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エルマリート28mmF2.8(2nd)

1970年代の同時代的なレンズ

今回は最近入手したエルマリート28mmの俗に言うセカンドバージョンを解説してみたい。あらゆるMレンズを渉猟した結果、結論は急がないとしても今のところ私はいわゆる第2世代のレンズを好んでいる。性能のことではない…何と言ったらいいのかその「味」が好きなのである。例>エルマリート28/2nd(1972−1979)、ズミクロン35/6枚玉(1969−1979)、ズミルックス35/球面(1961−1995)、ズミクロン50/2nd(1969−1979)、ズミルックス50/2nd(1968−1994)、テレエルマリート90/後期(1973−1989)、ズミクロン90/2nd(1959−1979)、テレエルマー135/前期(1965−1993)などを所有しているが(他にもCL用のレンズもある)、どれをとっても同じような感慨を持ってみている。非常に造りの良い第1世代のレンズと性能重視の第3世代のニュージェネレーションレンズとのつなぎのレンズだと見る人もいる。経営的に悪化しつつあった時期のレンズでコストダウンが目立つと云う人もいる。それらの意見も半分は正しいとも思う。確かに「仕上げ」は第1世代より、さらに同じデザインを踏襲した次の第3世代、そして現行品より悪く、現代的なセンスに脱皮しようとするデザイン陣の努力に製作側が限られたコストの範囲で対応しきれなかったように思われる。とは云えその後のライカレンズ・デザインの原型がここにあり、それなりに評価はされていいとも思われる。多くがカナダデザイン/製作であり、それまでウェッラーの下請的な立場だったオンタリオに主力が移っていった、ある種の(コストダウンへの要請やウェッラーの保守性が理由としてあるのだろうが)カナディアンレンズの黄金時代であったのだろう。
私がこれらのレンズに惹かれる第1の理由としてこの辺があり、それまで連綿と続いてきたライツ=ウェッラーの重厚な歴史とは異なる「若さ」を感じているのである。デザインだけではない、レンズ設計においてもライカMの時代を俯瞰したとき、名レンズとして愛されたものにカナディアンレンズは多く存在している(本格的にコンピュータ設計を導入したのもこの頃)。それまでかなりまちまちだったレンズによる描写の差も少なくなり、どの焦点距離のレンズでも同じような「味」となってきているようである・・・私の実験でもそのような結果となっている。またフレア/ゴーストが格段に減り、条件による撮影結果の差も少なくなった。熟練工による手作りの逸品から、現代的な工業生産品に変わったと云う印象である。
もうひとつの理由として、これらのレンズの出てきた1970年代は私の青春時代であり、写真を学ぶ学徒であり、若手のカメラマンだった時代なのである。私にとってはM5・CLに対する特別の感情と同じように「時代のエコー」を感じられる、そしてその最高峰であった「見果てぬ夢」のレンズ群なのである。単なる郷愁ではない・・・私たち若手は持てなかったが「同時代性」=コンテンポラリーのレンズとして同じ時間を過ごし、同じ空気を吸い、同じ「情景」(こんな言葉で写真を表現していた)を共有してきたレンズなのである。私はCLしか持てず、友人はズミクロン35/6枚玉を持ち、先輩・諸先生方はもっと多くのレンズを持っていたが、とにもかくにも同じ時代を生きてきたのである。そして今使ってみると「その絵」が確かに出来上がる。どう同じかレンズテスト式に分析するのはそれ程難しくないだろうが、同時代性を語るのは簡単なことではない・・・若い人にそれを云うのは無意味かもしれないが「そこに存在し、そこで考えること」が決定的なことである。不思議なことに私が当時使った「ミノルタSRT101+28mmF3.5+35mmF2.8」もその意味で同じ絵を作っている。
結果として、その後集めた各時代のレンズを見比べてみると(描写のみならず、デザインや操作性まで)これら第2世代のレンズに落ち着いてしまうのである。当然、自分でも性能は後の時代のレンズが、仕上げは前の時代のレンズが優れていると思うのだが、カメラ/レンズへの「好ましい情感」は写真の撮影と切り離せない。私の写真が内面を外の世界に結実させて表現していることと同じ事である。前にも書いたことだが「どんなレンズでも人間の眼より性能は良い、しかしどんなレンズより人間の洞察力は優れている」と考えている。案外ライカファンの中で云われる同じ誕生年のカメラを持とうという事は正しいのかも知れない・・・あえて私は少し言い換えて、カメラを触り始めた頃のライカを持とうと云いたい。

さてようやくレンズそのものの話である。エルマリート28mmF2.8/2ndバージョンはMマウントの28mmとして1965年初めて出された1stバージョンの改良型として1972年に発売された。主とした改良は同時代のM5の測光用アームに干渉せず、露出もTTLで計れるようにしたことである。1stは古くからの対称型レンズにありがちのレンズ後群の突出により、測光用アームにぶつかり、それを改良したが(レンズを取りつけるとアームが引っ込む)測光はできなくなると言う不便さの改良である。レンズ構成については1stと大きくは変えず、対称性をなるべく残した6群7枚である。重量は235gと1stより10g増加している。鏡胴はごく初期においては1stと同じ腰を絞ったようなデザインだが、ほとんどのものは私のものと同じく段々を積み上げたようなデザインである。フィルターはE48かシリーズ7だが、48Φフィルターはレンズの1面が突出しているため純正しか着けられず、シリーズ7は12501フード(スーパーアングロン21/3.4と共通)に挟んで使う。フードは使わないと逆光時に不安があり、使うとファインダー視野が大きくケラれ、必ずしも合理的とは云えない。ヘキサノン28のようなスリット型のフードではいけなかったのだろうか。
もう少しレンズを細かく見てみよう。下から見ていくと、マウント基部にステンレスの細い環がある・・・この世代のレンズによくある。そこに小さなレンズ脱着指標(赤ポチ)がある。更にその上に被写界深度のリングがあり、2.8−22まで刻んであるが、間隔の狭くなる4−5.6は線のみで数字の表記は省略してある。このリングの裏側に「LENS MADE IN CANADA」と誇らしげに彫ってある。カナダのレンズの刻印はレンズによってスタイルが異なり、非常に控えめに表記されていることが多い。その上に少し小径になって距離環があり、feet−mの両方が表示してある。最短撮影距離は0.7mで、∞〜0.7mの回転角は約80度である。かなりの広角なのでもう少し回転角が小さい方が使いやすいだろう。ピントレバーは初期はストッパー付らしいが、私のものはプラスチックの二股になった簡単なものである・・・見かけはともかくとしてこちらが圧倒的に使いやすい。
つぎに絞り環があり、大径で空間的な余裕もあり使いやすい。やはり2.8−22までの等間隔作動で半段ごとにクリックがある。ただしそのタッチは固くてあまりいい感触とは云えないだろう。ここのブラッククロームメッキが弱くて(この世代のレンズはどれもがここの黒メッキが弱い)、ターレットのメッキが剥げつつある。
その上は少し間延びしてフードを受ける溝が切ってある。
レンズは上記の通り前面が突出しておりフィルター以外にも取扱には注意したい。コーティングはマルチコートとなっておらず、マゼンタ−パープル系が強い。絞りは8枚で特徴的なことはあまり感じられない。
全体としてはゴツゴツとした使用感/デザインで、基本的には3rdバージョンに近いシルエットの萌芽が見られるが「洗練」と云うにはほど遠いだろう。しかし一方で3rdはかなり大きく、比重は2ndが大きいように思われ、精密感は上だろう・・・タフな印象である。
さて写り具合を見てみよう。
これが1970年代なのである。相当にシャープ感があり、逆光でゴーストがまさに「火線」として出る。色は抑えられているが決して濁っている訳ではない。3rdの豊かな色調/軟らかな階調とは次元の異なる、エッジの立ったキッチリとした写り具合である。むしろざらついたシャープさが見られ、最近のレンズのスカッとしたハイコントラストとも少し違う、やや荒っぽい、そしてピントが外れたところは汚くボケる・・・その時代に適した癖があった。描写については興味深いふたつの記述がある。グリーンアロー出版「ライカレンズ完全ブック」と写真工業出版「世界のライカレンズ」のこのレンズに対する評価である。どちらも経験的な話で思い違いではなかろう。前者では近景に良さがあり、遠景はもう一つとのことであるが、後者ではその逆の評価を与えている。個体差が大きいのか、残存収差のせいで絞り値により描写が変わるのか・・・データが少ないので分からないが、私の印象では遠景でかなりシャープ、近景ではシャープ感はないものの軟らかさがあると云ったところで、前述のとおりの癖/味の出方で個体差と云うより本人の使い方/描写の好みが関係しているのではないだろうかと思われる。ドキュメンタリーに…それも一昔前の…適したレンズと思う。私が好きなのもこの点である。綺麗に撮りたいなら最新のレンズ(どれにせよ)を選ぶだろう。個性の強いレンズである。
その他はさすがにコンピュータ時代のレンズである、ピントは開放から周辺まで来るし、周辺光量の低下も少なく、個性さえ掴めば安心して使えることは云うまでもない。
かくしてこのレンズに限らないが、当分の間ライカ第2世代のレンズを主力に使うことになるだろう。今年の秋の撮影にはエルマリート28/2nd、ズミクロン35/6、ズミクロン50/2nd、テレエルマリート90/後期、CL用の2本のレンズを中心として使うことになった。読者にとっての「同時代」のレンズは何だろう・・・一度写真を始めた頃を思い出して、考えてみて欲しい課題である。

京都/清水寺の舞台の上で。このゴーストと単純化された色のトーンが持ち味である。画面右下に放射方向と同心方向に火線(火面)が出ている・・・これは特徴的で、強い逆光時必ず出てくる。  M6TTL0.58+エルマリート28/2nd+RA

大阪の新世界で。やはり派手なゴーストが出ている。これはこれで昔のテイストが感じられて好ましい=現行品と比べてもシャープネスは充分だ。 ヘキサーRF+eimarit28mm/2nd+RA

フードをとると3rdバージョンと似ている。エルマリート28mmについては、1st〜4thまで何となくデザインがつながっていて、進化という言葉も当てはまる。

ヘキサーRFに着けて行動するのが一番使いやすい。絞り値ではっきり写りが決まるので、絞り優先AEのヘキサーかM7が使いやすい。

                       nagy

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