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ミノルタ スーパーロッコール45mmF2.8

有名な梅鉢レンズ登場

今回は国産のLマウントレンズの中ではその個性的な外観から、ファンの間に広く親しまれているスーパーロッコール45mmをとりあげよう。
このレンズの評価に関しては下記のふたつの短い論考があり、少し異なった評価となっている点興味深く、私のものも含めて併読して参考としてほしい・・・私は前者の結果に近い印象をもっている。
1. 朝日ソノラマ「クラシックカメラ専科ー50 ライカブック99」『スーパーロッコール45mm&5cmF2.8』中島章年著
2. 写真工業出版社「世界のライカレンズ」『SUPER ROKKOR 45mmF2.8』中村文夫著

このレンズも含めミノルタのライカマウントレンズ(35mm−135mmまでフルラインアップされた)は、1948年のミノルタ35−1型から始まる一連のシリーズ用にボディの生産の終わる1960年近くまで作られた。キャノンやニコンに比べて種類も数も少なく、希少価値はあるものの現在一般的に入手できるのは、45mm.50mmぐらいである。その中でも最も個性的な45mmはヘリコイドリングの加工が変わっており「梅鉢」(実際は6芒星形なので、普通5弁の梅鉢とは異なる)と呼ばれたもので、私も比較的早くに手に入れた(これ以外ロッコールLレンズは持っていない)。
45mmと言うのは最初に発売されたミノルタ35−1型が、35mm判標準の24X36mmではなく24X32mmのニホン判と呼ばれるフォーマットにしたため、画角の都合でそうなったと言う意見があるが、画面サイズの対角線距離が標準レンズの焦点距離として自然であるという考え方もあり(こうなるとアサヒペンタックスの43mmやコンタックスRTSやニコンAiのパンケーキ45mmがライカ判の標準となる)ライカの定めた「ライカ判の標準は50mm」に合わせてそれより小さいニホン判は45mmという単純なことかもしれない。ニホン判の採用は印画紙の縦横比に合わせて(ちょうど6X7判のように)ノートリミングとして、フィルムの無駄をなくし、かつ撮影枚数を増やした(40枚撮り)という説があるが本当のところはどうなのだろうか?技術的にはシャッター幕が小型化し走行距離と慣性質量が小さくなり設計・製造が楽になったとも考えられるが、これは考え過ぎなのだろう。ちなみにニコンの初期RF機(そのためこのサイズをニコン判とも言う)やその他のメーカーも一時期このサイズを採用した。理由はともかくハーフ判やAPSなどと同じく新規格を考えたのだろうが、輸出に際して最大のマーケットたるアメリカのカラースライドの裁断機や自動現像機、引き伸ばし機に適合せず(パーフォレーションはニホン判は7穴送り、ライカ判は8穴送り)これに対してニコンはM−S型の時フォーマットは24X34mmでコマ間を広げて8穴送りとして一時的に対処したが、これも折衷的なアイデアでついにS2のとき24X36mmとなり完全に国際規格になった。


前置きはこのくらいにしてレンズの話に移ろう。このレンズは1948年から発売され少なくとも1955年(どうかすると1957年ごろまで)生産された。バージョンは大きく分けて初期と後期のふたつあり(その他細かな差はあるのだろうが、残念ながら資料がない)、初期型はメッキがやや弱くかつ白さが強い。そして絞り値をヘリコイドリング上の指標(これも初期は線、後期は点)に合わせるとレンズの前面の丸い小窓にも現れる手品のようなしかけが特徴的である。これはたいした意味もなくコストアップにつながるだけのために後期型では省略された。もうひとつは初期にはないピントレバーが後期型には付いた(これにロックがあるとの資料=ICS発行のPRICE GUIDE 2001=もあるが確認できず、誤認の可能性あり)。しかしこれも操作上は便利になったが、せっかくの立派な梅鉢のヘリコイドリングが飾りのようになり、もし継続的に作られていたら消滅したことだろう。内部に目を向けると、レンズ構成は変わらないがコーティングはソフトからハードになり、綺麗なレンズは後期型に多いことは言うまでもない。初期と後期の差はこの程度だろう。
さて私のレンズは普通の後期型で程度も良好である。大きさは、径48X長34mm、フィルター径34mm、質量210g(いずれも実測)と焦点距離が50mmレンズより5mm短いだけでずいぶん小型になっている。真鍮にハードクロームメッキなのでその割には重いがカメラが前下がりになるほどではない。
さていつものようにマウント部から見てみよう。
レンズ基部は細かなターレットが刻んであり、少し幅狭で操作性は良くないがレンズの脱着はここを持って回す。その上は斜めに先細りになっていて、非常に綺麗な梨地仕上げとなっている・・・この部位の仕上げも含めて、この時代の国産レンズの中では最上級(最高とは云わない)の仕上げの質である。この環に被写界深度の目盛りが2.8−16まですべての絞り値で彫り込んであり、これも大変きちんと仕上げてある。その上がポリッシュ仕上げの距離環で大変滑らかな動きをする。最初はグリス切れで固かったが少しのグリスアップで解消した。距離目盛りはいわゆるシングルスケールで(私のはft表記)無限遠〜3.3ftまで約180度で回転する。これにつくピントレバーは少しボディ側に曲がった変わった形だが、ピントあわせのし易いようになっている。ロックは付いていない。後期となって改良されたのだから当然だがヘリコイドリングで合わせるより、レバーで合わせる方がレンズが小さいだけに楽である。更にその上に絞り環がある。やはりポリッシュ仕上げで先に絞り操作用にターレットが刻んである。絞り値の指標は距離環上にあるが、回転ヘリコイドのため絞り環と一緒に回り、表示上の不便はない。更にヘリコイドが180度回っても絞り値が分かるように裏側(3.3ft表示の上)にも絞り値と指標がある。コストはかかるが適切な処理である。絞り環はクリックもなく、軽く回るため安っぽく感じるが使用上はいいと思う。同様の回転ヘリコイドのニッコールやズマロンのLマウントレンズはヘリコイドが軟らかく、絞り環が固めでしかもクリックがしっかりしているため、絞り操作をすると同時にヘリコイドが回ってしまい、先にピントロックをかけた状態で絞り値を設定し、それからピントを合わせるという手順となってしまう。もちろん慣れればロックをかけない状態でも可能だろうが、やはり合理性という点ではやや重い目のヘリコイドに軽い目のクリックのない絞り環が扱いやすいように思う(勿論直進ヘリコイドにこしたことはない)。私は多くの場合TTL式露出制御のライカを使うため、余計にこのような結論になるのだが一般的にはどうだろうか?
絞り環はこの時代のレンズに一般的な不等間隔表示で2.8−16までとごく普通である。レンズの前面を見るとたぶんアルミ板を貼ってあるのだろう少し色の違う銀色の仕上げである。彫り込んである文字を全文記す。上の写真を参照=「C SUPER ROKKOR 1:2.8 f=45mm No.1402885 Chiyoko」となっている。ミノルタの名前はどこにもなく従前の千代田光機のままである・・・ボディは明らかにミノルタブランドになっているのだが・・・。
レンズは3群5枚構成のトリプレット変形型である。1群目が凸凹凸の3枚の貼り合わせ(全体としては凸)で、当時の手作り的工作では大変だっただろう。これは比較的珍しいレンズタイプで(有名なテッサー、エルマー、ヘリアー、ゾナーも大きく言えばクックのトリプレットの変形である)安易にライカやコンタックスレンズのコピーに走った(良くないという意味ではない。コピーから始めて進化・熟成させるのも有意である)他の多くのメーカーとは異なり、当時のミノルタの意気込みが感じられる。この珍しいレンズタイプに対するこだわりは相当だったようであり、ちなみに50mmF2.8、85mmF2.8も同じレンズ構成である。
コーティングはシアン系が勝っており、これにアンバーが1面、マゼンタが1面である。絞り羽根は9枚でほぼ真円に近く、レンズの1群と2群の間にある。
描写については、3群目の後玉が小さいせいか口径食があり、周辺光量が浅絞り時低下する傾向になり、それはF8でも完全には解消されない。またそのせいか、或いは一説にあるニホン判用のレンズであるためイメージサークルの不足によるものか、収差の補正不足によるものか(これが正解だろう)中心部に比べて周辺の画質は明らかに落ちる。開放からF4.5まではごく中心部を除いて、像が崩れると言うほどではないがホヤホヤである。F5.6位から実用の範囲に入ってくる。あとは絞るにしたがって中心部の画質の良い部分が広がっていき、F16で画面全体の平均的な画質は一番良くなるように思う。いわゆる「絞りの効くレンズ」である。ただしテッサータイプによく見かける画面中帯部の弛みはなく、中心から周辺に向けて緩やかに画質が落ちていくようである。1群目の3枚貼り合わせの意味はそのあたりなのだろうか?1群目でパワーをかけて色消しもする〜それにより2群目の凹レンズの像高の低い部分を使い、また3群目でパワーをかける。合理的な考え方だが、一般論としてトリプレットは3群のレンズの距離に余裕がある長焦点のレンズにむいており、45mmといったレンズに取り入れることに無理があったのだろうか。画質低下の原因にはおそらく非点収差の残存があると思う。古いレンズにはよくあることだが、周辺に同心方向の像の流れがあり、ボケると目立ってくる。たぶんこれが周辺の画質低下の最大の要因ではないかと思うのである。イメージサークル不足や口径食、非点収差は画面の周辺で顕著になる問題なので、確かに24X32mmのニホン判なら平均画質としてはかなり良くなると思われる。たった4mmだが原版の4mmは相対的には大きい・・・36mmの4mmは10%を越すのである。カラー対応は意外なほど良好で、派手さはないが同時代のライツやニコンより自然で抜けの良いさっぱりとした発色である・・・当然ながらレンズ構成の単純さも幸いしているのだろう、旧エルマー50mmF2.8の発色とよく似ている。プロビアで撮っても青が真っ青にならず、それでいて黄色みが出るわけでもない。全体の印象としては、決してコントラストは高くないが抜けがよいのでドライな絵になり、湿度や距離感・立体感を重視する撮影には向いていない。このレンズの性能から見ても中央部に重点を置いた構図を必要とし、周辺の溶けるような味と発色の素直さを生かすためにもボケ味と彩度差を利用した遠近法と、周辺の省略を意識した撮影方法で使うと良い結果がだせるだろう・・・どうも最近は製品として不良品のレンズは別として、レンズに悪いレンズはないと思うようになってきた。どのようなレンズであっても「目的と技術」によって克服できるモノがほとんどで、これは物理特性とは別に、眼の延長線上に写真レンズを位置づけるとよく分かるだろう。鳥の眼と違ってどのレンズも私の眼よりはよく見えていると思うし、反対にどんな上等のレンズより人の眼は本質を見抜く力を持っていると断言できる。

レンズの大きさとのバランスも良いCLにスーパーロッコール45mmを着けた。45mmは中途半端な焦点距離で専用のファインダーもない。最近ペンタックスから43mmのレンズが出たのでそれのファインダーは使えるが、別売はしていない。ライカに45mmを着けるときは50mmのフレームより少し広くか、40mm(CL.CLE)より少し狭くか「勘」でフレーミングする他ない。CLだけは50mm用のL−Mリングを介するとファインダーに40mmと50mmのフレームが出るので、その中間と見れば実画角に近くなる。もとよりレンジファインダーのフレーム自体が不確かなものなので結局は「勘」だが・・・。

追補−朝日ソノラマの「ライカブック’01 ライカ研究」の『ミノルタ35用ロッコールレンズとその頃の舞台裏』小倉敏布著にロッコールLレンズの詳しい話が載っている・・・今までで見たうち最も分かり易いものである。氏は当時ミノルタの開発陣のひとりであり、実に明快である。載っているレンズのうち興味を引いたものは「35mmF1.8」で、RF機からの撤退間際のレンズらしく私も見たことがないのだが、正式レンズ名が「W.ROKKOR QF 1:1.8 f=35mm 」となっており、後世のCL用の40mmレンズと同じ「QF」の文字が入っている。

信楽にて。滋賀の山中、田舎町だが職人の町で細い道が入り組んでいる。道と道との間の薄っぺらい家や倉庫、窯場がそこここにある。この狭い道を壷や瓶、火鉢や植木鉢を満載した大八車が行き来したのだろう。発色はこのように派手ではないがさっぱりとした表現になる。少し糸巻き型の歪曲があるのが分かる。解像力にはやや不満が残るが、軟らかいレンズとしてはエッジが立っている。案外使えると言うのが率直な感想である。 CLE+45mm+RDP3 F8にて撮影。

最新のライカMPに。汎用品のライツエルマー用のA36かぶせフードを取りつけている。効果は充分だしケラれない。                nagy

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