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ニコンS3

ようやくのニコンS3

さて久しぶりにペンをとる。今回は以前に書いたニコンS2の続編のようなS3の話だ。S3と言ってもたいていの人は2000年(白ボディ)と2004年(黒ボディ)の限定モデルしか想像できないと思う。もちろん私だって実際に触っているのは限定モデルだ。他メーカーのカメラがライカも含めて復刻されないのになぜかニコンS3(SPまでも)だけがなされたのか、また待望されたのか、復刻されたS3を見ながら、その魅力を語りたい。

上は私の持つニコンSシステムのすべて、S2/S3−2000、レンズは左からコシナの21mmF4(ライカマウント用と同じレンズ構成)、復刻モデルに着いていた50mmF1.4(俗称オリンピックモデル)ガウスタイプレンズ、35mmF2.5(やはりライカマウント用やニコノス用のレンズと同じ構成)、S2に付属していた5cmF1.4ゾナータイプレンズ。S2とS3を外見から比べると、ロゴが違うぐらいで大きな差はなく、Mライカと同じように斬新的に開発を進めていたことが分かる。シャッター音を比べると(S2は50年も前のカメラなので比べる意味もないかも知れない)明らかにS3は静かだ。それでもMライカに比べると「バシャン」と布幕がひっくり返るような音がする。

1958年−推定1962年(生産終了期は不明)に12000台あまりが作られた。そのあと1965年にほぼ全数がBPモデルの「オリンピックモデル」が2000台作られた。したがって今回はS3二度目の復活ということになる。途中でやめたS系のメンテナンスもニコンで復活しているらしいし、最後の銀塩カメラとして出したF6のあとにも「完全撤退」とは言ってはいない。フジも(フィルムメーカーなので当然)銀塩カメラについて前向きな対応をしている(当然全盛期のそれとは規模も方法も割り切ったものになるたろうが)。今回は何か分からない特別なカメラとしてのS3を考えてみたい。限定モデルの嫌いな私が買った数少ない限定カメラだ。

ニコンでは「なるべくオリジナルに忠実に復刻」といっているが、完全復刻ではない。どこが違うかは『ライカ通信2』に詳しく載っているので、そちらを参照した方が正確である。私の感覚では「ほとんど同じ」と感じられる。ただし経年変化のことを差し引いてもクローム梨地仕上げは復刻の方が真っ白で綺麗とも言えるし、アルミのようだとも言える。S2との比較でも細部の仕上げはより繊細で、実用とコレクション用の差はあると思われる。さて使ってみよう。カメラを上から見ると左が巻き戻しクランク、そしてニコンファン好みのニコンマーク、アクセサリーシュー、シャッターダイアル=これは完全に現在(いや少し前)のカメラと同じように一軸式のT.B.1−1000となっている。シャッターダイアルの周りのリングをつまんで持ち上げて回すと、その前にある小窓にF.Xなどと表示され、その色のシャッター速度なら同調するというシンクロサインとなっている。S2よりずっとわかりやすい。ちなみにXは1/60以下、Fは1/30以下である。そしてシャッターボタン=周りのリングを回すとA.とR.ポジションになり、ロックはなくて撮影と巻き戻しのポジションである=この辺は時代を考えても古くさい機構だと感じられる。ボタン位置もニコン独特の手前に引っ込んでいて操作は慣れないといけない。ストロークや重さは問題ない。巻き上げレバーもニコン独特のデザインで操作感に大きな問題はない。ただしニコン方式の一段引き出してから巻き上げる方式は便利だとは言えない。少しレバーを引き出すとき硬いのと(S2ではそんなことがないので個体差かも知れないが、ニコン復刻モデルと考えるなら問題だ)連続的な撮影の際に常にボディから飛び出しているため、引っかけてしまうことがありうる。そして巻き上げは1回でも分割でも可能で、動きはごくスムーズである。ライカと比べると巻き上げの巻き止まる場所でのカチンという節度が足りず、巻き上げたあと思わず少し巻き上げようとしてしまうことがある。巻き上げ動作中、シャッターボタン(赤丸)とシャッターダイアル中央(黒丸)がグルグル回り、またしてもどういう意味か分からなくなる=システムとしてそろっていた当時には大事な意味があったのだろうと想像するぐらいである。現在の撮影では「単に回っている」だけである。フィルムカウンターは自動復元式で見やすくていい。そのしたの「36」の数字はフィルム枚数を手動セットするもので、今は24と36が選べる(オリジナルでは20/36)。ボディ前部のフォーカシングギアとそのロックレバーはいかにも古い=動きはスムーズだが、これでピント合わせをしていると10枚も撮ったら指先が痛くなってしまうだろう。もちろん微妙なピント調整にも不利だ。なぜこんなことになったのか?往年のコンタックスに倣ったことは間違いないが、なぜか?には回答がない。現実には内部機構はライカ方式を踏襲しているのだから...私が現在でも使用をためらう最大の理由はこのフォーカスシステムなのである。

カメラを裏から見る。フラットで良好、裏蓋を下に引き抜く方式だが、ありがちな裏蓋の建て付けの悪さはみじんもない。キエフだとこうはいかない。ファインダー四角い接眼窓もフラットな樹脂製となっているため、見やすくメガネに傷も付けない。

カメラをひっくり返す。これはニコン以外の当時のボディでもお馴染みの景色だろう。裏蓋開閉キーと三脚のねじ穴(これはシャーシーに直接ついているが漏光の心配はない)、フィルム感度の表示(オリジナルはASAだが、ここはISO=度量衡は厳正に対処せねばならない)があり、ライカよりキチンとした造りかもしれない。

キーを回して裏蓋を開けた。ライカCLも同じ方式だ。フィルムの装填は普通でパトローネを装着し、フィルムの先を巻き取りスプールのスリットに差し込み、レバーで少し巻き上げながら送りスプロケットにパーフォレーションを確実に噛ませ、蓋を閉め、空シャッターを2カットで完了である。S2やキエフに比べると圧板もしっかりとしており、信頼感がある。しかしこれを改良したCLの圧板別体式の方がいいだろう(S3より10年以上もあとの開発なので当然だが)。セルフタイマーは実測で9秒、よく調整されていて破綻はない。

撮影に入る。レンズが回転するので露出を先に決めて絞り値をセットしてからピント合わせをすることになる。ファインダーを覗くと35/50/105mm用の枠が常時出ている。アルバダ式のためフレームは光線状態により翳ったり光ったりして見えはよくない。実像式のライカとは雲泥の差であろう。等倍式なので両目を開けての撮影には向いている。その代わり35mm枠はファインダーに目をくっつけて更に目玉を回さないと見えないし、メガネをかけていると絶望的なレベルとなる=どうせ勘で撮るのでたいした障害にはならないが。距離計像もライカに劣後する。距離計のエッジが使えないだけではなく、二重像部もはっきりとはしない。この原因は距離計そのものよりアルバダ式のファインダー構造そのものの問題だと思われる。ファインダーに目をピッタリくっつけないとどうしても全体にハレてしまうのだ。現在のニコンの技術なら文句なくライカ並のファインダーは作れるだろうが「完全復刻」がコンセプトなのでそうもいかないのだろう。しかし固いこと抜きでファインダーは改良して欲しかった...レンズは最新の硝材で更にマルチコーティングしたのだから。どうしても飾り物になってしまう可能性が出てくる。36枚撮り終わるとシャッターボタンリングをR.に回し(これはバルナックライカと同じ程度の技術)、フィルムを巻き戻す。そして最初に戻る。

なんだか苦言ばかり書いているようだが、それは本質とは違う。復刻だから使いにくいのは当たり前で、言わなければならないことはニコンのオリジナリティーであろう。他のメーカーがライカコピーに回った結果、早くに消滅/衰退していったのに比べ、ニコンとキヤノンは独自にRF機の開発を進めて完成に近づけたことに「その後」の2社の業界での優位性の萌芽が見られることだ。キヤノンは営業的にも成功し、次々と新機軸を打ち出し続けてカメラメーカーのひとつの柱を立てられたし、ニコンは営業的成功はなかったとしても、軍需産業からの脱却と技術の集積という点で、やはりその後のカメラ業界での地位を決定づけたことは理解できる。その意味で手抜きなく復刻することに意義があつたのだろうし、ファンもそう望んだのだろう。キヤノンは復刻などしない、最新のデジタルカメラの発表で先進性をアピールするのである。ニコンは銀塩を捨てられないだろうし、ニコンマウントも捨てられない。

これは友人のS3BP復刻版、オリンピックモデル(もちろん1964年の東京オリンピック)と言われているが、これが販売されたのは1965年であり誤解だと意見もある。しかし前年にプロの報道カメラマンのために作られ、余ったボディを翌年に一般に販売した可能性もなくはない(S3は推定1962年に生産を中止していて、このモデルで2000台がわざわざ作られた)。少なくとも赤字カメラを再生産(しかも開発費をかけて一部改良がなされている)するには大きな動機が必要で、オリンピック開催以外にはその説明がなされていない。それがオリンピックモデルという亡霊を生んだのかも知れないし、私の推測が正しいのかも知れないし、単に生産が遅れただけなのかも知れない。

レンズについて...この2本はS2と共に友人から以前譲り受けたものである。どちらも初期のオールクロームモデルだ。3.5cmF2.5(1954-56年の間の生産品=1956年に一部が軽合金化された)と5cmF1.4(こちらは1952-53年ぐらい=これはシリアルナンバーから分かる)で、保存状態は極めて良好=頑丈に作られていたし、保管状態も良かったのだろう。35mmレンズはこれが決定版だろう。F1.8モデルは魅力があるとしても高価すぎて手が出せないし、F3.5レンズは設計が古くて写らない。F2.5レンズはごく最近までニコノス用のレンズとして改良を加えられながら生き残った名レンズだと言えよう。

限定ボディに着いてきた50mmF1.4のガウスタイプレンズは古いゾナータイプより一回り大きく(軽合金なので軽い)性能も相当良くなっている。だがオリジナリティという点で上の2本を使っている。あとはまるでオリジナルとは異なるコシナの21mmが使いやすくていい。標準レンズはバージョンの違いは別としても10本以上もあり、どれがどうとは簡単に言えない。ライカマウントレンズを他社に供給していた加減もあって複雑だ。私見では5cmF1.4かF2のゾナーがいいと思われる...安価に綺麗なものが手に入りやすいため。もちろんコシナのレンズ群は最新のレンズであるため信頼できることは当然だ=ただしマウントとの不整合があることが分かっているので、必ずボディとレンズを合わせてから買うことにしよう。

*全体にかなり舌足らずの原稿なので後日追補。

*ニコンS系カメラ/レンズについての詳細は、朝日ソノラマ『レンジファインダーニコンのすべて』久野幹雄著を参考とさせていただいた。この本もファンは必読と考えられる。        nagy

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