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ライカM3

疑問符をいだきつつ、とうとう所有することになったM3


いよいよ今回はライカM3である。すでに初期のズミクロンなどと同じく神話の彼方に行ったカメラである。ただし一方でレンズとは異なり、現在もかなりの数が様々の程度で店頭に残っていて、まだまだ「使えそうな」カメラでもあるように見える。
M3の歴史や構造などはたくさんのライカ本に書かれているので、ここでは詳しくは取り扱わない。中川一夫著「ライカの歴史」写真工業出版社、同「ライカ物語」朝日ソノラマ、近藤英樹著「誰も書かなかったライカ物語」写真工業出版社、「ライカ通信−1」(これは細かな機械的なことが絵入りで書かれている)、その他参照。
ここではいつものとおり自分の経験を中心とした使用感を主に話をしよう。
最初に結論めいた話になるのだが、M3(これ以外の古いものも含め)は様々な状況で仕事などのハードな使い方をするには歳をとりすぎていることだけはおことわりしておこう。すでに機械としての耐用年数は過ぎており、適切なメンテナンスで生きてはいるが「これ1台」で撮影旅行にいくことは冒険である。名機ではあっても(クラシックカーやクラシック時計とも相通ずる)寿命はあることを明記しておく。その上での素晴らしいカメラとの出会いが楽しみとして実感できればと思われる。私もM3は好きで時として持ち出すが、肩の凝らない「少し贅沢な散歩カメラ」としてのライカである。
仕事で高倍率ファインダーが必要な時は(それもそれほど頻繁ではない)ライカAGも告知している通りにM6TTL/0.85を躊躇無く使う。私は持っていないが最近発売された高倍率マグニファイアーもいいだろう。だいいち精密な望遠レンズでのピント合わせには一眼レフが最も適しているし、私の現場では90mmまでで充分なため、M3の0.91ファインダーに固執はしない。またどうしても必要な機会には90mm−135mm用として「押さえ」にビゾフレックスを持参する。私はライカしか使わないため無駄なこともせねばならないが、皆には決して勧めない・・・比較的望遠系の撮影の多い人は迷うことなく一眼レフにしたほうがよいと思われ、ライカは広角〜標準に割り切って使うべきだろう。
でも実用で割り切れないのがライカの魅力でもある。ここからはM3の魅力を、時に進化したM3であるM6との比較をまじえながら話を進めよう。

私の手元には2台のM3がある。両方とも比較的初期型の804314と747069である(どちらも1955年のウェツラー製)。なぜ初期型かと言うと、おおむね中古カメラ購入に際しては修理技術者氏の意見を聞くことにしており、彼が「M3は初期型」と頑強に言うためである。何百台も中を開けて修理/調整してきたことが言わせしめる言葉で、私はいつも素直に従うことにしている。無口なので多くを語らないが、要するに「つくりが違う」のだそうである。確かにM3は1954−66年の13年間に22万数千台も作られ、また当時の手作り的な香りの残っていた時代の生産物であることも関係して、様々のバリエーションが存在している。それに後日の純正/非純正の改造が付されてきたこともあって「色々なM3」があるのである。趣味として持つのなら、一番凝った/コストをかけたつくりの初期のモデルがいいというのは当然の意見だろう。ただし後期型が悪いというのではない。私は「仕事では使わない」前提で質問したのである。現実には時代が進むにしたがって「改良」と「コストダウン」の両方がなされていったのであろう。
さて私の上記M3を便宜的に8と7と呼ぶことにする。ではどう違うのであろう。「ライカ通信−1」のp045−046に詳しく整理(20項目)されていて、分かりやすいので興味のある人は見てみると良い。外見と機能で重要なのがいくつかあり、あげてみると 1.フィルムの圧板がガラスから金属へ-1956 2.バックドアにラッチがあったものがなくなる-1956 3.フレームセレクターレバーがなかったのが付くようになる-1955 4.フィルム巻き上げがダブルストロークからシングルストロークに-1958 5.シャッターダイアルが倍数系列になる-1957 6.ストラップの吊り環/Rレバーの形状が変わる-1959 7.接眼窓の径が大きくなる-1962 8.巻き戻しノブのデザイン変更-1955 9.時期ははっきりしないがフィルム巻き上げが「スプリング式」から「ラチェット式」になった-推定1955-6 などがあり、これらが時間と共に少しづつ変化していったのである。したがって前期、後期と言ってもそのラインは決めがたい。とは言え世間ではおおむね吊り環のデザインが変わった1959年あたりで線を引いているようである。一番大きな変更と見られている巻き上げレバーのシングルストローク化が前年にあり、ドッグイヤーと呼ばれる初期からの吊り環のデザイン変更は大きな要素だし、確かにそれ以降は接眼窓の径の変更以外には大きな改変がなく「安定」したようである。だが定着した「DS−ドッグイヤー」というステレオタイプとは別に、どうも技術者氏は1956年のガラスから金属にフィルム圧板が変わった、あるいはシャッター速度が倍数系列に変わった頃に線を引いているように思われる。つまり1954年の700000番から始まり、1956年の854000番の間の約8万台に落ち着くようなのである。はっきりとは言わないが、私にはこの間の機械しか勧めないのである。7のM3は1955年の前半の3番目のロットの「ウェツラー製(表記はウェツラーでもカナダ製もかなりある)、巻き戻しノブのポイントが偏芯した赤点ひとつ、ラッチ付きバックドア、ガラス圧板、ダブルストロークのスプリング式巻き上げ機構、フレームセレクターレバー無し、倍数系列ではないシャッター、フィルムカウンター指標が黒、ドッグイヤーの吊り環受け、8.5mm径の接眼窓(末期は11.5mmで見やすい)」となる。8のM3は1955年後半のこの年9ロット目の生産物で、7と変わった点だけ書くと「巻き戻しノブがふたつの赤点(そうM6限定モデルのノブと同じデザイン)、フレームセレクター付き、フィルムカウンターの指標が白の三角」である。たった半年でこれだけの変化が二波にわたってなされたことになる。
もう一度力説するが、以上の定義での初期型が正論とは言わないし、初期型が良いとも言えない。「勝負しないカメラ」という前提で、技術者氏(当然に彼には専門家としての確信があると思うが、手がかかったカメラだから良いカメラとは言えない)の話をもとに私が考えたものである。結論的には私はこの2台のM3にして良かったと思っている。よくあるM3の評価として「スムーズな作動」というのがあるが、個々の部品の質の良さがボディ全体としての柔らかな作動につながっていることは間違いなく(条件として良く整備された個体でないといけない)、後期〜末期の個体よりその感触は一層得られるだろう。性能的にはどうだか分からない・・・つまり同じようなものであろう。使い勝手は「改良」されているが、品質感は古いものが良さそうに思われる。

では前置きはこのくらいにして使ってみよう。
まずフィルムを入れる。Mライカに共通の方法である。底蓋を開ける。M3の場合、開閉キーにopen-auf close-zu の表記があり、キーを矢印の方向に回す。このキーの回転が固いことが多いが、単なるオイル切れであることがほとんどであり、簡単な給油で適度な柔らかさとなる。次にフィルム巻き取りスプールを抜き取る。M3はこれを抜くことによりフィルムカウンターが復元する(M2は手動で戻し、それ以降は底蓋を開けると復元する)。次にボールラッチで止まっているバックドアを開ける。M3前期型よりあとのライカにはこの機能が省かれていて、フィルム交換時にドアがブラブラとして扱いにくいことを経験した人も多いだろう。この機能はあったほうがいいと思う。またドアの材質がアルミダイキャスト製で非常に高い精度と強度を持っている(M3後期から現在まで鋼のプレス加工品)ように見えるし、圧板もガラス製で後の鋼板より品質感が高い。ただし以降の製品と比してコストは明らかにかかっているだろうが、実際に精度/強度に優れているかどうかは分からない。
さてフィルムを入れる。まず右(例によって撮影者側から見た左右の表記とする)に入っているスプールを抜き取る。次にフィルム先端部をスプールのフィルム押さえ羽根に挟み込む。そしてバルナックライカと同じように(勿論、現在のM6も基本操作は同じ)フィルム室にパトローネをスプールをスプール室にボディに平行に入れる。バックドアがあるため作業はし易い(当然バルナック型と比して)。フィルムのパーフォレーションを送りギアに確実に噛ませて巻き上げる。そしてバックドアを閉めて、底蓋を外したときと逆の手順で取り付ける。そしてあとはこの手のカメラと同じ儀式を始める。巻き戻しノブを右に回してフィルムの弛みを取る。その上で巻き上げて、巻き戻しノブの真ん中の赤点が回転するのを確かめる。空シャッターは2カットが原則だが、手順を正確にこなせば1カットですむ。こつはフィルムを入れるときにあまり大きくフィルムを引っぱり出さない、送りギアに噛ませるとき下側だけにする(当然に確実に!)、フィルムはレールに完全に平行にする、弛みをきちんと取る、つまり慣れは必要としても最低限のアクションで操作できるようにするのである。これで迅速でかつ1カット余分に撮れることになる。少し前後するがフィルム巻き上げ/シャッターチャージはダブルストローク(巻き上げレバーを一杯に巻いても2回・・・正確には1回半で完了)で小刻み巻き上げも可能である。ライカの説明ではフィルムの巻き上げ速度が早すぎるとフィルムが静電気を発しスパークするリスクを回避するためとあるが、後日これが杞憂であることが分かり廃止したことになっている。しかし本当のところは分からない。ライカにおいても改良(改悪)したとき、理屈を都合良くつけることが多いのである。私は最近常に2−3回に分けて巻くことが多いので、ダブルでもシングルストロークでも大差はないが、普通のカメラから持ち替えると戸惑うことや、巻いたつもりでシャッターを押して、「あれっ!」と「ボケ」てしまうことになる。巻き上げ感はさすがにスプリング式で後のラチェット式(要するに巻き上げ時のクラッチの方式の違い)と異なり滑らかである。「ヌルヌルッ・カタン」という感じで巻きどまる。これも感覚的な好ましさであって性能に差が出るわけではない。ここでの注意点はどちらの方式にせよ古くなってフィルムの巻き上げのスリップが出ることがあることである(巻き上げにあまり力を入れすぎないこと)。

さて次に露出を決める。連動メーターもあるがさすがに古くなり正確なものは望むべくもない。もともとセレンメーター(後期ではCdS)なので新品でもどうかと思う。シャッターダイアルと連動するのは魅力だが、コレクションは別として勧められない。コシナから出たVCメーターの方が現実的だろう・・・極めて正確でデザイン/サイズともによくできている。
ともあれシャッタースピードと絞り値をセットする。私のM3ではB.1.2.5.10.25.50.100.250.500.1000となっており、微妙に現在の倍数系列とは異なり、ラチチュードの狭いフィルムだと迷いがでる。中間シャッター速度も無段階で使えるのだが(低速と高速の切り替え点である1/5と1/10の間・・・後には1/4と1/8の間を除いて)整備がきちんとできている事が前提であることは付け加えておく。M6でも原理的には可能なはずだが、故障の原因になるかも知れない(「ライカ通信−1」による)。中間シャッターの使用については重要な機能であるが、中川一夫氏の本その他一部のもの以外にはきちんと記載されておらず、「段」があるとかないとか、ちょっとした部品のデザインや仕上げの差など撮影にはどちらでもいい話の多いライカ本があまりに多いのは少し残念である。たとえ「好み」であっても機能や使い勝手に裏打ちされた違いに目を向けて解説してほしいものである。
ともあれシャッター速度の設定に対する違和感は「さじ加減」で解決しよう。1/4絞りの差とはいえないがしろにしてはいけない。私は中間シャッターの精度に不安を持っており(実験では問題ないにも関わらず)絞りを少し行ったり来たりさせて調整している。でもこの文を書いていてM3の大きな取り柄なら、やはり使ってみようと決心している。シャッターダイアルのメッキ仕上げは輝きが強すぎて数字が見にくく、後期の梨地仕上げが断然使いやすい・・・これは以後のライカ各型に引き継がれた。ちなみに本稿とは関係ないがライカMの部品は各型で共通できるものがあることも知っていて欲しい。たとえば巻き上げレバーとその周りの部品は共有できるし、バックドアも底蓋も共有できたり、少しの加工で可能となる。M3のファインダーの入ったM4やM4Pのファインダーの入ったM5なんてのも見たことがある(私のM6の一台の巻き上げレバー等はM2のものである)。

さて次はピントを合わせよう。これは原則的にはM6と同じである。実像式の0.91倍のファインダーで実に見やすい。始めてM6のファインダーを覗いたとき「実物より綺麗」と感じたものだ。M3の特徴としてファインダーの良さがいつも言われるが、実際はどうなのだろう。M6TTL/0.85と比べてみる。距離計窓の部分以外はそれほど明るさやシャープさは変わらない。色はむしろM6が自然である(少し裸眼より黄緑色みがあるが)。M3は明らかに少し青味がある。ファインダーの構造の贅沢さは比較にならないのだろうが、M6もコーティングや硝材の改良によるものだろうが負けてはいない。むしろM3の、50年近く前にここまで良いものを作ったことに感心してしまう。ブライトフレームのシャープさはM6が上だが(これはライカ社も公式に改良を発表している)、構造の簡便さによるため眼の角度を変えるとフレームの濃さやクッキリ度合いに変化がでてしまう。M3にはこのような事はまったく見られない。少々斜めから覗いても、くっきりとしている。しかしM3のボッテリと太くて角の丸い50mmのフレームには感心できない。90.135mmのフレームは少し細めながらすっきりとしているのにどうしたものか分からない。フレーム自体はパララックス自動補正で、完璧とは言えないがまずまずである。ただし画角の補正はなされないため1mのところで実画面とフレームがぴったりとなり、それより遠いところでは広めに、近いところでは狭めに写る。フレームより狭く写るのを避けるためにこのような設定になったのであろう。「トリミングはしない」と豪語している人は、この広めに写る画角(1mで100%・・・無限遠では何と視野率は90%にまで落ちる)のことは頭に入れて撮影しなければならないだろう(これはM6も同様)。画角まで補正するファインダーはフジのRF69シリーズ以外は知らない。
さて肝心の距離計の部分である。他のことは色々あるが、ここだけはまったく「風評」どおりである。少し黄色みを帯びた距離計部分のエッジがきちんと立っており、曖昧さは微塵もない。見えている像とも同じ距離に貼り付いている。距離を合わせるとやや黄色い移動像(実像)がファインダー像(虚像)にピタリと重なる。二重像(或いは上下像)を線や面で合致させると色までがすっと合う。昔、初めてほの暗い京都・北山のクラシックカーの店でM3のファインダーを覗いたときの実感のままである。斜めからのぞき込んでも二重像ははっきりと分離されている。M3より後のカメラでは真っ直ぐ覗かないとやや曖昧な二重像になる。しかも実像と距離計像の距離に少しの差が感じられ、一眼式距離計窓ではあるが、距離計の窓を覗いている感覚がある。もうひとつこの部分の逆光時のハレのことがある。M6においてはかなりの頻度で現れ(M6の解説のところでも述べた)、M4系やM5ではかなりM6より「良好」ではあるが、やはりM3にはかなわない。どのような条件でも綺麗に二重像が見える。逆光時にはファインダー全体なら、むしろコーティング他の進歩のせいか、M6のほうが少し良いと思われる。しかし肝心の測距においては雲泥の差と言っても良いだろう。M3のファインダーは技術的には現在でも製作可能だろうが、コストや歩留まりの問題で性能ダウンして生産しているのだろう。もうひとつ技術者氏の証言として、M3ファインダーの衝撃にたいする強度について疑問視がなされている事も付け加えておく。ただし風評にある「ソファーにポンと置いただけでブラックアウト・・・」と言うほどでは決してない。私はカメラケースに入れて車で全国を走るが、オフロードも含めて特に気を使わなくとも問題はなかった。その強度はM6と比べると低いと言う程度で、普通に使う範囲では大丈夫だろう(しかし古いのと換えがないので大事に使って欲しい)。

さて距離を合わせてシャッターを切る。「コトン」と実に静かで品のある音である。これは好みを越えて誰でも後のライカより、各国の同種のどのカメラより良い響きである。よく調整のされたレンズシャッター機の「プシュン」という音(これも好ましい)とも違う、もう少し布幕の柔らかさを感じる音である。当然に調整がきちんとなされていることが条件である。50−1000まで速度は変わるが同じ音と振動である。25以下は同じ感触ではあるがスローガバナーの引きずり音がたまらない。眠気をさそうような「ジジジ・・・」という1−2の音はいいものである。ただし性能がどうこういう問題ではない。測定的には後のライカでも同程度の性能である。ところで私のM3のうち1台(8)は少しのチューンがなされていて、テンションを下げて幕速が遅くなり、その代わりスリットが狭くなっている。その結果更に音は小さくショックも少なくなったが、高速の500−1000が遅くなった。私は使わないスピードなので問題ないが、単なる好みによる「改造」にはそれなりのリスクが伴い、考えて行うべきだろう。私の場合実用のため、古いシャッター部品でテンションがなくなって使用不能となることを避けるための措置であったが、「万能」を考えると勧められない。しかしそういうこともできることは覚えて置いて欲しい。シャッター幕等を取り替えなくても使用を続けられるチャンスはあるということである。もう1台(7)は普通のコンディションで完璧に作動している。さてシャッター関係ではストロボのシンクロは1/50で今もこれは変わらない。そしてこれは私の2台だけのことかも知れないが、後のMライカに比べるとシャッターボタンの遊びが少なく、比較的浅いところで切れるように思われる。他のライカのように押し込んだ底あたりで切れる感覚とは異なり、その音やショックの小ささと共にあっさりと撮ってしまうことになる。このため少し手ぶれのリスクが出るので気をつけたい(これもM3だけを使うなら、そのうち慣れるから問題ない)。

セルフタイマーはレバーを下に回転させ、隠れている小さなボタンを押すことにより作動する(ごく普通である)。180度まで回転させられるが動作時間は約10秒と案外短く、中間セットも可能である。
フレームセレクターはあるとやはり便利だが、これを使って画角の確認をしてレンズ交換をするのは最初のうちだけで、慣れると画角は勘でわかるためそのうち使わなくなる。レンズ交換で自動的に90mmと135mmのフレームが出る。ただし50mmフレームは出っぱなしである。これは後のMライカより遅れた機能である。フレームの太さが極端に50mmが太くて目立ってしまうのである。これも慣れで解決してしまうが...。考え方としては50mmをほぼ主として(文字通り標準レンズ)2種の望遠レンズを通常時以外のアクセサリーとして扱っているようである。現在でも基本の考え方は変わっていない。「標準レンズ」を中心に広角や望遠を配置しているのである。一眼レフと違いレンジファインダーのカメラとしての性格を正しく規定しているのだろう。つまりワイドを主とすれば望遠では使い物にならないほど小さなフレームになるし、望遠に配慮するとワイドでは外付けファインダーとなって使いにくいこと甚だしい。M2以降は35mmレンズを標準的に、あるいはワイドから望遠まで「妥協的」に使える倍率0.72になっている。更に今では0.58/0.72/0.85というようにファインダーの倍率を変えることにより、最も頻度の高いレンズにファインダーを合わせている。レンジファインダー機の限界である。ライカでは写る外側まで見えることにメリットを主張しているが、一眼レフと比べてレンズ交換を前提としたファインダーと言う点では劣後していると言わざるをえない。勿論シャッター音やショックの小ささ、レリーズ時ブラックアウトしないなど、レンジファインダーの利点はあるのだが、いかんともしがたい欠点であろう。ライカは妙な会社で何十年ぶりにこのRFの矛盾に対しての回答をした。ある意味での「交換ボディ」である。私も3種のファインダーM6を利用して撮影に応用している。自動化されたヘキサーRFやCLEと3種のファインダーのM6を使う頻度が圧倒的に多くなってきたのである。理想を言えば変倍ファインダーがいいということになるのだろうが、まだ「まだ」である。昔のキヤノンの変倍ファインダーは勿論のこと、現行品のコンタックスG系のファインダーを覗いても、とてもではないが使う気がしない。ある評論家が「井戸の底を覗いたような・・・」と言っていたが、言い得て妙である。私もまったくのカメラを知らない(固定観念が無い)人にM6とG1のファインダーを比べてもらったことがあるが、いわく10倍ライカがいいとの話である。その人は老眼で、視度補正のついたG1であってもである。

もうひとつファインダーと関連のある話を続けよう。レンジファインダーの欠点を補うためにライカが打ち出したワイド対応である。一般的に(ライカもその他のメーカーも)フレームより広いワイドレンズ使用時は外付けのファインダーで対応するのだが、ライカは至便性を考えたものか、奇妙なしかし巧妙なシステムを考え出した。いわゆる「眼鏡つきレンズ」である。距離計窓とファインダー窓にパワーレンズをつけて50mm枠を拡大して35mmの枠としたのである。かなりのコストがかかるのであるが、使い勝手は外付ファインダー使用と比べて格段に良好となった。ライカはこのシステムに相当の自信を持っていたと見えて、以下のように何種類ものレンズを長期にわたってM3用に生産し続けた(1950年代半ばから、何とM3の生産を止めた後の1970年頃まで!)。
ズミルクス35mmF1.4(新旧2タイプ)
ズミクロン35mmF2(8枚玉と6枚玉)
ズマロン35mmF2.8
ズマロン35mmF3.5
数も相当作っており、ユーザーも支持したのであろう。私も好きである・・・M3の外観上唯一の好んでいないデザインであるファインダー窓等にある「額縁」(モダンさがスポイルされていて少し前のアールデコの雰囲気が何となく感じられる。M6のフラットな処理の方が好きだし合理的だと思う)が隠れて実に硬派な印象に変わる。厳めしい外観とトリッキーな仕組み・・・これほどライカ的な製品も珍しい。当然他のライカMにも使用可だが、メーカーとしてもM3の基本的な指針(M3一台でワイドから望遠、顕微鏡から複写まで)にやはり必要な措置であつたのだろう。案外知られていないが眼鏡つきレンズの利点として近接が可能になるということがある。例:ズミルクス35はノーマルでは1mまでであるが、眼鏡つきでは65cmとなる。当然に欠点もあり、眼鏡レンズ、特にファインダー側の角形のレンズは周辺が流れてフレア・ゴーストも出やすく、しかも曇りやすい性質を持っていて、ライカがときどき見せる「間の抜けた」一面を表している製品でもある。更に付け加えると眼鏡つきレンズを眼鏡を外した状態で使用してはならない(デュアルレンジズミクロン50は別=これは接写用に眼鏡をつけたもので意味が異なる)。難しい話は分からないが眼鏡で補正したかたちで距離計との連動を維持しているためで、近接できるのも同じ理由であって、要するにヘリコイドが違うのである。また同じ眼鏡付きレンズ同士でも眼鏡を交換するとピントが外れることがある。眼鏡とレンズ本体は1本ずつ調整してあり、交換すると機械的には可能であってもピントが合わないことがあるのである。中古品ばかりなので、店頭ではオリジナルの組み合わせばかりではないと心得てほしい。合わない場合は技術を持った人に調整してもらうことである。

ファインダー関連では、あと接眼窓が後期型では8.5mmから11.5mmに拡大されており、断然使いやすいが、この改良は1962年ごろであり、遅きに失したことで諦めるほかはない。ただし次のシンクロターミナルと同じで、ライカによる改造モデルがたくさんあるため、初期型ベースの改良/改造モデルに巡り会うかも知れない。勿論、逆に初期モデルの良いところが、後期の部品に変わっている事もおおいにありうることなので(修理等で、この方が可能性大)シリアルナンバーだけで選ぶのではなく、実物を手にとって、信頼性の高い技術系の店で求めるのがいいだろう。
シンクロ接点はストロボとバルブ用がボディ背面に並んでいるが、独自の方式の接点であり、現在は汎用性がない(当然変換アダプターは存在する)。ライカと言えどすべてが後日に世界標準化されたわけではないのである。ライカもこの部分を普通のドイツ式に変更するサービスを行っており、私のM2はそのように改造されていた。ちなみにM4以降はすべてドイツ式にしている。

さて撮影が終了すると巻き戻しとなる。ボディ前面の巻き戻しレバーをR方向に倒して、巻き戻しノブを引き出した上で矢印方向に指でつまんで回す。これは簡単な操作ではあるが、指が痛くなるぐらい辛く時間のかかる作業である。M4になって巻き戻しが例の斜めに出たクランクでされるようになって、どれほど楽になったか!私はM3/M2からの改良としては巻き戻しクランクの採用が最大のものと思っている。もうひとつのクイックローディングシステム(それほどクイックではないが)とあわせてフィルムの出し入れが倍以上に合理化されたと思う。マニアからは不評だったらしいが、観賞用(限定M6BPに採用されたのは好ましいのだろう)ならともかくとして、実用としては遅すぎたぐらい古式のスタイルに固執したと思われる。当時「革命的」なM3の中で唯一バルナック時代と大差のない仕組みだったのである。私は個人的にはM5が最もいいライカだと思っているが、CLと共に別のライカと位置づけているのでここでは考えない。また露出計の内蔵も重要な改良だが、機械的な変更とは別の次元の問題なのでここでは採りあげない。
ともあれ巻き戻した後、底蓋の開閉キーを回して開けて最初に戻る。実に簡単である。実際問題として1970−80年代の普通のカメラを取り扱った人なら説明抜きでも撮影可能だろう。何かにつけて時間がかかるし、至便性には疑問も多いが、簡単である点/つまり操作性も含む基本性能は1954年当時のカメラとしては完成されていたと言えるのである。後発のカメラがバルナック時代と同じように追いかけた結果とも言えようが、違うことはレンジファインダーを諦めて一眼レフの開発に応用されていったことである。

elmar50mmF3.5を取りつけた姿。このレンズに限らず、M3は50mmレンズを着けたときが一番である。従前のバルナックと同じく標準レンズに重点が置かれ、あとのレンズは補足的に使うことが前提となっているように思われる。しかしM2はレンズ交換が前提となっていて、それ以降は時代と共にワイド側へ寄っていったのである。ライカとて40年経って0.58ファインダー(28mm用と言っていい)ボディが売れることを予測していなかっただろう。私自身もそうだったが時代の映像はどんどんワイドな視点に移っている。

M3を扱ってみて率直にいいカメラだと思う。同時代の国産・舶来の種々のカメラと見比べると自ずとその差が歴然としてくる。見かけだけではなく性能までが突出したものだった。勝敗は決まった・・・レンズについて肉薄した国産の「ライカに追いつけ!」はボディにおいてまたしても頓挫し、それをバネに時代は一眼レフに移っていった。ライカが現在でもM3の直系のM6系の生産を続けていることとは対照的に、一眼レフは何世代にもわたるモデルチェンジで今や極限にまで達している。私にとっては、便利ではあるが役に立たないカメラの大群と古式豊かだが決して性能の良くないカメラと・・・これで良かったのだろうか?

ともあれM3はいつまでも元気で現役を続けて欲しいカメラである。友人が語ったこと「憧れであり手に入れたことだけでも嬉しいカメラ。また車で云えばモダンクラシックカーで何とか普通に乗り続けられるローバーのようなカメラ」。M3は私にとっても同じぐらいの年齢の古い友人・・・私の方ができは悪いがいい友達であることは確かである。

「8」のM3にズマロン35mmF2.8を取り付けたもの。M3に眼鏡付きレンズは好きである。

初期型「7」、特徴がよく出ている。レンズはジュピター35mmF2.8初期型である。ファインダーの上に凹みがある...これが程度の割に安い理由である。もちろん機能には何ら問題はない。

「7」のM3にエルマー90トリプレットを取り付けた。

M3を持つときの方法。眼鏡付きズマロン35mmF2.8付。

M3用の速写ケースを買った(近江屋製新品)。ドッグイヤー・アイレット用にサイドスリットが長い。そしてケースにストラップが付いているので、M3以外のMライカも普段ストラップを取り外しておいてケースを差し替えるだけでいいこととなる(底ネジ付きでボディは固定される)。ボディの保管はレンズを外してボディキャップをつけた状態で並んでいるのだが、いつも使うカメラ(これは別に保管)と異なりストラップは保管にはじゃまになるのである。最近ボディやレンズの新製品は少ないが便利なアクセサリーは色々出ている。レンズはテスト用に預かった5本目のズミクロン35mmF2/8枚玉(自分自身は1本も所有していない)=これのレポートは近日に書こう。

ズミクロン50mmF2/3rd を着けた。40年あまりの時間差がある組み合わせだが「当然のこととして」違和感はまるでない。

コムラー135mmF3.5を。確かにこれぐらい長いレンズにはM3のファインダーの価値は発揮される。しかし私はそれでも露出計の入っているM6TTL/0.85にするだろう。

*トップの写真はM3(8)にズミタール5cmF2を取りつけたもの(沈胴状態)。

「8」のM3が最近友人のドクターのところへ行った。後期型を検討していたが上記の理由で勧められず(確かに初期のボディは高価だ)、フルオリジナルのこれを譲った。私自身は2台持っているし、少しでも多くの人にライカの良き時代のテイストを味わって欲しかった。

先日「箱」から取り出して久しぶりに触ったLeicaM3(初期型の2nd=ややこしいネ)下の定義(書き方は後期モデルへの移行条件)にすべてあてはまる初期型モデルの完全整備ボディだ。段付き最初期モデルは手作り試作品に近い。写す気は全然しないが、もう1台のDIIIと並んで時々触ってみたくなるマシンだ。レンズも最初期の番号外れのSummicron50mmF2沈胴、これも完調である。もしフィルムを使う機会があれば、この組み合わせとしたい。

1.フィルムの圧板がガラスから金属へ-1956 2.バックドアにラッチがあったものがなくなる-1956 3.フレームセレクターレバーがなかったのが付くようになる-1955 4.フィルム巻き上げがダブルストロークからシングルストロークに-1958 5.シャッターダイアルが倍数系列になる-1957 6.ストラップの吊り環/Rレバーの形状が変わる-1959 7.接眼窓の径が大きくなる-1962 8.巻き戻しノブのデザイン変更-1955 9.時期ははっきりしないがフィルム巻き上げが「スプリング式」から「ラチェット式」になった-推定1955-6 などがあり、これらが時間と共に少しづつ変化していったのである。
                                                
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