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フォクトレンダー ウルトロン28mmF1.9

定着したフォクトレンダー=コシナレンズの魅力

コシナからとうとうLマウントの28mmが出た。それもF1.9という思い切った明るさである。過去のレンズを考えると期待できるレンズで、云ってみれば28mmの決定版となる可能性すら考えて手にした。コシナがこれまで出さなかったのが不思議なぐらい「売れ筋の」焦点距離なのである。そけだけに慎重に開発したのだろう。これまでに本家ライカのエルマリート28/トリエルマーの他、ヘキサノンKM28/リコーGR28/ロッコールG28/アベノン28/ビオゴン28L改などが新品で入手でき、更に少し古いが、各世代・各バージョンのエルマリート28/キヤノン28/ニッコール28/ロッコールM28など程度の良い、そして高性能のレンズが買える環境があって、結果としてかなりの力作となったのだろう。コシナの性能の良いレンズを妥当な価格(安いとは云わない=他が高すぎる)で開発する姿勢には賛同している。他の国産レンズ(アベノンを除く)が高いと断ずることは性急すぎるが(限定レンズであったり新開発・少数生産のコスト高は理解できる=少々高くても開発は有り難い)、程々の価格で12mm〜90mmまでラインアップされていることに値打ちがあるのである。これは営業戦略としてのライカ系カメラの普及に決定的な要素である。プロやマニア(私もこれらの仲間)にだけ買えるレンズ/ボディで良いはずはない。勿論、更に高品位なレンズ/ボディも魅力のある商品だが、その裾野が拡がらないと一時のブームに終わってしまう。その意味で遠からず出てくるだろうベッサMにも期待しよう。
さてフォクトレンダー=コシナのLレンズもかなりの種類がでて、デザイン的にも落ち着きが出てきた。35mmF2.5P、15mmF4.5を除き、1. 12mm/28mm/35mmF1.7/50mmF1.5/75mm/90mmのラインと、2. 21mm/25mm/35mmF2.5Cのふたつの系統になっているようだ。私はよりコンパクトで不充分ながらピントレバーの付いている2の方が好みだが、50mm以上のレンズは明らかに1が使用上好ましく、デザインのバランスも取れていると思う。28mm/35mmF1.7はおそらくレンズの明るさのためにコンパクトな鏡胴を諦めたのだろう。ただし見た目の問題ではなく、35mmF1.7/50mm/75mmはピントリングのターレットの彫りが浅く、ヘリコイドの固さも手伝って操作し辛かったのは事実である。コシナにも短焦点レンズでのピントレバーの付加とピントリングの彫りの改善を何度もレンズを買うたびに付いているアンケート葉書(12mm以外のレンズはすべて買った)に書いて要望してきた。私は価格も性能も良いコシナのレンズが、こんなつまらぬ要因で使われないのに憂慮していたのである。どう考えてもライカや他の国産レンズの多くに比べて仕上げや操作感は劣後(絞り環のタッチは良好)していると考えていた。そして今度ウルトロン28mm(ついでにアポランター90mmも)を触って「良くなった」と喜んでいる・・・改良がなされているのである。よく見ると今は持ってはいないが12mmの時からずいぶん良くなったようである。ピントリング等の彫りがやや深くなり、フードその他の仕上げにも丁寧さが増した結果、見た目だけではなく操作性の向上にもつながっている。取り外し式のピントレバー(25mmなどにも付いている角のようなもの)も付属しているがこれはじゃまになるだけなので不要だろう。ピントレバーに関してはGR28やズミクロン35、Gロッコールなどのような形と大きさが使いやすい。ウルトロン35mmと見比べると、気のせいではなくクロームの梨地仕上げも少し品位が上がったようだ・・・ほんの少し黄色っぽく艶が深くなった。堅実な改良と見たい。
さて、もう少し細かく見よう。
いつものようにマウント基部から見てみる。まず細かなターレットが刻んでいるリングがある(ウルトロン35と同じ)。レンズ交換時の指がかりと被写界深度表示の環である。次が距離環、∞〜0.7mまで約90度と比較的小さな回転角である。mが黒文字、ftが赤文字で表記されており見やすい。この環の前から見て7時の位置にネジが切ってあり、ここに小さなピントレバーがねじ込めるようになっている・・・普段はネジ穴はビスで埋めてある。ピントリングの彫りは深くなって格段に操作し易くなった(ちょっと昔のニコンやペンタックスのレンズのそれに似ていて懐かしくもある)がもう少し彫りが深くても良いとも思う。その上に絞り環があり、これもウルトロン35やカラーヘリアー75とほぼ同じである。ただしそのタッチは異なり、「コツンコツン」「カタンカタン」「パチンパチン」と全部違う。なぜだろう・・・同じにした方がいいと思うのだが。私は軽くてクリックのあまり効かないタッチが好みである。絞りの値はF1.9−22までなのだが、これもどうした訳か昔のレンズのように不等間隔に設定されている(カラーヘリアー等も同じ)。昔は技術的限界とコストの問題だったが、それが克服された今、何のためにこのような設定になっているのか疑問である。デメリットはあってもメリットが感じられない。クリックストップは半絞りごとなのだが、そのような訳で16と22の間は間隔が狭くこれが省略されている。よく見ると他のフォクトレンダーレンズも程度の差こそあれ不等間隔になっている(全部見たわけではないが今4本見てみた)。28mmだけが少し極端になっているだけだと分かった。不思議である。
その先はカブセ式のフードを取り付けるために少し段が付いている。ここに写真のとおり評判のいい結晶塗装の花形フードを取り付ける。これは効果の程は不明だがデザイン上の洗練があり、機能美とは違う別の意匠の典型的なものである。現代の工業生産品は機能に徹し(それがコストダウンにもつながる)、それも機能美として私は評価するが、昔の光学機器(顕微鏡や望遠鏡など、あるいは通信機器)によくあった意匠も悪くない・・・このフードにはそんな雰囲気がある。これなら多少のコストアップも許せる範囲である。これより1歩でも出たら装飾過多と感じるだろう。しかしフードの取り付け方法はネジ止めではなく、より確実なバヨネットとして欲しかった。
さてレンズを前から見ると銘板から少し鏡筒が出っ張っていて少し変わった造りである。これも何故なのか理解できない。特に実害はないから問題はないが疑問は残る・・・なるべく不必要な凸凹はない方がいいと思う。
レンズは7群9枚の構成でコンピュータータイプ(最近のレンズは典型的なガウスとかビオゴンなどというレンズ構成は少ない)とでも云うべきものである。勿論マルチコーティングで賑やかな色がレンズ内部に踊っている。レンズ長はあるものの、F1.9という割には大口径ではない(フィルター径は46mm)。絞りは10枚でほぼ円形に絞られる。色々書いてきたが全体には美しく今までのフォクトレンダー=コシナレンズより1段上の風格を持っている。黒と白があるが、両方手にとって比べると白の方がバランスが取れて良いように感じたので最初の予定を変えて白にした。話は違うがフォクトレンダー=コシナのレンズを見ても分かるとおりレンズの白黒は実際に見て決めることにしている・・・15mm.35mmF2.5C.50mm.90mmは黒、21mm.25mm.28mm.35mmF1.7.75mmは白である。好みとしては(レンズの話)35mmF2.5Pのような白と黒の部品の混じったいわゆるパンダカラーが好きである(これもそのバランスが難しい)・・・各種のボディとの組み合わせも含め、その時々で同じデザインでも選ぶ色が違ってくるのだろう。

画質はどうだろう。もはやこのレンズも含めて28mmクラスのレンズ性能は完成の域に達しており、現行品のレンズにとやかく云う段階ではない。あえていうなら微細なレンズ描写の「味」の差とそのレンズの限界付近(明るいこのレンズなら絞り開放付近)の性能差だろう。少し前のレンズなら善し悪しはあっても、それぞれ描写の差が結構あったのだが・・・。さてこのレンズはF1.9と今までのRF用(一眼レフ用としては常識的だが)の28mmレンズとしては明るく、開発最前線のレンズと云えよう。絞り開放からF2.8で使えたならレンズの大きさも納得して使え、シャッター速度も一段速くなる。或いは一段暗い局面で使えることになり、フィールドワークには有り難いレンズとなるのである。私にとっては28mmの決定版となりうる期待を持って見ている。実際に撮影すると開放は少し無理があるが、それでも実用の範囲内で、F2.8まで絞るともう周辺までかなり安定した画質が得られる。F2.8クラスのレンズの開放の描写と同等の画質だろう。つまりF2.8の画質が同等で、それより明るいところで実用範囲ならこれに決定!である・・・当然の話。詳細に見てみよう。絞り開放ではかなり甘く、遠距離の撮影では満足とは云えないが近距離ならなんとか大丈夫である。甘さは画面全体のもので特に中心〜周辺による差はない。周辺光量の落ちはかなり大きく、これはF8まで残る(目立つのはF4程度まで)。四隅で急落というのではないので不快感はないが、周辺に主題を置くような撮影では要注意である。少し絞ると像面の平坦性が高いのだろう、全体に画質が高くなっていく。F4で完全に周辺までピントが来る。あとは少しずつ良くなるが、絞っても思ったほどは画質は上がらない。コントラストは充分なのだが解像線が絹のようにならないのである・・・このあたりはヘキサノンKM28にはかなわない。絞るとより均一になり、全画面きちんと写っているという印象である。中心部のシャープ感はF5.6位が最高のようである。非球面レンズにありがちな絞りの効かない描写で、浅絞り時の立ち上がりの良さに比して、深絞り時のもどかしさが残る。色再現も今までのフォクトレンダーに顕著だった「青玉」(条件によってはドライすぎる表現となった)は緩和され滑らかさを感じるようになった。勿論、暖色系のレンズでも、湿度を持った描写のレンズと云うわけでもない。ほぼニュートラルで、今まで時にあった条件による青のカブリが出にくくなったという事である。しかしこの目立たない改良により条件を選ばない使用が可能になり、今までの「値段が安いからフォクトレンダーにした」という風評が覆ることとなるだろう。もうひとつそれに付け加えると、逆光の性能劣化が少なくなったこともある。これまで逆光時にゴーストが出やすいとの指摘があったが(当然相当悪い条件化のもとである)、これはレンズ構成が改良されたようだ(*注)。ウルトロンはエルマリートMやリコーGRを凌ぎ、ヘキサノンKMに迫る逆光性能を確保したようである。結論は簡単な話ではないが、かなりの水準に達したレンズと云え、決定版とまでは行かないまでも群雄割拠の28mmの中で確実に居場所を確保できたと考えている。完璧なレンズなどあるはずもなく、自分にとってのレンズ探求の旅はまだまだ続くのだろう。それは技術者諸氏との二人旅でもある。

京都府相楽郡、私の家の近く。野焼きの煙と夕陽が見える逆光での撮影。F8ぐらいの絞りだがゴーストは全く出ない。輝度差と多少のフレアによる細い線の溶け込みも非常に少ない。色合いも微妙なところが良く出た。このような条件に合致するレンズである。リコーGR28やライカだとゴーストはともかくとしてフレアはもう少し出るだろう。またヘキサノンKMだと色が多少あっさりとなるだろう。 ヘキサーRF+ウルトロン28+RDP3

絞り開放による撮影。場所は相楽郡山城町、高麗寺跡にて。野原一面にレンゲではない小さな紅い花が咲いていた。2m位にピントを合わせている。太陽が沈んだ直後の薄暮の光で撮った。この画面では分からないがピントのあったところはしっかりと解像している。遠景は当然アウトフォーカスだがボケ方は滑らかで流れや汚さはない。空に注目すると周辺光量の落ちが分かるだろう。中心部は明るさもあるが、それでも周辺の落ちはこれ程ではなく、これには注意(或いは利用)する必要がある。空からのフレアもほとんど感じられない・・・スナップショットスコパー25mmはこのような条件の時、空からのフレアがかなり出た。ヘキサーRF+ウルトロン28+RDP3

今回は普通の撮影事例は出していない。他のレンズとほとんど区別ができないためである。このレンズの特徴の明るさと逆光特性の向上というふたつの独自性を強調する作例とした。

総合的に見ると、フォクトレンダーウルトロン28mmは最新の28mmレンズの性能を確保しつつF1.9の明るさを実現した点で評価でき、仕上げや操作性の向上への努力も感じられる意欲作と思われる。なによりユーザーの声を聞き、改良を続けている点での私の評価は大きい。良いものを適価で開発するメーカーの姿勢を支持したい。

追補-1 アサヒカメラなどに指摘されているスコパー系の逆光時のゴースト発生の問題について、私より光学に詳しい人に教授していただいた。これは後群レンズ間の面間反射が原因で、ベイリンググレア(フレアー・ゴースト)が発生するようである。コーティングを改良することである程度の改善は期待できるが、いかんせんレンズ構成上の問題があり、完全になくすことは無理であろうとのことである。

追補-2 おそらくレンズコートは近日中に改良されるであろう。実は私はフォクトレンダー=コシナのVCメーターを白黒2個持っており、発売と同時に白を1個買ったが、シャッター速度/感度設定ダイアルのクリックが弱く、あちこちに擦れるたびに動いてしまい不便をしていたのだが、少し後に黒を買ったらこれらの不具合は改良されていた。足の軽い会社である。

解像力を上げるためのレンズ設計が、逆光特性を悪くする結果となり、レンズの改良/進歩はまだまだ続くのであろう。フォクトレンダー=コシナのレンズについては今後も研究していく。ライカ系のレンズについては、最近最新・国産のものに非常に関心がある・・・フォクトレンダー=コシナやコニカKM、各種限定レンズの高性能には眼をみはるものがある。案外評論家/写真家の評価より更に良い結果を出せるのではないかと秘かに考えている。

レンズは大きいが、形のバランスはとれており、フードの仕上げも良好。おそらくコシナ=フォクトレンダーレンズの中でも秀逸な意匠と思われる。


ウルトロン28mmが新しくなった(もうだいぶ以前/2008年)、少し使ったので簡記する。 
                      nagy

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