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キャノン NEW FD 24-35mm F3.5 L

この種のシリーズのFDレンズの最終型となった、20-35mmのアスフェリカルレンズのひとつ前のレンズである。発売は20年以上も前に遡り、旧型のFDマウントの最終型で製品化されたものである。価格は発売当時でも12万円を超え、国産レンズとすれば超高級と云えよう(ちなみにその頃のライカのズミクロン50mmで買値が10〜12万円程度)。私は次の型の20-35mmとの入れ替わりの時期に慌てて買った記憶がある。と言うのも性能的にも当時のワイドズームの限界としてズーム比を大きくするとよくない結果がでることが多かったため(従来から評判の良かったこのレンズには目をつけていた)と言うことと、フィールド写真を多く撮る私にとって、一本でワイド域をカバーできるレンズが必要だったこと(実際、雨天時や降雪時、山中や海浜などの野外で撮影するとき何本もレンズを持ち、更にそれを交換することの煩わしさとリスクは想像以上である)、20mmレンズはほとんど不必要(単焦点で20mmをもっているが、二度しか使ったことがない)であること、そして最上級の描写を望んでいたこと、最後にこの頃それまで使っていたトプコンカメラからキャノンに代えつつあって、まだボディのテスト段階でレンズは少ししか持っておらず、計画的に購入できる条件にあったことなど、様々の理由が重なって買ったのである。おかげで少々安くも買えたし、結果は以下のとおり良好なもので、私が今までで一番多くシャッターを切ったレンズとなった。性能のみならず、これだけ酷使したにもかかわらずガタひとつでていない。非球面レンズという特徴のみ評価されているが、部品一つ一つの精密さや組立技術の高さがもっと評価されて良いと、長年使ってみて感じている。道具としての使命は性能だけでなく耐久性や確実性も求められると考えている。その意味も含めて今まで使ってきた200本ぐらいのレンズの中で最高のもの(画質だけのことではなくフィールド用として)と思うのである。今はキャノンがマニュアルカメラをやめたこともあり、ライカを主力で使用しているため、防湿保管庫でしばしの休眠に入っている。

*特徴
大きさは、86.3X76mm 515g とワイドレンズとしては大振りだが、レンズ3本分と考えればさほどの苦にはならない(当然、T90やF−1等の大きく重いボディとのマッチングは良好)。全体のデザインは同時代の35−105mmや80−200mm等と同じである(もうひとつ50−135mmや70−210mm等、別系統のデザインもある)。回転ヘリコイド式で、ズームも回転リングによる操作となる。レンズの前からピントリング、ズームリング、絞りリングの順に配置され、各リングは巾や表面のターレットの仕上げを変えており、操作の間違いは起こりにくい。当然にコストがかかった作りと云えよう。色は全て黒で、鏡胴の先端にLレンズの印として赤いラインが引いてある。旧FDマウント時代はマウントリングのみが銀色で、それ以外は同じように見える。しかし、レンズ構成は同じとしても、コーティングは見ただけでも少し違うようで、少数生産だけにカタログデータとは別に少しづつの改良がなされているようである。
次に操作性を記すと、どのリングをとっても、やや固い目のセッティングとなっており、人によってはキャノンのボディなどにも時折みられるギクシャク感とも感じられるかも知れないが、私は誤操作を防ぐ意味でも好ましいと思うし、かつ操作感は20年近く使っても多少軟らかくなっただけでそう変わらないことで、このレンズの機械的な精密度の高さを感じる(古くなり、使い込むとリングの回転がスカスカになったり、ガタがでたりするものが多い)。もう一つ特筆すべきは、このレンズに限った事ではないが、NEW FDマウントである。旧マウントはスピゴット式でレンズをセットした後レンズ側のマウントリングで締め付けるという作業を必要とし、ワンタッチのレンズ脱着はできなかった(私が以前FTbの時代にキャノン購入を諦めたのもこれが理由なのである)。マウントを新しくする際にボディ側のマウントを変えず、レンズ側を変えて、他メーカーと同じにワンタッチ式脱着の方式に変更したのである。更に脱着のロックボタンがレンズ側にあるため、片手で脱着の操作が(他メーカーではレンズを外す時はロックボタンがボディ側にあるため両手をつかう)完全にできるようになり操作性は格段に向上した。設計陣の工夫と努力が物をとおして伝わってくる。この時代、キャノンはカメラメーカーとして全盛の時代だったのではないかと使い手側からみると感じられる。ボディをとってもA−1、NEW F−1、Tシリーズ(50.70.80.90)と意欲的に開発していた時代である。私はこれらを全て使ったが、やはり完成度の高さと技術者の熱意が伝わってくる良いマシンと云えよう。T80でのオートフォーカス化での競争でa−7000に敗れ、EOSの開発へ全力を注いでいくようになって、私のカメラの領域(マニュアルフォーカス=他の自動化は納得できる物もあるし、オートを解除して使うことも選択できた。オートフォーカス機でもマニュアルにできるが現実的には不可能)から消えていったのである。AF時代に対応することは問題ない。しかし、ニコンのやり方を選択できなかったのだろうか?EOSの成功は認めるし、私も時にはEOS−1のやっかいになっている。しかし一方で生産をEOSのみに集中したために修理や調整に問題が生じている。T−90のアイピース(ゴム製)が製造中止後5年しか経たない時期に、もうないのである。補修用のパーツに不足があることは周知の事実となっている。キャノンファンとしては寂しいかぎりである。いまやキャノンはコピーやファクスのメーカーなのである。
さて、その写りについて記そう。ただし結論を先に述べると、ほとんど非のつけどころがないのである。どの焦点距離でも開放からF11ぐらいまでほとんど変化無く(シャッター優先の考え方の強いキャノンには有効なことである)、しかも解像力やコントラストなどの描写性能は単焦点レンズを凌ぐもので(私も千葉大学工学部のテスト結果を見てこのレンズを買ったのだが、私はあまり雑誌等でのテストデータを鵜呑みにしない事にしており、信じられずに実際にFD28mmF2と比較のテストで、この結果を納得した。おかげで28mmはテスト時の一度しか使っていない。そしてその後千葉大学のテストだけは信頼している。その後もレンズやボディの購入に参考にし続けてきたが全てといっていいぐらい「当たり」である。余談だが、千葉大学御用達の「カメラ毎日」が1985年に廃刊になったことは残念である。何時の日か復刊して欲しいと思っているのは私だけだろうか?)フレアやゴーストの出方も極めて少なく、フードすら取り付けずに使用してきた。広角レンズにありがちな周辺光量の低下も実用上問題なく、色彩の再現にも癖がない。また、ズーミングによる焦点移動も全くなく、精密なズームレンズの撮り方のひとつである、長焦点でピントを合わせて、ズーミングでフレーミングするというテクニックも安心してつかえる。現在の発達したズームレンズでは当然のことだが、当時は焦点の移動のある製品が結構あって、特に深度の浅い望遠系のズームレンズでは深刻なことだったのである。現在でも開発の最前線ではまだまだあるようで、あえて品名は出さないが、どうしても必要があって28−200mmのレンズメーカーのレンズを買ってテストするとこの現象がでたり、焦点距離によって描写が変化−それも悪い方に−したりして、まだまだ改良の余地は沢山あるのかと感じた。勿論、レンズメーカーだから悪いのではない。28−200などと云う今の技術での最先端での現象であろう。むろんコストの問題もあるだろうし、カメラメーカーがこの手のレンズをなかなか出さなかったのもその辺が理由なのだろう。弁護するが、15年前に買ったタムロンの35−70mmF3.5の「17A」\39000という商品は、キャノンの同じズーム比のレンズF2.8 \108000 と比べて、テストの結果、明るさが少し暗い以外は遜色がなかった。
もしキャノンユーザーなら、このレンズを中古で買うことを勧めたい。なかなか数がなく、見つけるのが難しいと思うが、あれば買って後悔はしないと思う。なお、このレンズの後継機種として作られた20−35mmLレンズ は更に高価なレンズで中古価格もおそらくまだ高いだろうし、私自身でテストしていないので断定的なことは云えないとしても、伝え聞くところによると、24-35mmをしのぐ性能ではないようである。しかし資金に余裕のある人は試してみるのも良いだろう。製造を止めてから日も浅いので程度の良い物も多いだろうから...。
ボディはたくさん種類があるので、また別途解説するとして、上記のようにワイドはズーム1本でカバーし、あとは標準系のズーム、望遠系のズームと3本(ちなみに私は、24-35F3.5. 35-70F2.8 .80-200F4 とそれぞれ10万円以上の価格だが、この3本で90%の撮影をした)あればほとんどの撮影がこなせ、少々高くついても単焦点レンズを6−8本持つ事を考えると、性能さえ確保できたら良い選択だと思う。フィールドカメラマンである私も結局そうした。皆思うことは同じと見えて、そののち現在のズーム全盛の時代が到来したのである。そうなったら、ひねくれ者の私はライカやツァィスに関心が移行していくのも時の流れである。EOS−1を何年か使ってみて、誰でも一定の投資をすれば最良の写真が撮れる時代になったことが分かったのである。勝負はあった。私も最後の抵抗として、コンタックスRTSVを購入し挑戦したが、マシンとして見たとき到底EOSにはかなわない。趣味的なことは別として、もうマニュアル専用の1眼レフが戻って来ることはないだろう(マニュアルもつかえるという位置づけでのみ生き残るだろうが)。勿論、機械の性能のみでよい写真は撮れるものではない。しかし感性や経験も大事な要素だが、形が無い分「あて」にならないものなのである。さらなる創造の地平を求めて、別の可能性に関心が移行するのである。さらにしかし、それに試行錯誤の末、到達すべきものであって、最初からライカやハッセルブラッドを使ってもたぶんその良さを発揮できないだろうし、へたをするとコレクターになってしまうかもしれない。コレクターも悪くないが(私もある意味でコレクターとも云える)、このページはこれから写真を始める人や趣味で写真を撮っている人、研究者や技術者などで写真を撮る必要のある人に資するものとしたいので、とりあえずコレクター的な発想はなるべく除外したいと思う。次回以降はしばらくライカ系のカメラ・レンズに論議の中心を移す予定である。

越後荒川にて、アユのゴロビキ漁。T90+FD24−35mmL+PKR

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