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安原一式

遅すぎた安原一式の評価

私の安原製作所との出会いは2000年、この会社に電話をかけて「一式は仕事で使えますか?」という私の奇妙な質問から始まった。私がライカで仕事をしていることを告げると「難しいです、二式を待って下さい」との回答であった。この簡単な応答の中に良心を感じ、それを待つことにした。そしてHPにもリンクした。そしてレンズ開発の案内があったときはすぐに予約を入れた(2001.10納品)。二式が発表となって安原製作所からも案内が来たが、電気カメラという部分に少し不安を感じ、購入は先へ延ばした。そして2004年の1月中旬、突然に廃業の告知があり、ともかく一式のボディを買うことにしたのである。やはりライカ系カメラへの大メーカーの進出(コシナ、コニカ)や銀塩カメラそのものの衰退などの要因が重なったのだろう。今書くならもう少し早く書くべきだったと思っている。もし技術者(元コンタックス・京セラで一眼レフやGシリーズの開発をしていた人らしい)のハートを感じたいのなら、会社はなくなっても一部の小売店や中古市場にある程度残っているので触ってみると良い。決して完成されたカメラではないが、機械式カメラとはどういうものか純化された特徴を見ることができる。50年以上前の日本の「ライカに追いつけ!」時代のカメラ造りの熱意も理解できるような気がする。

まず届いた「Since 1998」と書かれた段ボール製の箱を開ける。中には発泡スチロールに納められたボディと簡単な赤い説明書が入っている。バッテリーもストラップもない(吊り環だけはボディに付いていた)。どうせオリジナルのものを使わないから不必要という人も、オリジナルなものが欲しいという人もいるだろうが、私は付属している方がいいと思う。バッテリーは規格品なので別に必要とは思わないが、ストラップは「すぐ使う」ことを前提とするなら、たとえその分多少のコストがかかっても付属しているべきだろう。このことは別のことにも言える。ファインダー接眼窓にスリットがありながら、アイピースがないこと(荒めの金属むきだしなのでメガネがすぐに傷だらけになる)や、純正レンズにフードが用意されていない(しかも35.5mmという不思議なフィルター径)ことなど、自社で製作困難な場合はどれが合うのか明記するなり、また39mm/40.5mmなど「普通の口径」を採用すべきだったであろう。説明書にもあるとおりライカLマウントについては汎用性を強調しているのだから...Lマウントの記述の部分にはリコーGR28mmF2.8限定レンズとキヤノン50mmF1.8/1stレンズを使っている(説明書全体では一貫してキヤノン50mmF1.8である)。 説明書は必要なことをキチンと書いていて薄いものだが何ら不足はない。逆に現代の機能満載のカメラが大部でややこしい説明書であることに、必要とはいえ違和感を持っている。私のような「古い写真家」には説明書を持ち歩かないと使えないカメラも存在しているのである...実際は持ち歩かないので機能の一部しか使わないこととなる(簡単な機能で、その分価格を下げたり、丈夫さにコストをかけて欲しいものだ)。

説明書と後から見た図。接眼窓にはシボ付の汎用貼り革を適当に切って貼り付けてある。手持ちカメラのものを試すとキヤノンT-70のアイピースがピッタリ取りついたが、大きすぎてボディからはみ出してしまう。巻き上げレバーの下のものはシンクロ接点のキャップである。ホットシューもあるが、どちらも付いている方がいい。軍艦部のネジが大きさも形(x-)も異なるのが面白い。持つと非常に重く感じ、説明書には500g 138X80X35mmとなっている。M6が 560g 138X77X38mmなので大きさはほぼ同じ、重さではむしろ比較すると軽いのだが、小さく重く感じる。バッテリーは底にコインで開けられる電池室があり、SR44X2 で露出計を動かす。もちろん他はすべて機械式なので電池がなくても完全に作動する。

全体の印象は無骨で垢抜けないデザインだが、実際に持つと昔のライカコピーの国産ボディよりずっと使いやすいと思われる。個性的なのは軍艦部のファインダー部の巨大さだろう。これにより等倍ファインダーを無理なく採用できたのだろう。私にとって格好より実用というのは好感を持てる姿勢である...格好も大事だが、その問題はこれとは別にライカを持てばいいのである。開発コンセプトにも「このカメラが使う方にとってカジュアルで便利な道具となりましたら、開発者にとってそれ以上のものはありません」と締めくくっている。標準で付いている吊り環はつぶれた三角環で少し変わった形である。私はこれを丸環に替えてストラップはパラシュート用の丈夫な紐にした。

さて使ってみよう。持つと小さいが重くて硬い印象があるが、見かけと異なり違和感はまったくない。仕上げをまず見てみる。ボディの梨地はやや荒く、真っ白ではなくて灰色がかっている。拡大して見てもライカに比べると相当粗い表面処理である。しかし決して不細工という程ではなく、均一でしかも「昔のカメラ風」に仕上げている。この仕上げの悪さは随所に現れ、失望を感じることもあるかも知れないが、節度や機能はしっかりとしており、使うごとに気にならなくなり愛着が増すだろう。最初に気になる仕上げを列挙しよう。1.吊り環用のアイレットがボディから生えているがボディとの間に隙間がある=しかも左右で隙間が異なり、おそらく個体によっても違っているのだろう。しかし頑丈で強度としては問題ない。2.セルフタイマーレバーの取りつきがグラグラである=これは友人のボディでも同じなので個体差ではない。ただし機能には問題なし。3.ホットシューの板バネがガチャガチャと動く。これも機能的な問題ではなく、仕上げが良くないだけである。4.貼り革に浮きがあったり、その回りの黒プラスチックの帯に欠けがある。これも手作り的な仕上げの悪さで、材質的な問題はない。 ここまで書いてきて気づくだろうが、要するに手作り的な仕上げの悪さとコストを考えての問題であって、ここでも「昔風」な製品と言えるだろう。昔は大手のメーカーであっても機能優先で多少の傷や仕上げの個体差は問題視されなかった...『これは「当たり」のボディ!』などと語っていたものだ。

さてフィルムを入れる。まず巻き戻しクランクを引っ張り上げると(全体に言えることだが可動部はザラザラ感がある)ポンと裏蓋が開く。そして軸にパトローネをセットする。ここでも機能優先の仕掛けがある。ライカM4以降の斜めクランクと同じ意味だが、クランクの軸とパトローネ軸が同軸でなくてずれていることと、パトローネ軸の頭がボールヘッドになっていてグラグラしている点である。これはファインダー窓をなるべく左へ持っていく工夫と、パトローネをセットし易くする工夫なのである。仕上げや操作感がぎこちないが作り込みはコンベンショナルである(これが真骨頂)。簡素だが圧板や漏光防止の蓋とボディの仕組みはしっかりとしている。 フィルム先端を巻き取り軸のスリットに差し込み、少し巻き上げながらスプロケットにパーフォレーションを噛ませ、蓋を閉めてクランクでフィルムの弛みをとり、2カットの空撮りで完了である。フィルムカウンターは黒字に白文字で見やすい順算式(自動復元)である。ひと昔前の普通のカメラの方式で、面倒だが間違えるようなことはないだろう。

なかなかの工夫である。シャッターはメカニカルのユニットシャッターでフィルムガイドレールもキチンとできている。

次にフィルム感度の設定。たいへん立派で仕上げのいいシャッターダイアルの回りの環を引き上げて回して設定する。感度は黒字に白文字で見やすいが、シャッター速度は銀に黒文字と暗いところでは見にくい。少し回すのは固いが節度があるとも言える。ストロボシンクロ速度は1/125で、ライカに比べて一段とはいえ速いのは便利である。シャッター速度の指標柱が別に立っているのはご愛敬(その円柱の先に赤くペイントが入っている)=軍艦部のファインダーが高すぎてライカのように指標を設けるのは難しく、かと言って他に適当な場所がなかったのだろう。ともあれシャッター速度を設定しフィルムを巻き上げてみる。少し動きはぎこちないが確実に巻上がる。少し予備角があって、ニコンの一眼レフのようにレバーが飛び出し、そこから巻き上げる仕組みである。

上から見た図。左右の角が不整形の五角形になっているのが珍しい。左右で少し形が異なり、これも手作り的な感じがする(たぶん本当に手作り)。巨大なファインダー部以外はごく普通の景色である。各文字もすべて彫り込んで墨入れをしている。ライカほど綺麗ではないが、昔の国産ライカ系ボディには劣後しない。なんてことはないようだが、昔のRF機は相応に高級機(今で言えばコンタックスG2程度の格式か?)だったのであり、当時の仕上げと同じと言うことは一式の定格から見るとかなりの健闘とみて良いのである。メーカー安原製作所の消滅した今、比較的簡単で固く作ってあるために修理の際も何とかなりそうである。

さて露出を合わせよう。このカメラは露出合わせがしにくいので、先におおむね合わせておき、撮るときに少し補正をするマニュアル的な使い方がいいのである。なぜなら、これがこのカメラのはっきりとした欠点であるが、露出がTTLで決めにくいのである。つまり測光システム自体は金属膜シャッターに灰白色の塗装がしてあり、それからの反射光をボディ底部にあるセンサーで感知し、発光ダイオードの+●−で決めるというコシナ=フォクトレンダーやヘキサーと本質的に同じダイレクト測光なのだが、このカメラの場合、まずシャッター半押しでスイッチが入り、他とは異なり半押しをやめるとただちに電源がオフになるため、シャッター半押し状態を続けながら絞り環を回して測光することになる。明確な二段シャッターになっていないため思わず切ってしまうかもしれない不安がある。そして発光ダイオードのある位置にマスクがないため明るいところでは「非常に」見えにくいのである。したがって写そうとしてから露出を合わせつつ被写体を追いかけるなどとは思いもよらない。ただし値は正確なので、TTL露出計内蔵カメラだとは言えよう...先の文に戻ってまず余裕のある時に定常光の露出を計っておいて、写すときにそこから+−して露出を決めるのである。それでも外部露出計よりはだいぶ便利と言えるだろう。 

アベノン21mmF2.8レンズをつけて歩く。ボディが重いのでバランスは案外とれるのである。それにファインダーが50mmなので、これ以外のレンズはすべて外付けファインダーが必要となり、かえって21mmや15mmがつけやすいと思われる。これでTTL測光をし、距離計で距離を合わせて、外付けファインダーで構図を決めて撮る。アベノンが鏡胴が太いためピント合わせが楽なことも同時に分かった。安原一式ではこの組み合わせで一番多く撮った。あとは安原50mmレンズである(他のレンズではほとんど撮っていない)。ボディはこの角度から見ても無骨だがしっかりと作っているのが分かるだろう。

次にピント合わせだが、これにも問題はある。ファインダーは等倍で比較的明るく、ブライトフレームもパララックス自動補正のM3と似た角の丸いもので、中級機としては悪くないと思う。 ところが素通しに近いからだろうが、視度が合わず遠距離から近距離までが貼り付いたようにパンフォーカスに見えないのである。だから明るい戸外ならいいが、暗い室内だと近距離はよくても少し離れると細かいところは見えにくくなる。たぶん見え具合はその人の視度によるのだろう。条件によって近視や遠視の人は少し見づらいと結論できる。ただし距離計は正確で、M型ライカに比べるとコントラストは不足気味で、エッジでは合わせられないのだが、昔のライカコピーカメラよりは上である。最近のヘキサーやコシナのボディに比べると落ちる性能だが割り切れる範囲である。それで上のように外付けファインダー仕用を前提にしたくなるのである...私はバルナックでも外付けファインダー前提と割り切って使えるようになった(そうするとバルナックの内蔵距離計は極めて正確な測距機器となる=ベッサTと同じ発想である)。近接距離は安原レンズで使うと80cmまで距離計に連動する。

そしてシャッターをようやく落とす。基本的にはコシナと同じシャッター(B.1-1/2000)だが、ずっとおとなしい「パシャッ」という音がする。おそらく頑丈なボディによって消音と振動の吸収がなされているのだろう。むしろライカとは異なる重厚な音とも聞こえる。撮り終わるとボディ底面の巻き戻しのロック解除ボタンを押して巻き戻しクランクでフィルムを巻き戻す。クランクの径がやや小さいので動きは重いが問題はない。ただし前述のとおりクランク軸と実際のフィルムの軸がずらしてあるために(当然ギアが1枚入っている)クランクは普通とは逆の反時計回りに回すことになる。巻き戻し方向の矢印も書いてあり、のんびりしている時はいいのだが、急いでいるときや暗いところでは反対につい回してしまうことになる。反対には簡単には回らないのでどうと言うこともないのだが、あまりひどく回してしまうとフィルムの最後のカットあたりに傷が付くことになったり、このカメラの中では繊細な方の巻き戻しクランクの機構にダメージがくるかも知れない(電機系は別として、工夫のある分ここが機械的には危なそうに思う)。慌てないようにしよう。ここで最初に戻る。

結論は特別にはないが、良心的にキチンと真面目に作っているボディとの印象であって、細部の不細工さはもしリファインのチャンスと製造技術の向上が得られれば解決できることと思われる。中国で作っていると聞くが、他の製品と同様(私の友人に大手電器メーカーの開発担当者がいるが、中国へ進出した結果、最初はともかくとして現在はまったく国産と変わらない製品を作っているとのこと=これはマスプロ製品だけでなく高度な技術製品でも同じである)時間と機会が与えられれば必ず成功するだろうと今更ながら感じた。カメラとして純粋に評価すると、40−50年前の国産RF機に今風のシャッターと測光技術を導入した、ライカLマウントの汎用機として未完成ながら位置づけられ、後日のコシナ・ベッサRへとつながっていくモデルで、実用性ならベッサだろうが、実際に「実用的なLマウントカメラ」を望んでいる人はいないだろうと思われ、そのハートや趣味性からなら断然一式に手を挙げたいと思われるカメラである。今回の廃業はその意味でも残念であった。

安原50mmF2.8レンズ。こちらは一式と異なり「普通」の立派な箱に入っていた。キャップまで金属製。設計・製造が楽だったのか「今更ながら」のテッサータイプの3群4枚構成のレンズである。ボディよりキメの細かい仕上げで色も少し黄色味がある。やはり総金属製(基本的に真鍮)で重い。絞りはF2.8-22まででクリックは半絞りごとにある。ピントレバーもライカ並みによくできており二番手の開発製品として手抜きはなく価格の割にするとライバルのコシナより上等である(価格はたったの定価\22400)。口径の割に明るいのは当然のことだが新種レンズとマルチコーティングのおかげである。しかし不思議なことが多いレンズである。 1.なぜ今更テッサータイプにしたのだろう。テッサータイプのレンズ後面が遠い特徴を生かした沈胴レンズ以外に特別なメリットはないと思うのだが・・・。 2.レンズのフィルター径が35.5mmと汎用のフィルターやフードが得られにくいものである点。フィルターはクラシックレンズ用に国産で出されているが種類は限られており、ステップアップリングやカブセ式もなく、純正にないフードは絶望的である。テッサータイプレンズにはある程度の趣味性や製造コストなどの有意性はあるかも知れないが、この口径問題はさっぱり想像できない。先細りのスタイルに拍車がかかるが34mmにしても可能だし、35.5mmに意味があるのなら、昔のレンズにしばしばあったようにフィルターに外径と内径の二種のネジを切ってもいいだろうし、39mmにすれば格好が良くなること受け合いなのだが...不思議だ。このフードはたまたま転がっていた昔のフードが偶然合ったので着けてある・・・ごく安物の34mmのカブセ式だが、ちょうど35.5mmの内側にピッタリだった。

京都南禅寺にて(CLxRA)。さすがに現代のレンズ、絞り開放からでも中央部はキチンとピントは来るし、更に絞ると全体に非常に良くなる。それでもごく四隅は不充分である。コントラストも色味も逆光性能も、価格を考えなくても良好だが、現代のレンズとして見るならば四隅の甘さにはそれなりの割り切りが必要だろう。しかし昔のテッサータイプのレンズと比べると一段上の性能を持っており、その実用性は充分である。高い品質感といい、低価格の魅力といい、テッサータイプに興味があるのならいいレンズだろう。このレンズは特定の小売店でも扱っており、まだ在庫もあると聞く。試してみられるのもいいだろう。

告白・・・ついに生まれて初めてカメラを落とした! 首から吊っていたストラップが外れて道路にまともに落とした。画像のとおりカメラ右肩の後から接地した。さすがに総金属製で少し凹んだだけで、あとはたいした傷ではなかった。ところが巻き上げができなくなった。外部はともかくとして内部に障害が出たのである。メーカーは閉鎖していて修理は半分諦めたが、もしやと思い修理に出すつもりで1ヶ月後に取り出した。ところが何もせず放置していたのに巻き上げはできるようになっていた。自然に直ったのである。つまりショックでギアがずれ、それが時間をかけて応力が放出されて元に戻ったのである。しかしカウンターは動かない。この時点で技術者に頼んだら、カバーを開けて元に戻しただけでカウンターも作動開始した。つまり修理は何もせずバラして組んだだけで直ってしまったのである。これは掛け値なしに丈夫なボディである。

コシナ=フォクトレンダー カラースコパー35mmF2.5P である。こうやってみると安原一式のボディはなかなかグラマラスである。    

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