、カタログの25mmの表記とは異なる。また変わった点として、フィルターのネジを切っていなく、フィルターはフードにシリーズ9フィルターを挟み込む方法になっている事があげられる。このフードも変わった作りで前から見るとフィルターを納める事もあり、まん丸で画面の範囲だけ四角く窓が開いている。20mmレンズと共用のフードだが、20mmにはフィルターネジは切ってある。何かトプコンが一眼レフを作った頃からモデルチェンジをせずに来たものではなかろうか?(「トプコンクラブ」のHPによると日本初のレトロフォーカスだそうである)レンズ構成は7群7枚でアンバー系のコーティングである。定型的なレトロフォーカスで周辺光量も充分であり、20mmよりは癖のない平均的な描写と言えよう。ただし細かく見ると、中心部はかなり良く周辺に向けて画質が落ちる傾向はある。それとレンズの繰り出し量が大きく、近接15cm位まで近寄れる。短焦点だから少しの繰り出しで接写できるのは当たり前だが、普通は画質の低下を懸念してある程度以上は近寄れない設定になっている。ところがこのレンズは繰り出せ、接写時もそう悪くない不思議な設計である。望遠接写はよく使うが超広角接写は聞いたことがない。もう一つ変わった点として、バックフィルターが標準で、各種のフィルター7枚が付いている。レンズの後枠にバヨネットでつける構造で、これは屈折率の加減で必ず付けなければならない。もし中古を買うなら必ずこの点を確認せねばならない。超望遠レンズや魚眼レンズなど前にフィルターを付けるのが困難なレンズでは時に見かけるが、このレンズは前枠60mm程度で、なぜこのような不思議なフィルターシステムにしたのか全く分からない。少し人気が出てきた一昨年、少し惜しかったが友人の知り合いの中古業者に乞われマクロと共にかなり良い値段で売却した。どちらも今や珍しいレンズである。特に私は道具を大切にするので何年経っても程度は良好である。今は誰が使っているのだろうか・・・。


さて、スーパーDMについて最後に語ろう。いままでREスーパーを使っていたので同じ使用感だが、他のカメラと比べて優れている点のみ記そう。まず好みの問題だがデザインが斬新である。直線を基本にしたデザインで、当時直線と曲線を組み合わせた、それ以前のライカやコンタックスのデザインの雰囲気を残したもの、あるいはメカニカルな印象を与える複雑な形状のものが多かったなかで(無論それはそれで魅力的なのだが)モダンな雰囲気を持っていた(アメリカのデザインらしい。不振の日産の中での少し前の人気車種「テラノ」もアメリカ日産のデザインである。一脈通じるものがある)。そして使用時の特徴はまずシャッターボタンが前面に付いており、手前に押し込むようにレリーズする。メーカーの説明として普通のカメラが光軸に対して横軸に押すが、縦軸方向に押す方がブレにくいと言うことで、これは重いボディと相まって事実である。「カポン!」と少し間の抜けた音がしてあっさりと作動する。シャッターショック自体は当時の標準的なレベルであろう。中判カメラが多くこの方式を採っているのも(最近は違うが)同じ原理である。(電磁レリーズの登場でこれにも決着が付いたが・・・)しかし国産35mm判ではトプコン以外採用されなかった。ベトリと時代は下るがキョウセラのサムライ(このカメラも持っており、説明書にカメラの重心位置に押し込むことによりブレの低減に役立つと書いてあった=偶然ではなく、トプコンと同じく意識して設定されていた)に斜めに押し込むものがあったがいずれも傍流であった。私は当時、ミノルタSRT−101も同時に使っていたので比較もできたが、率直な感想としてトプコン方式の方が良かったと思う。更にワインダー装着で現在主流になったグリップの効果も得られ、ワインダーのモーター部を握ると自然に人差し指がシャッターボタンの所へ行く。つまり普通のカメラより下の位置でカメラを保持することとなる。自然に左手もボディの左下部をライカ式に支えることになる。まずピントを合わせ持ち替えてボディをがっちり支えるという手順となる。普通のカメラのように左手でレンズを下から支える方法よりピント合わせの点で劣ることは言えよう。どうして他メーカーは取り入れなかったのか?理由はこの辺にあるようである。勿論、その後流行した外付けのワインダーにも同じ不便さはあったが、これは現在のワインダー内蔵、グリップ一体構造に収斂される過渡的な形と言えようか?ともあれスーパーDMのワインダーは、開発当時のミラーメーター開放測光と同じく画時代的な発明と言えよう。音で表現すると「カポン!ビュィィ〜ン」である。一枚巻き上げ専用で、早くも静かでもなかった。しかしワインダー付きカメラの先駆けであった。ミラーメーター開放測光といいいずれも画期的であったが商売はうまくないと見え、結局かなりの特許料を得た代わり、カメラの売り上げにはつながらず撤退を余儀なくされた。私は独自性の高いものが好きなので「コーア」「トプコン」を好んで使ったが、いずれも同じ結果となった。やはりいささか古い表現だが「巨人・大鵬・卵焼き」なのか・・・。あとは地味なことだがワインダーにも吊り環用のラグがあり、縦吊りにも横吊りにも使える事がある。これも当時の一眼レフでは初めてと思う。当然私は縦吊りである。M5でも取り入れられたこの方式もどうしたものか一般化しなかった。そして問題点として裏蓋を開けるシステムが不便で、カメラの底部にあるボタンを押しながらひねるのである。動かし方が不自然で底板にあり、三脚使用時に開けられないのとワインダー装着時にも不可能ではないが迅速にはできない。露出計のスイッチのレバーがやはり底板にあり、これはワインダーを外さないと操作不能である。この2点は明らかに欠点である。商品開発の鉄則がある。それは良く売れる商品が良い商品であるというもので、ベストセラーの商品、例えば4WDの中では以前「パジェロ」が圧倒的な人気の車だったが、ユーザーの選んだ理由のトップは「皆が持っているから」である。強い動機を持っている人以外は世間の評判を最優先させるものなのである。そこには取り扱いや性能に破綻がなく、強い個性より普遍的な定格を持っていることが原則といえよう。さほど人気のない商品・製品を選んだ人は、必ず強い動機を持っている。そのようなユーザーの心理を掴めるかどうかで商売の成否が決まる。良い物は必ず売れると言うような素朴な議論では語れないのである。それでも多様なカメラが存在するのは技術者、そして経営者の見識というものであろう。技術の進歩とともに社会も進歩しユーザーの要求も変化する。その変化に対応する力を残すためにも、売れなくても多様な開発はなされるのである。トプコンは私のコマーシャル写真の時代の記念品のようなもので死ぬまで持っているだろう。今持っている35mm、100mmは新品とおなじである。こんどきちんとテストしてみよう。

追補*1  メーターはファインダー内の下部に指標があり、やじろべえ式の指針で定点式で合わせるのだが、もう一ヶ所ボディ上部巻き戻しクランクの横に同じメーターがある。これはウエストレベルファインダー装着時に使用するもので、理にかなった方式である。ボディに受光素子のあるミラーメーターならではの設定でもある。応用として深度を利用したスナップにも便利である。つまり露出をカメラを覗かずに設定し、ピントを目測で合わせ、タイミングをみて、「その瞬間」いきなり構えて写す。私はこの方法をよく利用した。露出も勘で合わせるのが良いのだろうが・・・。実のところ私でも90%は勘でOKなのだが、肝心な時に外すのが人間である。

追補*2  REスーパーと異なり直読式だが、絞り値がファインダー内に表示される。そのためペンタプリズムの「おでこ」が1.5cmほど前にせり出し、REスーパーのデザインからはやや不細工になった。あとマウント部の向かって右横に三つの突出物があるが、上から絞り込みレバー、レンズバヨネットロック解除レバー(ボタンではない)、ミラーアップレバーである。作動はどれも確実で問題ないが、ワインダーを外して左手でボディを下から支え、レンズに指をかける一般的な持ち方だとミラーアップレバーが掌に当たり、少し不快である。やはりワインダー装着でちょうど良いレバー配置だろう。シャッターボタンもワインダーを外すと、普通に構えたとき中指でシャッターを押すのがちょうど良く(私も実際そのようにして撮る)、同じ事が言える。

追補*3  今回のテストで取り出して、もう一度詳しく見てみた結果、別の問題点が見つかった。ずっとワインダーを装着していたので気が付かなかったが、ワインダーを付けたまま三脚に取り付けるときは、ワインダーのバッテリー部を下方へ折り曲げると三脚ネジ穴がある。これはあくまでワインダーの三脚ネジ穴でボディ側のはワインダーの取り付けに利用されている。さて問題はこのワインダーのネジ穴である。精度、強度は問題ないがスペースの加減で奥行きが薄いのである。従って三脚のネジは浅くねじ込みロックせねばならない。深くねじ込むと上に抜け(何の障壁もなく、ネジ穴は上に抜けている)ボディの底板に到達する。これは真鍮のプレス板でできているため、当然に凹む。実は私もワインダーを外してみて初めて気が付いた。私は重量軽減のため、今後はワインダーを外して使うこととしよう。シャッター速度は高速でやや遅くなっているが、常用の範囲では問題ない。勿論シャッターむらもない。もう一つ役に立つ話。現在露出計の感度が鈍っているが、その対策をひとつ。今の輸入物のHDバッテリーは1.5Vで当時のHDは1.35Vとやや低く、結果として今のバッテリーを入れると針が多く振れ、感度の低下を完全にカバーした。勿論低い電圧の設計に少しとはいえ高い電圧をかけるのだから皆に勧められることではない。逆に完動品のM5に今のバッテリーを入れると振れすぎることも解っている。この場合はアダプターを介してSR-44かLR-44を装着してちょうど良い。各種出ているが1.35Vに近い値になるようである。ともあれ約15年振りに撮ったとしては良好な結果である。詳細は後日の報告とするが、テストの結果35mmと100mmのレンズは良好な成績を残した。逆光にさえ気を付ければ現代のレンズと遜色はないことも解った。そもそもトプコンクラブのHPを見て(相互にリンクさせていただいている)久しぶりに取り出して、テストのつもりが惚れ直したというのが実感である。ボディナンバー 7220778 のスーパーDMである。  

REオートトプコール58mmF1.8  1975年秋、同級生「KAE」の写真。

別のネガを発見できたのでもう1枚...1976年。

少し絞って撮る。すさまじい描写力だ。58mmF1.8

上と同じシーンで絞りを開けた状態。

私の部屋の窓辺で。コシナからトプコン・レプリカレンズが出て少し忘れかけていた熱が蘇ってきたようだ。折りもおり「見透かしたように」REオートトプコール58mmF1.4のオリジナルがやって来た。とても綺麗なのとフード/キャップまで付いていたため「天使は舞い降りた」のである。またしばらくは使ってみよう。

とにかく巨大なレンズである。当時の技術では58mmF1.4のスペックでは(焦点距離も少し長いと造りやすい)このぐらいにならざるをえなかったのだろうか(62mm径)。ファインダーから覗いて見ただけで軟らかいのが分かる。私の手元に残っていた35/100mmレンズと同世代のレンズなので、おそらく色味や味付けが同じと予想される。

カメラケースを整理していて久々の対面…どうもフィルムカメラは眺めるだけの存在になったようだ=残念だけどシゴトとしての写真から上がるまでフィルム撮影はお休み(^_^;)

参考文献
「クラシックカメラ専科 45」−私のトプコン物語−河瀬澄之介 朝日ソノラマ
「カメラ毎日別冊 カメラ・レンズ白書1979年版」毎日新聞社
「1999−2000 カメラこだわり読本」P40-41 毎日新聞社
その他、私のHPのリンクコーナーにトプコンの専門のHPがあるので参照されたい。

*トップの写真。細かなアクセサリーは別にして、現在の私のトプコンセットである。スーパーDMボディ、ワインダー、REオートトプコール35mmF2.8/58mmF1.4/100mmF2.8...用品箱の隅から当時使っていたネックストラップ(長さ調整ができない代わり丈夫でシンプル=環がグルグル回るのでストラップが捻れることもない)を取り出して着ける。板バネで止まっているので、これだとワンタッチで脱着ができ、ワインダー装着時に縦吊りに簡単にできる(その代わりボディの角は傷だらけになる)。

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