home top
ライカ  デュアルレンジズミクロン50mmF2
                

一眼レフになれなかったマクロレンズ

今回はライカM3の評価を決定づけたズミクロン50mmについて語ろう。私はこのレンズは近接撮影用の設計が付加されたデュアルレンジズミクロン(以下DR50と略す)も持っており、機能はともかくレンズの構成はノーマルと同じで、かつ近接撮影が可能であるため、古いタイプのズミクロンとしては購入の値打ちがあるだろうし(実は私も同じ理由で購入した)、その解説も役に立つと考え、取り上げた。

DR50は1956−68(ノーマルは1954−68)の間、55,145本製造された。M2の最末期、M4とM2の部品を組み合わせたM2−Rに最後に生産されたDR50が標準で装着されていたことが、マニアの間でつとに有名である。その理由について取りざたされているが、M2の終焉とDR50の最後が同じ年であること、そしてM2−Rが限定生産であることを考えると、製造を中止したレンズとボディの部品を寄せ集めて販売したと言うことではないかと推察される。これでは夢がないので、もう一つの推測として、M2−Rの限定生産のきっかけとなったM2+4とでも言うべき(実体はM2−Rと同じ)軍用のモデルにDR50が付いており、それがそのまま移行したと見る考えである。軍用なら接写も可能な標準レンズの装着の必然性も多少はあり得ることである。ただし戦場でアタッチメントを着けたり外したりというのは滑稽な絵柄ではあるが・・・しかし現実に付いていたのだから意味があったのだろう。


さて私のレンズの話に戻ろう。まず外から見た所見を述べる。初期型と後期型の差異は微細な違いは別として、二つほどある。一つはターレットの刻みが多少異なり、ヘリコイドリングの刻みが初期型が山側に、後期型が谷側になっている。メッキも後期型が光沢が強いようにである。もっともどちらも新品を見たことがないので定かではないが・・・。もう一つは距離の表示が初期型がmまたはfeetのみの表示となるのに対して、後期型は両方並記となっている。ヘリコイドの回し易さは初期型、見た目は後期型が良いと思う。全体としては同じデザインだが、ノーマルズミクロンとの違いはもう少し大きい。DR50は近接アタッチメントを取り付けるために、その台座の部分が大きく、レンズの構成が同じである都合上、自動的にヘリコイドリングが前寄りに移動し、絞りリングにごく近くなる。写真だけで見るとどうと言うことはないようだが、実際に使うときはこれが不便になる。なぜなら第一にヘリコイドリングより絞りリングの径がかなり細く、つまり先にすぼまっていることと、第二にフード(12585等。この時代のレンズはハレ易いのでフードは必須)を取り付けると、フードの後端の径がヘリコイドリングと同じぐらいで、かつ絞りリングにごく近接するため、ヘリコイドとフードの谷間に指先を入れて(勿論、指の太さより狭い)絞りの操作をすることになる。とても迅速な操作ができるとは言えない(俗に言うメガネ付きのズミクロン35やズマロン35もこれ程ではないとしても、同じ問題はある)。ノーマルズミクロンはヘリコイドが後退しており絞り環との間隔は充分あって、フードを付けても問題はない。私はアベノン等の国産メーカーから販売されているステップアップ式のリングフード(または社外品の取りつけ可能のフード)を取り付けて対処している。これだとレンズの先が筒状に伸びるだけなので前側から指で絞りの操作ができる。純正品の端正なデザインも捨てがたいが、撮影のし易さが当然に優先する。私はこれ以外にも純正外のアクセサリー・部品をしばしば使っている。

フードを取りつけた。ヘリコイドリングとフードの間にはさまれて絞り操作が非常にしにくい。見た目には分からないかも知れないが、実際の操作は結構厳しい。 話は変わるが姿の非常に美しいレンズである。

さて操作感はこの時代のライツレンズ全体に言えることだが、たいへん良い感触である。操作感と言ってもレンズの脱着とヘリコイドと絞り環だけだが・・・。軽すぎず、重すぎず、節度のある動きと言える。特に絞り環のタッチは素晴らしい。40年以上前のモノとは思えない良好さと言えよう。
仕上げもルーペで拡大して見ると更に美しさ、丁寧さが際だつ。ターレットの刻みも同じように見えているがエッジの立て方が部位によって変えてある。梨地のブラスト仕上げも現代のコンピュータに制御されたものに比べると粗く、ムラもあるが、なにしろ時間をかけて全体を平均化させているのがよく解る。文字表示の彫りも深く、かつエッジが少し丸く仕上げてあり、墨入れと共に現在のライカの製品と比べてもかなり丁寧な造りと言えよう。このあたりは評論家の書いた本の評価は正しいと思う。ただし私の知人にはサンドブラストや旋盤、金型などの専門家が何人かおり、その評価は40年前とすれば高度と言えるが、現在なら理論的には可能な範囲で、一般に言われているほどの高度な技術ではないとのことである。しかしここまできちんと手作業で仕上げるには相当の手間暇がかかり、コストと歩留まりの点で合わないとの事である。高倍率のルーペで観察すると、現在の技術で作られたリコーGR28mm(見かけ上そっくりの仕上げ)に比べると、文字やターレットの彫りのエッジが立っている部分と丸くしている部分があったり、ターレットの溝の角度や太さにも多少の変化があることが解る。対してGR28mmはすべて均一(当然だが)な仕上げである。人間の指先の感覚はたいへん鋭く、ライツの軟らかく、そして同時にシャープな触感を感知できるのである。経験則に基づいた製作技術は内部の仕上げにも及んでおり、それが全体としての操作感の良さにつながっていると考えている。しかしこの絶妙のタッチも1970年頃まで。国産品の技術の進歩とライカ自身のコストダウンによる簡略化で、その差がなくなった。

次は使用方法である。他のことは普通のライカレンズと同じなので略すが、近接撮影のみ記そう。まずヘリコイドを最近接まで(3.4feet)回すとストッパーがあり停止する。ここまでは普通撮影と同じ。そしてヘリコイドリングを持ち上げ(かなり重い動きだ)ストッパーを越えさせる。ここで近接アタッチメント(コード:SDPOO=これも仕上げが美しい)を取り付ける。取り付けるレンズ側の台座に溝が切ってあり、それにスライドさせて取り付けるだけで、いたって簡単である。台座の真ん中にあるロックボタンが噛んで固定される。更にこのロックボタンが押されることによりヘリコイドが近接方向へ回るようになる。つまりこの小さなボタンは二つの機能を持っているのである。アタッチメントを取り付けないと近接方向へは回転できない。この時距離計連動カムを見ると、カムが二段になっていてアタッチメントを取り付けるところで切り替わるようになっており、見ていて面白い動きをする。現代のレンズと異なり、ライカは何でも機械的な動きに(ある意味で複雑な動物的な動き)処理するので何となく安心、或いは納得できる。
ともあれアタッチメントを取り付けた後、ファインダーを覗き、普通の撮影と同じく距離計でヒントを合わせる。アタッチメントレンズを通して見るため、すこしファインダー像のクリアさが減るが、実用的には問題なし。ここでの注意。案外アタッチメントの取り付け部分の強度が低く、外力で歪んでいたり、またこの頃は1本ごとに調整をしていたためか、アタッチメントとレンズはセットになっているのだが、時代が経って各々が悪くなったりして元の組み合わせでないものも増えており、いずれの場合もピントにずれが生ずる場合がある。購入時には注意が必要である。当然だがカメラ店でも実写テストなどはしておらず、わずかな狂いは発見されない事が多い。つまり距離計上は合っていても、フィルム上ではずれていることがあると言うことである。近接時は被写界深度が浅く、僅かなズレも深刻な結果となる。この問題は他のメガネ付きレンズにも当てはまる。ただし心配御無用。技術のある店なら調整は可能である。修理部のある店での購入を勧める。設定が合ってさえ居れば距離計との連動は何も問題なく、最短撮影距離(45cm位)まで連動する。もうひとつ、パララックスは自動補正となっているが、これは当てにならない。フレームどおり撮ると画面の左が詰まる。また視差により二重像が重なりにくく、慎重にピント合わせをしよう。これらは距離計連動機の宿命なので経験に学ぶ他ない。

次に取り付け上の制約を述べる。これは特殊なレンズなのでボディに制約がある。M型RF機ではM3−M2−M4−M6には問題なく取り付く。M5−M6TTL−ヘキサーRF(CL−CLEは距離計の基線長が異なり、根本的に付かない)にはそのままでは取り付かない。取り付け部の強度不足を補うためか、小さな位置決めのガイドピンが軸方向に付いており、これがボディサイズ・形態の違うモデルに取り付けられない原因となっている。このピンはビス止めになっており、外すとどのボディにも取り付き、当然に近接撮影ができる。ただし私が保証できるのは(たぶんライカも)M4までで、M5の場合はボディ軍艦部がすこし出っ張っており、これとアタッチメントが干渉しボディに傷をつける。ただし個体差があり、全てとは言えない。M6においては距離計の連動カムが測光用のセンサーの基部と干渉し、傷、或いは破損の危険性のあるものもある。私のM6は二台とも「逃げ」が切ってあり問題ない(ライカでも対策がなされているのだろう)。おそらく初期のM6に問題があるのでは?と思う。また私のM6TTLではレンズの無限遠位置では干渉があり、レンズが外せない。「逃げ」は切ってあり、ヘリコイドは問題なく回るのだがレンズの脱着時は横軸方向だけでなく、縦軸方向にもレンズが動くのでほんの少し当たるのである。25feetまで回し、カムを移動させると外れる。シャッターをバルブにして裏側から観察すると、本当にギリギリのところで「逃げ」を作っていることが解る。ヘキサーRFは内部に突起物がなく物理的な問題はないが基線長が僅かにライカと異なり、ピント合わせの精度に問題があるかも知れない(ただし未テスト)。当然に先の位置決め用(同時に強度の補強用)のピンがないのでどこかに当てて、歪ませないように気をつけねばならない。どちらにしても各ボディに取り付ける際は「個体差」が多いので注意することである。

描写については多くを語らない。オールドズミクロンは何度も繰り返されて物理的なテストや実写テスト、各種のエッセイ、HPなどで山ほど解説されているので参考とされたい。ただ私見だけ述べるにとどめよう。このように有名なレンズを評価するのに大切なことは固定観念に縛られないことである。「良い」と言うとき、理由は?となると著名な人が良いと書いているからとか、皆が良いと言っているからということが多いのである。しかし使うことを目的とする場合、自分の目的と技術に合ったモノかどうかが大切な判断の基準となるべきだろう。改良に改良を重ねた現行品は問題ない。確かにコストダウンが実行されているのは間違いがないが、性能は前進している。むしろ完成の域に達していると言って良いだろう。あとは感材の選択と写真家の技量にかかっている。しかし以前は何かを犠牲にして何かを優先させる必要があり、その差によってメーカーによる特色・味が出ていたようだ。ライカで言えばこの時代、周辺を多少犠牲にしても中央部の鮮鋭度を上げている傾向が(特にワイド系)見てとれる。ライカのボケ味の秘密はアウトフォーカスのボケと残存収差のボケのバランスと見たり・・・。画面全体を平均すると当時の国産と変わらないが、周辺は国産、中帯部は互角、中心でライカとおおむね言えよう。この辺の話はもうすぐ(と言って、いつになるのか解らないが・・・)ズミクロン35mmの年代記で詳述しようと思う。DR50も似た傾向の絵で、開放は中心を除いて周辺はホヤホヤで、F4で画面中央1/3がシャープになり、F8で全面にピントが来る。つまり中心は極上、絞るに従って外側へ良い部分が広がって、F8で全面良好となり、それ以上絞ると中心の鮮鋭度が落ちてくる。と言うことである。今のズミクロンと比べると絞りの開いた状態ではかなり落ちるが、絞るとコントラストは低いがそうは違わないだろう。条件さえ整えれば現代にも通用するレンズだろう。ただし色はかなり黄色いのでこれも要注意。後期型はレンズ構成やガラスの材質が改良され、描写も色も改善されている・・・私はズミクロン50/リジット(1stバージョンの後期型)を持っていて、比べてみると色はクールになっており改善されていると思うが、線の細さという点では普通撮影においても旧DRズミクロンが勝っている。さて、近接時でも画質はそうは落ちない。ニッコール50mmF1.4も近接できるがこれは少々落ちる。画質というより像面の湾曲が効いてくるようだ。同じゾナータイプのジュピター50mmF1.5もそっくりの画像になる。ゾナータイプ(=トリプレットの発展形)の弱点だろうかと思う。話が横道にそれたが、結論としてDRズミクロン50mmはなんとか現代でも実用性が確保されており、なにより近接撮影が手軽にできると言う点で存在価値がある。私もフィールドにはしばしば持っていくレンズである。フィールドではそれ程近接撮影はしない(従ってマクロレンズは不要)が、どうしても必要なとき便利なのである。ビゾフレックスと同じくRF機の弱点を部分的にせよカバーするために考えられた物であり、今も私のようなライカマンにとっては大切なレンズシステムである。さらにオールドズミクロンの購入を考えている人にも良い選択となろう。値段もどうした訳かノーマルと比べプレミアはそれ程ついていない。と言っても程度が良ければ10万円程度は覚悟せねばならない。どうしても揃えねばならないレンズではない。ライカだけで撮影しようとする人には勧められるが・・・。

トップの写真はM2(カメラ談義4で登場した1958年モデル)にDR50mmF2(1957年製の初期型)を装着したものでメーターはコシナ=フォクトレンダーのVCメーターである。

ビゾフレックスシステムをDRズミクロンで撮った。フレームではピッタリのフレーミングだが、左が欠けてしまい右が少し空いた。パララックス補正は完全ではないが、少し広目に撮ることで解決できる。

純正フードだと絞り操作がしにくいので非純正のフードを取りつけることもある。これはマミヤC用で、だいたい39/40/40.5のフィルター径のレンズ用のフードは問題なく取りつくことが多い。逆光には弱いので、こんな無理をしてでもフードは必要である。

富山県神通川河川敷の富山空港にて。M5+DR50(これは新)+RA

*追補 1 比較的最近後期型のDR50を購入した。画質的な比較はこれからのんびりしていくが外観だけは見比べてみよう。今まで単にピントリングの谷と山の仕上げの差かと思っていたが、並べてみるとリングの幅に違いがあることが分かる。新しい方はダブルスケールとなっているので文字を彫り込んだスペースの分リングが狭いのである。使い勝手は明らかに旧式がいい。山側にターレットが刻んであることと幅が広いことが原因である。メッキも旧が丈夫でマット面のトーンも沈んでいて好ましい。新はやや艶があり、メッキが柔らかいようである。レンズ構成に違いはないと思われるが、やはりコーティングは新がやや青が強く、マゼンタの面がある。旧はアンバーが多少強い。描写は他のことはともかくとして色の再現は新の方が優れていてニュートラルなのに対し、旧は明らかに黄色っぽい。しかしそれはそれで悪いとは思えない。1本だけ持つなら問題だが、何本か持つ中の1本としては個性とも言えよう。色温度の低い状況ではかえって劇的に映し出されるようである。反対に色温度調整フィルターではないので、色温度の高い状況では濁って見える。私見では青い光の時は青く写って良いと思うのである。

*追補 2 ベッサT/R2にはボディ内部とDR50の特殊な距離計連動カムとの干渉があり取りつけられない。

M4−2に旧型を取りつけた図。特に旧型は重厚感がある。今度(2005.11)私の持っているズミクロン50mm10本のすべてを同一条件でテストしてみた。目的は本当のところどう違うのか?ズミルックスとはどう違うのか?である。

使い方を忘れてしまって久々に取り出した…触ると思い出す。このレンズは色々儀式があって簡単には使えないのである。それにしてもLeitz・Leicaの仕上げは素晴らしい。

参考文献 : 「ライカポケットブック 日本版」田中長徳訳 アルファベータ

N☆GY

home top

copyright 1999-2013 nagy all rights reserved
inserted by FC2 system