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キャノン28mmF3.5L

ミノルタCLE用に蘇った「超広角」レンズ

今回は私の持っている28mmLマウントレンズ中最もコンパクトな「キャノン28mmF3.5」を採り上げよう。理由は昨今ヘキサーRFの販売ですっかり影の薄くなってしまったCLE用のレンズとして純正のロッコールM28mmF2.8以上にCLEに合うレンズであることと、あまり知られていないが古いわりに性能の整ったレンズとして着目したからである。AEの付いたライカ系カメラとしてプロアマ問わず長く珍重されたCLEだったが、ヘキサーにはさすがにしてやられた。私もそうだが愛着はあるものの出番が回ってこないのである。「カメラ談義25」でも書いたとおりAEの魅力はあっても、その後改良されたカメラではなく不便さもあったのであり、ヘキサーの登場で自動カメラとしての関心は移行してしまった感がある。私もヘキサーを買った1999/12以来1本も撮らなかったのだが、愛着は捨てがたく2001/1に保管庫から取り出して撮ってみることにした。ヘキサーより勝っているところはないだろうか・・・コンパクトさとフレームをみっつに絞ったことなどの割り切りだ!いままでAEライカとして評価されてきたが、CLと共にコンパクトライカが本当のこのカメラのコンセプトだったのだ・・・それを忘れていた。機能てんこ盛りではなく(ヘキサーはこちら)割り切った機能に特徴があるのである。レンズ3本と小型のボディを小さな鞄に入れてどこへでも出かけるカメラシステムと考えてみる。そこでどのレンズに適性があるのかを考えてみた。性能的にも機能的にも40−90mmは当然に純正のロッコールCLE用だが28mm(性能は抜群だ)はフードも考えると大きすぎる・・・要するにポケットに入らないのである。まず薄いリコーGR28mmとロッコールG28mmを考えてみる。どちらも現代のレンズであり、奥目タイプのレンズなのでフードなしでも逆光に耐える。いいレンズだが少し口径が大きい。次ぎにこのキャノン28mmF3.5を着けてみた。バランスは見た目も操作性も誂えたようにぴったりである。いままで私の所有レンズではMライカに着けると小さすぎ、かつ周辺光量の低下があるため冷遇されてきたが、ついに安住の地を得たように感じた・・・なにかホッとした気分である。

さてそもそもキャノン28mmF3.5は1951年10月、35mmF2.8などと同時期に発売され、当時ライツではヘクトール28mmがF6.3(1955年にズマロン28mmになってもF5.6)、テッサー28mmがF8だった時代で、これは画期的に明るい「超広角」レンズだったのである。その後1957年キャノンはF2.8を、ライツは1965年ようやくF2.8を出し追いついた。35mmレンズと同様、28mmもおおむね50年代はキャノン(当然にライバルのニコンも)はライツをリードしていたのである。そのような時代背景を考えてこのレンズを見るといとおしくすらなってくる。今でこそ地味なスペックのレンズだが、50年代初頭では肩肘張っていたレンズなのである。しかしCLEにくっついたからには余生を静かに送らせる訳にはいかない。こんなに小さな28mmは他にないのだから・・・ズマロン28mmも当初は人気がなく少数生産で終わったようだが、現在明るさを無視してもコンパクトさと素性の良さで人気が出てきているように聞く。いつもそう思うが高性能で大きなレンズも良いが、ほどほどに割り切ってコンパクトなレンズも悪くないと思うのだが・・・だんだん大きくなる昨今のレンズを見てそう思う。

さてレンズそのものを見てみよう。以前採り上げたキャノン35mmF2.8とほとんど同じような造りだが(同じシリーズなので当然だ)やはり小さいのが目立つ。大きさは径48mmX長18.5mm/重145g(値段も27000円と当時としてはかなり高い)でフィルター径は34mmである。仕上げはやはり真鍮にクロームメッキだがこれだけ小さいと重さを感じない。全体は他の同シリーズのレンズと同じく仕上げを少しずつ変えたリングを積み上げたようなデザインで先すぼまりなのも同じである。マウント基部から、1.ヘアライン仕上げの深度目盛環。2.同じ仕上げの距離環−これにも35mmと同じくピントレバーと細いターレット環が付いている。やや回転角が大きく∞−1mまで180度ある。3.絞り環−これはやはり3.5−22のクリック付の不等間隔絞りで、レンズ長が短く絞り環も狭いため操作しづらい・・・絞り優先AEのCLEのためにあるようなレンズである。仕上げは梨地で35mmとは異なり、リングの左右のみターレットが刻んである−これは35mmF3.2と同じ仕上げである。4.レンズ先端部はポリッシュ仕上げで特に加工はしていない。フードはカブセのネジで締めるタイプである。これはどうしたものか市場に出ない。5.レンズ前面はポリッシュ仕上げでこれも35mmF3.2と同じである。35mmF2.8は黒で、28/3.5はひとつ前のセレナー時代の意匠の名残のようである。レンズはかなり奥に引っ込んだ所にあり、鏡胴自体がフードの役割をしている。レンズは典型的なガウスタイプの4群6枚構成で後玉のみ大径になっている。コーティングはおおむねシアン−パープル系でこの時代の他のキャノン広角レンズと同じく青っぽい。絞りは6枚羽根だが形を工夫してあり、あまり角張らないようである。全体に小さく操作性は良いとは云えないが、CLEと組み合わせてピントレバーに慣れれば何の問題もない。反対に造りが精密で丈夫さも兼ね備えているため、かなり使い込んでも長くつかえそうなレンズと云えよう。キャノンのレンズは1957年の大改定以降(タイプ2)、性能は上がったが耐久性に問題が出て、特に各リングにガタが出やすくなったことを考えると、同じ構成なら1957年以前か終末期の1965年頃のレンズが良いと思うがどうだろう?

レンズの描写に移ると、やはり昔のレンズであり、上記のごとくフロンティアのレンズであったためだろう、あとの時代のものに比べると絶対的性能は落ちると見て良いだろう。特に浅絞り時(F3.5−5.6)の周辺部は解像力、コントラスト共に落ちる。周辺光量の落ちも比較的大きい。しかし色再現はナチュラル(ただし青に敏感に反応する・・・全体が青っぽくなるのではなく青の彩度が上がりやすい)で画像中心部の先鋭度は高い。絞ると(F8−11)なんら現代のレンズに遜色はない。フレアやゴーストもこの時代のレンズとしては少なく、歪曲収差も最低限に押さえられていて安心して使えそうである。この時代のキヤノン35mmレンズよりコントラストと解像力のバランスが現代のものに近く、神経質になる必要は全くない。ポイントはある程度絞ること(F11より絞ると回折による画質低下は避けられない=CLEで絞りF8固定で良さそう)、周辺に主題を置かない、青の色再現に注意、この3つ位である。

キャノンのLマウントレンズはもっと注目されて良いと思う。どれをとっても破綻のあるものはなく、しかも大量に売れたため価格が低いだけでなく、見つけやすい利点があり、たとえば同じ年代の28−35−50−85−100−135と揃えるのもニコンやトプコン、ミノルタなどに比べて比較的たやすいだろう。コレクションは確かに珍しいものを優先することになるだろうが、どんどん写すのならモダンクラシックのライカマウントレンズとしてキャノンは最適だと思われる。私にとってはライツだけではなくキャノン、ニコン、コシナもライカワールドの一員として同じ地平で評価しているのである。

取りつけると最もよく似合うボディである・・・コンパクトさも魅力で、オリジナルのロッコールM28mmより使いやすい。

大阪ドームから大正橋方向を望む。暗い前景の木立と明るい街の遠景、明度や彩度の差を応用した距離感・空気感が緊張を生む。F8まで絞ると何の破綻もない。 CLE+キャノン28mmF3.5+EB2

*レンズのデータ(年代や定格)はキャノンの公式サイトから引用した。

キヤノン28mmF3.5構成図(キヤノン公式サイトより)、慣例に従い左がレンズ前面、絞りは真ん中の点の場所である。

ヘキサーRFに取りつけると、その小ささがよく分かる。

*追補-1 コシナ=フォクトレンダーからカラースコパー28mmF3.5が出た(2002年)。小型で高性能、多少暗いが実用的なレンズである。まさに私の希望にぴったりのレンズだ。大型で性能の良い28mmレンズ(ヘキサノンKM28mm、各エルマリート28mm、ウルトロン28mm)との使い分けに悩んでしまう。贅沢なものである...この数年で状況は一変した。
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