距離計連動ファインダーのないライカ系カメラについての当惑 1999年3月、発売後すぐのコシナ=フォクトレンダーベッサLを買った。カメラの開発〜発売の企画としては特異な気がした。ライカマウントレンズ−カメラの開発は取りざたされていたが、カメラの歴史や機能を考えてみると、ヘキサーRFのように現在の技術で可能な限り高機能のカメラを開発するのが一般的である。このカメラは「アサヒカメラ」2000/4の赤城耕一著:『カメラな気分−だから「買ってもいい」ライカMDのへ理屈!』−に書いてあるとおり、特殊なライカ系のカメラなのである。まずボディにもレンズにも距離計連動の機能がない。AEもなければモーターも入っていない。作りやすいと云ってしまえばそれまでだが、一年後に発売されたベッサRの距離計連動ファインダーの完成度を見ると、当時の技術の限界というより、コシナの開発の戦略がみえてくる。コシナの社長や技術者は「ライカは神様・・・」と述べているが、ライカイーターとなる計画は当初からはっきりとあったのであろう。これまでも各社のOEMでボディ・レンズを生産してきた実績・技術の蓄積がものを云い、出した当初から今まで破綻のない商品を作り続けており、今後の期待も高まる。実は私はフォクトレンダーブランドのボディ・レンズはすべて購入しており、その上での現状での結論である。まず特殊なカメラである距離計のないボディを超広角専用として出し、あわせて15mm.25mmの非連動のレンズを開発した。長く続いたライカブーム、限定品とはいえ各社の出したLマウントのレンズの売れ行きなど、状況は煮詰まっていた。特殊なカメラで話題の割には使っている人はあまり見ないが、その値段とあいまってかなりの台数が売れたようである。みんな待っていたのである。レンズはライカその他の超広角は高価でコシナの値段なら誰でもが安いと感じたはずで、実質的にはこの2本のレンズはたいへん役にたったであろう。レンズメーカーのレンズとしては特段安くはないが、なにせライカマウントと考えると比類のない値段である。あえて21mm.28mmを出さなかったのは、すでにアベノンからやはりリーズナブルな値段で出ていたことによるのではないかと思ったりした。私のカメラ談義のアベノンのページで述べたとおり、アベノンもまた合格点のレンズである。その後35mm.50mm.75mm.そしてまた35mmの開発でも妥当な値段で高性能なレンズを供給している。更に今回のベッサRの登場(これは遠からず必ず解説する)。噂としてさらに次の機械が(AE化は当然としても、Mマウントであるとさえ語られている)計画されているようだ。レンズは90mmF3.5が近日中にでるだろうし、28mm.135mmなどライカのフレームのある焦点距離のレンズがいずれ出てくる事は必定であろう。そしておおむね営業的にも好調と聞いている。ヘキサーや過日のCLEのように28.50(40)90mm、ボディ、ストロボなどが出て終わり・・・という戦略(ヘキサーはそうならないかも知れないが、期待できそうな雰囲気はあまりない)とはまったく異なり、かつてのキャノンのようなライカマウントの王国を孤高を保ちつつ作るつもりなのではないだろうか?勿論、主力はOEMである。よく売れているのに末端の店頭にはなかなか届かない(カラースコパー35mmCのシルバーやVCメーターのシルバー、ベッサRブラックがなかなか入らなかった)のもその人気だけではなく、OEMをおろそかにせず、しかし独自なカメラの領域を占める覚悟であり、かといって急激な事業の拡大をしない適応戦略が働いていると思う。コシナにとっては私たちユーザーもお得意さまであるのと同時に、大手各社も大切な得意先でもあるのである。雑誌の記事で意外(実は予想はしていた)にもレンズのガラス溶解から完成品まで一貫して行っているのはニコン、ミノルタ(この2社とて全てのレンズをそうしているのではない)そしてコシナの3社のみである点である。今日(2000/6/10読売)の新聞によるとデジタルカメラのシェアは、なんと40%がサンヨー製であり、勿論ほとんどがOEMでオリンパスもサンヨーで作っているのである。ライカファンなどに強く見られる純正主義は私たちの知らないところで、ほとんど意味をなさない状況になっているのであろう。そのような中でOEMによる技術の蓄積と経営の安定を基礎として、得意先とバッティングしない領域で独自性を出す試みをしたことを高く評価したい。そこが大手のメーカーが散発的に出すのとは異なり、システム化、シリーズ化につながっているのではないだろうか?結果としてライカ系のレンズ・ボディ他の選択肢が増え、安価で優秀な製品が入手できるようになった。まだ価格、性能以外の面=デザイン・使い勝手にはひと工夫(後日別稿で述べる)必要だが必ず達成できると信じている。 さてベッサLの解説に移ろう。新しいカメラであり、話性もあったため各誌で取り上げられているのでそれらを参照しつつ読んで欲しい。ちなみに私の手元には「アサヒカメラ 1999/7 ニューフェイス診断室」がある。私もこれを意識しつつ書き進めて行く。 さて使ってみると母体となった廉価版の一眼レフと似たようなもので、取りたてて違和感はない。ファインダーを取り付けるためにアクセサリーシューはホットシューではなく、ストロボはボディ左横のX接点につなぐ。セルフタイマーも機械式でレバーを倒し、シャッターボタンを押すと10秒程度でシャッターが落ちる。ISO感度の設定ダイアルは巻き戻しクランクの基部にあり、露出補正の機構がないため、必要時はこれを使うことになる。裏蓋を開けるには巻き戻しクランクを引き上げる。簡単に開く。DX対応はしていないのでフィルム感度をセットする。フィルムを装填するのにも特別なことはない。オートローディングではないため最近のカメラしか扱ったことのない人にはやっかいかも知れない。私の年代では普通にできることだが・・・。フィルム室にパトローネを入れ、巻き上げスプールのスリットにフィルムの先端を差し込む。巻き上げレバーで少し巻き、弛みを取りつつフィルムのパーフォレーションをギアに噛ませる。裏蓋を閉める。更にパトローネ内の弛みを取るため巻き戻しクランクを時計回りにゆっくり回す。止まったところで空シャッターを切り、フィルムを巻き上げる。このとき巻き戻しクランクが逆転すればOK。これだけのことである。巻き上げレバーを少し引き出すと露出計作動のロックが外れ、シャッター半押しで測光する。ただし押している間だけ電気が流れるため、シャッター優先の制御しかできない。ベッサRでは押した後10秒ほど測光し続けるように改良されており、操作はしにくいが一応両方とも優先で測光できる。ベッサLではあらかじめシャッター速度を決めておき、絞りの操作で適正を得る。測光はTTLシャッター幕面ダイレクト測光で、見たところはTX−1、ベッサR、ヘキサーRFと同じである。適正露出の表示はファインダーの左下のボディの角に三点の発光ダイオードがあり、真ん中の緑が点灯したら適正となっている。近すぎてファインダーを覗きながらの操作だと全く表示には眼のピントが合わないが、緑がつくことは当然よく分かり、みかけよりは見やすいと言えよう。測光レベルはややアンダーだが、それは克服は可能としても測光するときの動きは結構神経質に変化し、多少の慣れが必要だろう。そしてシャッターを切る。ここでの注意は露出計のスイッチと同じく巻き上げレバーを少し引き出すことがシャッターロックの解除にもなるため、レバーが引っ込んでいるとシャッターが切れないことになる。露出を計りながらシャッターを切るならよいとしても、それ以外の撮影方法には不向きで、一般的な設定とは言えず不便と言えよう。このためベッサRではこのロックは廃止された。シャッターはショック・音ともに大きく、ここら辺に普及機の改造版の印象を感じる。とは言え撮影に影響があるというほどでは当然になく、合格点の範囲内と言えよう。フィルムカウンターも伝統的な機械式で今時のカメラとしては好感さえ持てる。好みの問題と片づけられるかも知れないが、ヘキサーやTX−1が液晶表示に頼っているのはどうしても好きになれない。外付けの15mm.25mmのファインダーは周辺にタル型の歪曲収差がかなりあるが見え方はシャープで良好と言えよう。ただし少しでもレンズを斜めから覗くと極端に画質が落ちるし、見える範囲も大きくずれるので注意が必要である。それとファインダーの足の部分もプラスチックでできているので無理な力がかかると破損の恐れがありこれも注意。さて撮影が終わるとボディ底の小さなボタンを押し、巻き戻しクランクでフィルムを巻き戻す。特に記すことはない。 さて15mm(変形ビオゴンタイプ)レンズはパースの誇張が大きく使うのは難しい。25mm(ビオゴンタイプ)の方が一般的に使いやすいレンズと言えよう。レンズのシャープさは充分だが、比較の対象を持たないため評価は難しい(ホロゴンは使った事もないし、知人にも所有者がいないのでテストは不能=一眼レフ用のレンズと比べるのも適切とは言い難い)。コンパクトで軽く、頼りない印象があるが実力はある。中心部は極めてシャープでコントラストも高く、かなり固い描写である。レトロフォーカスではないが、思ったより周辺光量の落ちも焦点距離の割には小さく(リコーGR21の方が落ちが大きい)、周辺の像の崩れも比較的緩やかである。遠くのものは小さくなって細かな解像は分からないが、近距離で比べると25mmよりピントが細かいと思う(雑誌では異なる見解もある)。絞りによる描写の変化も感じられず癖はない。25mmも癖はなく、15mmより更に周辺の光量の落ちや崩れは僅少で安心して使えるレンズである。ただし15mmと異なり半逆光時の絞りの開いた状態では少しフレアが出て白っぽい絵になることがある。抜けの良さでは15mmである。距離はどちらも目測となるが、深絞りにして被写界深度を利用して撮るような乱暴な撮り方は、どうしようもない時以外避けた方がよい。やはり目測でもなるべく正確な距離で撮ろう。被写界深度は例の1/30mmの許容錯乱円の理論で作られた基準であって、以前にも書いたとおり本当はピントは一点に合い、許容範囲内であってもピントの芯が最もシャープになることは間違いがない。と同時に最近のレンズはあまり絞らず、開放値から二段絞った程度が使い頃だろう。その意味でも絞って深度で撮る習慣は好ましくないこととなる。写真では写っていないが25mmはシルバーにした。レンズはボディと違いシルバーも悪くないと感じる(少し仕上げが異なる)。それに25mm(最近出た35mmCタイプも)は一連のシリーズの中でもデザインが良く、シルバーで明度が上がってもまのびしないのでそのようにした。 ベッサRが出た今となっては、Lの存在はますます特殊な位置となった。スーパーワイドレンズもRに取り付けても問題なく撮れる。ライカのMDなどと同じ、いやビゾが付かないので更に特殊な超広角専用のカメラとなったのである。実は私もカメラを前にして思案している。フィルム2−3本撮った後ずっと考えていて答えが出ない。しかし単能に徹した魅力あるカメラであることに違いはない。また赤城氏の「買ってはいけないライカ」=ファインダーのないライカについての論考に戻るのである。氏も結局MDにスナップショットスコパー25mmを着けて写真を撮ることになったようである。 村祭りの帰り道。 |
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