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ヤシカ マット124G

私の最初の二眼レフ

 私は二眼レフが大好きである。と言ってもコレクターではない。フィールドで使うとき最も適したカメラだと思われるからである。35mm判をメインに使う私にとっては中判カメラはサブ機でしかなく(どうしても高密度な写真を撮りたいとき)一回の撮影旅行で数カット、せいぜい1本と云うところである。そのような使用方法では交換レンズは全く不要で@小型・軽量A操作性の良さB画質(簡単に云うと、高解像力・レンズの平面性の良さとなる)の条件が必要となる。大きく分けるとフィールド用としては 1.一眼レフ 2.二眼レフ 3.RF機の三種となるが、一眼レフは多くの場合交換レンズやマガジン交換を前提としており、ミラーボックスの存在と共に大型になる。当然操作も複雑な手順が必要になる。そして機構的に見ても、自動絞りやクイックリターンミラー、レンズ−ボディ−マガジンの接合部などが複雑化=故障の原因(これは私の思い過ごしである−今の機械は簡単には壊れない)にもなる。RF機は良いと思うが、なかなか良い機械がない。フジの67や69は信頼性があるが大きすぎ、645は作り方が安易で多少の不満がのこる。距離計の連動関係にも少しの不安を持ってしまう。35mmなら深度に納まっても80mmならどうか?と思ってしまう。画面の面積効果を考えると35mmをしのぐだが、私は中判にもっと過酷なことを求める。二眼レフは形が直方体で体積の割にコンパクトであり、レンズ交換をしないことを前提としているため、大きさも追い込んである(二眼レフでもレンズ交換式のマミヤCは大きくなった)。撮影レンズとビューレンズが異なり、ミラーアップによる画像の消失もミラーショックもなく、それでいて撮影レンズとほぼ同じように被写体を見ることができる。操作も簡単で故障するところもほとんどないと云っていい。勿論レンズシャッターなのでストロボに全速同調する。そして二眼レフは最終的にほとんど同じ構造・操作系となったことを見ても分かるように進化の極に達したと見てよく(それが消滅につながったのだろうが・・・)、誰がどんな条件で使っても破綻の少ないカメラの形式なのである。
 今回は国産の二眼レフで、レンズ交換式のマミヤCを別として最後のモデルとなった「ヤシカマット124G」を取り上げる。それ以前にもヤシカは二眼レフを作り続けていたが、このカメラは1970年に発売された。戦後すぐから始まった二眼レフの全盛期のころのことはよく知らない。が1970年は国産二眼レフの頂点である(マミヤCは除く)ミノルタオートコードが販売中止になった頃である(公式には1965−6年に中止となったが、その後ファンの要望でオートコード2改として再生産された)。その後このカメラは1988年まで売られていた。大衆的なカメラで当時の主流たるRB67やペンタ67などの1/4〜1/5程度の値段で買えたのである。私は当時コーワ6を使っていたが、ローライやハッセルを夢見つつ124Gのお世話になった人も多いのではないだろうか?そのころの中判カメラは重厚長大の当時の業界の雰囲気からすると、プロや一部のハイアマチュア以外には高嶺の花であったことを忘れてはならない。時代が下り皆が中判カメラを買えるようになったころ、定価41000円が最後は3割ぐらい値引きして売っていたことを憶えている。そのころには二眼レフはすでに忘れ去られていたのである。人も使わなくなり、メーカーも消え去るように生産を止めたのであろう。おそらく生産は何年か前に中止されていたのだろう、最後までキョウセラブランドにはならずに終わったカメラである。いまここに二つの文献がある。テクニカルデータはこの二つから引用しているものも多いので掲載しておく。

1. カメラ毎日別冊 カメラ・レンズ白書 1979年版
2. 日本カメラ カメラ年鑑1987


 さて当時は、私も中判と言えば一眼レフのレンズ交換式しか頭に浮かばなかったのである。その後フィールドワークでカメラを使うときは35mm一辺倒となり、気が付いたときはすべての二眼レフは中古市場に頼らざるを得なくなっていた。そのような訳で二眼レフ探索の旅(カメラ店巡り)が始まった。そして最初に買ったのが一番「新しい」ヤシカマット124Gだったのである。あまりに高いローライには手が出ず、あまりに古い国産の他社製には不安があった。この124Gは1998/1に新同品で38000円であった。それでも高いと思ったが、同じ程度なら今は45000円位になっているだろう、需要と供給のバランスとは言え不思議なものである。
 このカメラの特色はTTLではないがCdsメーターを内蔵したことである。それ以外は他の日本のメーカーがそうであったようにローライフレックスの意匠を踏襲している(逆に言えばそれなりに完成した意匠とも云える)。ミノルタオートコードも末期にCdsメーター内蔵モデルが出たが、それよりは新しいだけにコンパクトで正確である。使用電池はHDなので、やはり輸入品かSR44等用のアダプターが必要となる。
 ボディ全体は真っ黒でYASHICA Mat124Gのロゴとその枠、レンズの枠やシンクロ接点、シャッターボタンなどの小物だけが銀色に光っており、必ずしもセンスがよいとは感じられない。特にフードを外した状態で見ると真っ黒な中にレンズの枠が輝いており、昔「カラス」と呼ばれたことを彷彿とさせる印象を持つ。なお写真のフードは純正(もう少し角張っている)ではなく、B30のワルツの汎用フードである。総銀色で珍しいのとカラスの印象を少しでも少なくするためにこれにした。当時二眼レフのフード(フィルターも)はB30(バヨネット30=ローライのもの以外は案外安い。これは4500円)のものが多く、かなりの汎用性があり、便利である。ちなみにローライTもB30であり、フィルターはまだケンコーから販売されている。
 さて撮影を始めながら各部の操作性などの解説をしよう。まずフィルムを入れる。ボディ底部にボディの開閉ロックダイアルがある。これを「O」の方へ回す。そうするとボディと裏蓋を止めてあるアームが動き、そのアームを引くと裏蓋はポンと開く。このボディは120と220フィルム共用なのでフィルム圧板をずらすことにより調整せねばならない。120の場合圧板の小窓に12EXと出る。これを確認後上の巻き取り軸に空スプールをはめ込む。撮影者から見てボディ左側に(今後は右左はすべて撮影者からみたものとする)軸を引いて行う。そして下側の軸にフィルムを装填し、フィルムリーダー部を上のスプールに差し込んでボディ右側の巻き上げクランクで巻く。これはローライと違いスタートマーク式なので120は12EXに220は24EXの位置にフィルムのスタートマークを合わせる。この時注意、12EXのマークはかなり下側に偏っている。普通の中判カメラにあるスタートマークの位置には24EXのマークがある。間違えるとフィルムがずれて最終カットが切れてしまうことになる。ともあれマークを合わせて蓋を閉め、クランクで巻き上げていくと、フィルムカウンター「1」で止まる。カウンターは巻き上げクランクの右上にある。12EXの表示窓もクランクのすぐ上にあり、どちらも表示は見やすい。巻き上げはローライとほぼ同じ操作で、巻き止まったら反転してシャッターセットをする形式であるが、ガラガラと賑やかな音が鳴り、その操作感はかなり落ちる。いかし違和感はない。私は確認していないがストラップは、その取り付け金具の形式を見ると特別のものを付けるようだ。ただしそのストラップを通すスリットがほぼ今のストラップのものと同寸なのでこれを利用するとよい。ローライと同じく撮影時にカメラを持ち替えることが必要なので、カメラは必ず首から下げねばならない。ピントフードを立てる。ロックは付いていないので、ただ引き上げるだけである。これで同時にメーターのスイッチがオンになる。さらに蓋を前から押すとピントルーペが出てくる。この蓋にある可動の板はルーペを出すことと、更に押すとピント板上に固定され、ピントフードの後ろ側にある小窓から覗くとスポーツファインダーになるという二つの機能をもっており、当時の二眼レフとしては常識だが、今見るとよく工夫されていると感じる。ピント板は中央部がマットでその周りがフレネルレンズである。井の形に赤い線が引いてあるが、これは水平・垂直を表し、構図用であろう。二眼レフの場合、無限遠に近いところ以外はルーペを利用しないとピント合わせはしにくいが、ルーペで拡大するとフレネルリングがかなり粗く、合わせにくい。中央部のマット面で合わせることになるのだが、これもシャープ感がなく(本によるとビューレンズの収差が大きいとなっているが詳細は不明)、またビューレンズがF2.8にもかかわらずファインダー全体も暗いため、迅速なピント合わせは難しい。一昔前のミノルタオートコードと比べると一段落ちるようである。メーターの基部が画面の上方に出っ張っており、数ミリ画面の中央上部が弧状にケラレる。ピント合わせはボディ左側のピントノブで行う。これもローライなどと比べると作りは安直であるが操作に問題はない。ノブ側にMとFtの表示があり、ボディ側に被写界深度の表示がある。このノブにフィルムインジケーターが入っている。ノブを回すとレンズの付いている前板全体が繰り出される。最短撮影距離は1mでパララックスのことを考えると妥当な値だろう。
 次に露出の調整である。ローライと同じく、撮影レンズとビューレンズの間に左右に振り分けて絞りとシャッター速のダイアルがある。右がシャッター(B.1−500)左が絞り(F3.5−32)である。やはりローライと同じく各々の表示はビューレンズの上に出る。前がシャッター(右が高速の設定)、後ろが絞り(右が開放)である。測光、ここからがローライと違うところで、カメラ上部、ピントフードの前に露出計の窓がある。右にASA感度の表示窓(設定はそのすぐ右にある小さなダイアルで行う−ASA25−400)があり、中央に指針が2本ある。絞りを動かすと黄色いカニ爪のような方が動き、シャッターを動かすと赤い針が動く。これが重なったところが適正値である。TTLではないが連動式なのである。動かすとどうやらシャッター優先の絞りで追針する方式のようである。逆でも可能であるが、電流は赤い針の方に流れているため絞りで合わせた方がスムーズに追針する。露出計は受光部がボディ左肩にあり、露光角はほぼ平均測光と云ってよく、Cdsということもあり、比較的素直に動き、意外に正確である。これのバッテリーはボディ左側の下方に収納される(上の前側にアクセサリーシューがある。あまり使いよいとは云えないが無いよりは良い)。
 レンズボードには上から順に、左にフラッシュ接点とその切り替えレバー(M−X)セルフタイマーセットレバーが付き、右下にはシャッターボタンとそのロック機構が付いている。シャッターは少しストロークが長いが重さはちょうどよいだろう。シャッターはコパルのSVでどのシャッター速度でも全く同じ調子で切れて信頼性充分である。ローライのシンクロコンパーは調整が良いと、静かにしかし確実に風のような切れ方がするのだが、調整が悪いとスローが粘ったり、速度によって調子が変わったりすることがある。コパルのシャッターは音は多少賑やかだが、確実性という点では評価できるだろう。
 シャッターを切ったらフィルムを巻き上げる。約4/5回転でとまり、また逆回転で止まるまで戻し、フィルム送りとシャッターチャージの完了。ガラガラと作動音は賑やかだがこれも確実である。撮影しないとき巻き上げクランクはローライと同じくたたんで収納する。12枚撮り終わるとそのまま巻き上げて裏蓋を開けてフィルムを交換する。簡単な撮影である。この簡単で単純な操作系(機構とおおいに関係あり)がフィールドワークにうってつけなのである。
 ボディ全体はアルミダイキャストの塊で丈夫である。レンズ部をぶつけない限り多少のショックには耐えるだろう。そのレンズも突出が少なく邪魔にならない。オートコードの解説でも述べたが良いことずくめの二眼レフが消えてしまったのは不思議でならない。主流たりえなくとも全くの不要品とは絶対に云えないと思うがどうだろう。実のところ私は往年のRF機の復刻・開発より二眼レフの再発売を望んでいる。
 レンズについて。撮影レンズのヤシノン80mmF3.5は三群四枚構成の典型的なテッサータイプである。シャッターと絞りは二群目と三群目の間にある。コーティングはマゼンタ・シアン・アンバーの組合わさった物で、全体にローライTのクスナー75mmと似ている。同じテッサータイプの二眼レフ用のレンズと比べると、ローライ・テッサー75mmよりは線が細くコントラストも低い。クスナー75mmとは似た絵だが周辺ではヤシノンが上である(ローライTのテッサー・クスナー両レンズは使いこなしが難しいレンズである。この辺はまた解説をする)。オートコードのロッコール75mmF3.5は更にシャープ感があるが、絞りによる描写の変化はヤシノンが穏やかで使いやすい。色はニュートラルで問題ないが、周辺光量の低下は多少ある。また逆光には弱く、ゴーストはレンズの構成が単純なせいか地味だが、フレアは派手なものが出るばあいがある。フードは必要である。ワルツのフードも伊達ではない。絞り開放〜F5.6まではやや低い画質だが、F8−16ではかなり良くなる。縦軸の収差が残っているのだろうが、いわゆる「絞りの効く」タイプのレンズである。画質はF11がベストであるが、絞りを絞るごとに少しずつ良くなっていく。ロッコール75mmより最高画質では劣るが焦点距離の5mmの差か、レンズの平坦性(つまり球面収差や像面の湾曲が理論的には少なくなる)はロッコールにやや勝るようである。どちらにしても本家ローライ(ロッコールも含む)に比べると使いやすいレンズである。
 総じて云うと、値段は高いと言っても程度の良いものが4−4.5万円位(同程度のローライTなら10万以上、オートコード3なら7−8万円=程度の良いものは少ない。やや悪いものは4−5万円)で、ピントの合わせづらさを別にすると比較的使いやすく、中判の画面効果も期待できる。そして小型・軽量(サイズ・重量は102X148X101mm・1080g)でメーター内蔵とフィールドカメラ(勿論サブカメラとして)の資格は充分あるだろう。特に初心者には二眼レフ入門用として悪くない。なにより戦後の第一次のカメラブームを引っ張った大衆的な二眼レフの生き残りとして、長く作り続けたヤシカの見識を評価したい。

宮津・栗田湾にて。F8以上に絞るとピントは充分だ。EPR

ヤシカマット124GとフジカGS645S(大きさの比較)
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