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フォクトレンダー ベッサR

コシナの挑戦

今回はマニアの間で賛否両論のある、しかし実用の機械と考える人には歓迎されている、コシナ=フォクトレンダーのベッサRについて解説しよう。
 私自身は使ってみて、抜群のコストパフォーマンスを感じた。戦後の第一次ライカコピーブームの時と違って単なる真似ではなく、一定の基準を設けてみてみると別のムーブメントと思われる。これはヘキサーRFやフジTX−1などにも当てはまることであろう。確かにマウントやレンジファインダーなど基本機能を見ると「ライカブーム」で片づけられるように思われるが、実は別のカメラなのである。広くて深いライカワールドの遺産を継承しつつ、戦後と違って遙かにドイツを越えた技術力をもって登場した、新しいジャンルのカメラと考えている。フォクトレンダーのネーミングについて議論が集中しているようだが、営業政策上必要なことだったのだろうし、フォクトレンダーの名前が永遠に消えてしまうよりは遙かに良いことだろう。逆にフォクトレンダーの議論から私はオリジナルフォクトレンダーに興味を持ち、色々研究して「ビトマチックU」をついに購入することになった。確かにオリジナルには良いところが沢山あり一言では語れない魅力を持つことは事実である。しかしフォクトレンダー社が倒産したのち紆余曲折があってコシナ(だけではないが)に落ち着いたのである。良いことではないか・・・あとはオリジナルに負けない製品の開発を続けて欲しいと率直に思う。私は今のところ「ベッサL」の位置づけだけを思案しているが、それ以外は何の矛盾もなく受け入れている(ただし12mmは、良くも悪しくも答えはまだである)。レンズの解説は後日とするが、購入予定のある人も多いであろうから「ベッサR」の解説となったのである。まず外から見ると、ベッサLに(と云うことはコシナのOEM商品の一眼レフCTの改造モデル)距離計を付けた体になっている。ボディ色は黒と白があるが、私はベッサLと同様ブラックにした。レンズマウント基部が黒で、クロームだとこの部分が目立ち、さらにブラックは普通だがクロームはやや光沢が強く私は好まない。しかし友人はクロームが良いと言って、ズマリットとカラースコパー35mmのクロームと合わせて使っている。これは好みの問題としか云えない(どうも色々理屈をつけるが、単純に私は黒が好きなようである−M5でもM6でも使うのは黒)。そしてなぜか私はブラックボディにクロームレンズの組み合わせが落ち着くのである。レンズやボディを両方の色から選べるというのは嬉しいことである。撮影するのに「気分」の問題は大きいと思う。その意味で今回のRはLの時と違って、そう言う「趣味性」をくすぐる企画が随所に感じられる。ブラックを選んだもうひとつの理由に巻き上げレバー・巻き戻しクランクがクロームになっていることがあり、普通はこれも黒にするところだが、明らかにデザイン上のポイントになっている。どうもこれは私の好みに合っているだけではないらしい。私はRのブラックボディとカラースコパー35mmCのクロームを発表と同時に注文したのだが、先に店に来たのは白のボディと黒のレンズだった。そのためボディは2−3週間待ち、レンズは黒にすることになった。VCメーターも白が入荷しにくく、「好み」に統計的傾向があるのではないかと思う。
 デザインは巻き戻しクランクの機能と形状にあわせた肩の落ちた良い意匠だと思う。これの機能と形状にも趣味性が感じられ、実用一辺倒でないことが分かる。使いにくいとの批判ももっともだと思うが(私も使いにくい)より使いにくいベッサLのものと比べると誰でもRのものを選ぶだろう。ものごとの判断には「一般化」と「特殊化」があり、どうやら「特殊化」が趣味性につながり、人をして愛着に至らしめるのではないだろうか?なにやら秘密めいた「儀式」が必要なのである。高級機は別として大衆的なモダンクラシックカメラの人気度は、基本的な機能・仕上げの良さもさることながら「特殊性」「独自性」にあるのではないだろうか。私の持っているこの手のカメラに「レチナ3C」「ビトマチック2」「キエフ4」があるが、どれも性能や仕上げが程々に良く、それでいて何か他とは違う「儀式」の必要なカメラなのである・・・。
 話を戻して、少し不満な事はロゴも含めて文字や記号の表示が全て(ロットナンバーとMADE IN JAPAN を除いて)印刷で、ボディ外装はプラスチック(中身は当然アルミダイキャストである)なのだから多少のコストアップはあるだろうが、凹か凸かで浅くても良いから立体的にして欲しかったと思う。またボディの貼り革(合成ゴム製)がLと同じく少し浮きぎみで、押すと僅かに動くこと、吊り環が丸くて頼りなく(私はストラップと共に、写真のように変更している)、更に機能にも関係ある大事な事だが、せっかくの美しいファインダーに埃が進入しやすいことなど要望は少なくないが、まずは開発・販売してくれたことに感謝しよう。でも次のモデルではグレードも上がるだろうし、もっと辛口な見方になるだろう。
 さて使ってみよう。例によって左右の区別は撮影者側から見た表記である。サイズはW135.5XH78.5XD33.5mmでM6TTLと似たような大きさである。ただし重さは395gとM6TTLより200g以上軽く、サラサラとしたボディの質感と相まって軽快である。裏蓋は巻き戻しクランクを起こし、引っ張り上げるとあっけなく開く。材質はフィルム圧板と開閉ロックピン以外はプラスチック製で少しガタがあって頼りないが、閉めると微動だにせず精度はとれている。フィルムはイージーローディングではなく一昔前のカメラと同じく、巻き取りスプールにフィルム先端を差し込み、フィルムのパーフォレーションを送りギアに噛ませて蓋を閉じた後、空シャッターを2カット切ると(この時巻き戻しクランクの真ん中の赤い点が回転していると空回りしていない事になる)終わりである。ヘキサーRFやフジTX−1に比べると手間とコツが要るが、難しいわけではない。要するに「儀式」であり、M3と同じくその完結が赤点の回転である。感度設定はDXではなく、これも一昔前のカメラと同じく、シャッターダイアルを持ち上げて回し、表示窓に感度を設定する。ISO25−3200で1/3刻みである。露出補正機能はないので、実効感度の低いフィルムを使うときはここで加減する。フィルムの巻き上げはLから改良されて少し軽くなった。しかしまだ固めで、かつギクシャクした動きである(おおむねM6と比較しているので、少し割り引いて読んだ方が良い)。小刻み巻き上げはやはりできない。そしてLでは巻き上げレバーを少し引き出すことで露出計のスイッチが入り、この状態でないとシャッターが切れない設定であったが、Rではより一般的になり、露出計のスイッチはシャッターボタン半押しで、シャッターレリーズはチャージされていればどの位置でも可能となったのである。意匠は特殊に機能は一般的にと言うことであろうか。
 露出制御はシャッター優先(シャッター速はB・1−2000、シンクロ1/125で充分の機能である)のマニュアル測光である。まずシャッター速度を設定し、シャッターボタンの半押しで露出計が作動し始め、赤い発光ダイオードが点灯する。左はアンダー(−表示)中央は適正、右はオーバー(+表示)とM6TTLなどと同じような簡単で一般的な方式である。ここにも少しの問題点がある。半押しで作動するのは良いのだが(実測で12−3秒間作動する)シャッターを切った後も点灯し続けるのである。実害はないが間が抜けて、なにやらコストダウンの影を見いだせる。「アサヒカメラ2000/5」のテストによると露出計の設定は1/4アンダーに寄っていると書いてあるが、私のはほぼ適正である。ただしヘキサーなどと同じく、メタルフォーカルプレンシャッター幕面(実際はその外側の保護膜)の中央の反射部でのダイレクト測光はやや神経質な動きをするようだ。つまり中央部重点測光と云っても、なだらかに周辺に行くにしたがって感度が落ちていくのではなく、測光範囲を外れると急に落ちてしまうのである。これはヘキサーでもTX−1でも(当然M6でも)似たような傾向がある。
 次にファインダーを見ると接眼部が四角く大きいので見やすい。そして接眼窓にスリットが切ってあるので、今は発売されていないが視度調整用アダプターが簡単に取り付けられるであろう。中を覗くとブライトフレームが浮いている。率直に言って、このファインダーは「素晴らしい」と思う。明るさも充分であり、フレームもファインダー像・距離計像も隅々までクッキリとしており、ハレもゴーストも出にくく、まったくと云っていいほど破綻がない。M6と比べても勝るとも劣らない。思い切って云うと距離計窓のハレが出にくい分、ベッサRが上と云えよう。ファインダー倍率もM6の0.72と比べると0.7とほぼ同じである。ヘキサーの0.6よりは見やすい(像のシャープさも一段上)。その代わり28mm枠は省いてある。距離計の基線長は37mm(M6は69.25mm)と短いため望遠には不利となるのだが、フレームは90mmレンズまでと、これも割り切っている。つまりレンジファインダー機の命はファインダーの見えにあるのだから、これを充実させてコストや品質に無理が出ないようにフレームの両極の28mmと135mmを省いたと言うことである。まことに良き選択である。私はすべての撮影をライカでするため、28−135mmまで使うが、一般的には不必要で、この選択で良いだろう。そして必要なら28mmはフルフレームとほぼ同寸であるし、ボディを2台持つ(例えばヘキサーRFとベッサR=ヘビーな一眼レフボディ1台とRF機2台で同じぐらいである)ことでも、また外付けのファインダーでも対処は可能である。距離計像部はM6のように四角ではなく、TX−1と同じような両側が丸くなったタイプである。二重像合致式でも上下像合致式でもピント合わせは確実に行える。ここで気を付けねばならないことは、フレームは手動で切り替えないといけないことである。そんなことはないと思うが、ライカMに慣れていると時に失敗するのである。ボディ上部のレバーで切り替えるが(50−35・90−75=組み合わせもMとは異なる)切り替えそのものは節度があり問題ない。ピント合わせはM6と大差なく上等である。そしてあまり意識されていないが、基線長が短いという短所は長所ともなる。基線長の短さにより距離計窓とファインダーの視差が小さく、近距離ではピント合わせが容易になるということである。試してみるとよく分かることだが、実用的に云うと近距離のしかも奥行きのある線は基線長が長いと距離計像でピッタリ合わず(点で合う)、短いと合いやすい(線で合う)と云うことである(ピント合わせの精度が高いのではない)。更にピント合わせでの注意点がふたつ。ボディ右下部に古いタイプのレンズに対応したインフィニティストッパー用の「逃げ」があるが、ひとつめの問題点として、写真のニッコール35mmF3.5では無限遠から動かすと切り欠きの終わりの所(下側)で当たってしまうのである。勿論その場所で力を緩めるか一旦指を離せば良いのだが、実写では簡単には行かない。使ってみると分かるが、ピントレバーのボタンを押しつつ回転させるので簡単ではないのである。ライツやキャノンのこのタイプのレンズではややボタンの足が短いので問題なくクリアするのだが、ニコンは少しだけ長いのである。他のレンズでもそのような「つっかえる」ものがあるだろう。無理に使い続けるとボディが傷つくだけでなく、「足」が折れると大変である。もうひとつの問題点は、ロシアンLレンズのインダスター50mmF3.5は(他にもあるかも知れない)インフィニティストッパーがライツのレンズのように7時の位置になく8時か9時になるため、Rの切り欠きの上に位置してしまい、ボタンが押せないためストッパーから外せず使用不能となるものがあるのである。往年のLマウント機(VFやキャノンPで確認している)ではフランジバックは同じだがマウント部が少し突出していて(1−2mm程度)いずれの場合も問題なく作動する。一眼レフ改造ボディのベッサRではこのようなときは諦めることである。世の中にライカマウントのレンズは山ほどあるのだから・・・。
さて先程の要領で露出を合わせ、距離を合わせる。シャッターを切ってみる。Lよりは小さくなったが相変わらず派手な音「ベシャッ!」と、大きめのショックが出る。これはこのカメラの出自を考えると止む終えないこととして割り切ることにした。言い出せばきりがないので、次に開発されるであろうヘキサーRFとベッサRの中間位の価格帯でのモデルに期待しよう。気が遠くなるぐらいの魅力あるカメラであって欲しい。フジの回答がTX−1であり、コニカの回答がヘキサーRFであり、ニコンの回答がS3復刻である。キャノンやミノルタはどうだろう・・・。
フィルムを撮りきると巻き戻しである。自動ではないため、やはり一昔前の操作が待っている。ボディ底面のボタンを押し、巻き戻しクランクを起こして回す。かなり回しにくいがたいしたことではない。動きが軽くなったら最初に戻る。なお電源は露出計用としてLR44が2個、ボディ底部の電池室に入る。これのネジがLではプラスチックだったがRでは金属となった。シンクロ接点はホットシューとボディ左にある。カメラのホールディング感は悪くないが首から下げると普通のレンズだと上を向いてしまう。最近のRF機の多くがそうなのだが何か意味があるのだろうか?写真家の眼で見るとメリットが見あたらず疑問である。
 まとめとして、ベッサRは基本性能を確保しつつ安価で使いやすいモデルに仕上げてあり、実用性のみならず趣味性にも配慮が感じられる。もう一度魅力点をあげると 1.ファインダー 2.距離計 3.TTL 4.巻き戻しレバー 5.機械式カメラ(フィルムカウンター、シャッター、巻き上げ、巻き戻し、セルフタイマー) 6.膨大なライカLマウントレンズが使用可能。最高とは云わないが、文句なく使えるカメラと云えよう。

 おまけとしてニッコール35mmF3.5Lの解説を簡単にしておこう。これはS用のレンズとして1948年に発売されたもので、Sマウント10000本、Lマウントで7000本程度と推定されている。1960年頃(Sの事でLは不明だがレンズナンバーで確認すると、このレンズは44万台で最末期と言える)まで生産されていたようである。仕上げは全体が真鍮にクロームメッキのポリッシュ仕上げで、絞り環のみブラックペイント仕上げである(初期のものはオールクローム)。レンズ構成は3群4枚の典型的なテッサータイプであり、2と3群の間に絞りがある。エルマー35mmF3.5やキャノンセレナー35mmF3.5と同じである。この絞りが変わっていて4枚絞りである。したがって絞ると真四角の形に絞られる。まるで後世のコンパクトカメラの絞りのようで面白い。ニッコールレンズ中で最も安価なレンズだったことも関係あるのかも知れない。このレンズの距離表記はfeetで例によってレンズの座金に彫り込んである。末期のレンズらしく無限遠は∞表示である(初期はINF表示)。回転ヘリコイドで鏡胴の基部から順に、被写界深度表示、絞り環(F3.5−22で不等間表記、クリックあり)、先端部となっており、大変細かくて美しい仕上げである。フィルター径は外側が34.5mm、内側が20mm位(ただし不正確)である。特殊なので手に入りにくいが、代わりにカブセ式のA36(ライツの古いレンズの標準的なモノ)が付く。これはケンコーから販売されているので入手は簡単である。使用上の注意点は回転ヘリコイドなので先に絞りを操作して露出を決め、それからピントを合わせることである。なれれば問題ない。描写については、ニコンには珍しく同タイプのレンズに比べて少しレベルが低い(あるいはクセ玉)と思う。縦軸の収差が大きく(たぶん球面収差)浅絞りでは像が中心を除いて「ホヤホヤ」で中央から周辺に向けて滲んでいくような不思議な像を結ぶ。ところが絞ると(F8以上)急速に像が締まり、F11でライバル達に負けない周辺まで良い像となる。これは私の持っているLマウントレンズの中で最も癖の強いレンズである(とは云っても個体差もあるので言い切ることはできない)。F5.6−8において不思議な絵となり、使い方次第で面白いとも云えよう。今度じっくりと試してみるつもりである。像の色はナチュラルで良好。私はニッコール35mmF2.5も持っているのだが対照的なレンズである。クセ玉と優等生・・・どちらが本当なのだろう。たぶんどれもが違うのが良いのだろう。

仕上げは良い。

京都府精華町にて。ニッコール35mmF3.5L+RA(F8)

ベッサRとR2、そっくりだが改良・改造はなされている。とはいえ「大差」はない。Mレンズを使わないなら性能的には同等である。

*追補 2001年夏より、コシナはベッサL&Rの高品位部品への交換サービスを開始した。昔のメーカーのやりかた(ライカも同じ)のようで面白い。利益にはつながらないが企業の良心と受け取っておこう。多くのメーカーは現在プロ向けの特別のチューンはしているが、アマチュアが手軽にできるものではなく、今回の仕事は外見だけとは言え評価できる。

梱包されたBESSA-Rと旧パンケーキ35mm。軽いデザインのいいレンズだったのに惜しい=ライカファンは重厚なのがお好き。友人が一昨年も去年も今年も、このいでたちで東京から京都へやってきた。「原点に返れ!」これで充分だろう?

参考文献
「レンジファインダーニコンのすべて」久野幹雄著 朝日ソノラマ
「アサヒカメラ」2000/2と2000/5:詳しいテクニカルデータはこれを見るとよい。そして現行品なので店頭で触ってみることである。レンズの組み合わせはブラックボディにクロームのカラースコパー35mmCかその逆の選択かがまとまるだろう。

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