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ロシアンライカ・ジュピターレンズ35mm.50mm.85mm

「ライカマウントレンズ」の互換性の意味について

今回は数あるLマウントレンズの中でも異彩を放っており、意外にも実用的な価値のある「ジュピター」レンズ群のうち、より一般的(つまり比較的入手し易く、かつ安定した品質のもの)な35mmf2.8.50mmf1.5.85mmf2の3本を取り上げてみよう。
私の持っているレンズは全てブラック仕上げである。別に白い色の仕上げもあるのだが、それはアルミ系の鏡胴にアルマイトの表面仕上げでなんとなく昔の弁当箱のように見え、しかも傷が付くと目立ちやすく、好みの問題以上に感心できない。総じて造りは粗雑でライツは勿論、国産のLマウントレンズと比べてもかなり落ちると見てよかろう。しかしそれは最近の国産レンズにみられるような部品のプラスチック化とか手を抜いた仕上げ(国産の一部のレンズ-はっきり言うとキャノンLマウントの1960年前後のレンズ等-には時に精度・強度の不足からかガタが出たりするものがある)と言うわけではない。要するに大まかな造りだと言うことである。詳細は各々のレンズの解説のところで触れる。外見はルーツがそうだからだろうが全体としてはツァイスのレンズと似たデザインである。性能もツァイスと同じぐらいと見え、値段は2万からせいぜい2万5千円ぐらいで抜群のコストパフォーマンスと云える。それだけではなく、私のものは1979-87年の製造であるのでカラーにも対応しており、多少癖のある描写ではあるが、それがライツの「味」にもつながる個性的(勿論、ライツの「味」とは全く異なる味)な魅力のあるレンズと思われる。ただし新品という概念はあてはまらず、ヘリコイドや絞り、なんとフランジバックの調整まで必要なレンズで(バラすと各部品の取り付けの調整に薄いスペーサーを入れる等している)、へたに新品を買うと距離計に連動しなかったり、片ボケになったりすることもあるそうである。むしろ技術を持った店で(大阪で言えばOSカメラサービス等)たとえ中古でも調整が完全になされたものを購入すべきである。

1. ジュピター(ЮПИТЕР)−12 35mmf2.8 1979年製  
マウント面から前の大きさはコンパクトでフードを付けないズミクロン35mmと同じぐらい。太さがマウント部で少し細く、前に向けて少々広がっている。鏡胴の回りには絞りリングが見えず、見た感じは全体がフードのように見えなくもない。鏡胴基部に英語表記の「USSR」の文字あり。ソ連の表記では「CCCP」である。他の2本のレンズはいずれも1987年製でこの表記そのものがない。このころから西側向けの製品にはペレストロイカがはじまっていたのだろう。なにしろ自動車の「ラダ・ニーバ」(ロシア名「ジーグリ」)と共にライカマウントレンズは外貨獲得の民生用の商品としての重要な位置づけがあったのである。私事ながらラダ・ニーバも購入した。モスクワやペテルブルグには何か郷愁を感じる。話を戻して、ヘリコイドは鏡胴の前部2/3が回り(しかし直進ヘリコイドである)、つまりどこを持って回しても良いことになる。私にはレンズ鏡胴の先端にギザがあるのでそこをつまんで回すのが合理的と思われる。しかしそのまま(つまんだまま)シャッターを切ってはならない。画面の縁に指が写り込むのである。一方絞りリングはニッコールSのワイド系のレンズやコンタックスのワイド系のレンズにも見られるように、鏡胴の前から見て内側にあり、大変回し辛い。クリックストップもないので、絞りを設定するときはレンズを前から覗くようにしてせねばならない。ただしこのリングに40.5mmのフィルターを付けるとフィルター枠の分だけ前に突出し、絞り調整はずいぶんとし易くなる。距離、絞りのリングは変わった造りであるが、見かけよりは動きはスムーズで安定した回転が得られる。またレンズ面は先端からだいぶ奥まった所にあり、フードは全く不要である。コーティングはレンズの年代やロットによって違いが大きく、私が入手するときも3本ほど見比べたが、全て違っていた。ちなみに私のものはかなりどぎつい赤紫色が中心である。ただしレンズの一面だけで他のエレメントは薄い色のコーティングである。撮影してみるとカラーバランスの事はともかく逆光時この派手な紫色のゴーストが絞りの五角形にくっきりと出る。面白いものだ。どうしたものかフレアは出にくい。ゴーストが派手なのはレンズのエコーが大きいせいだろうし、鏡胴の内側を覗いても塗料の質感や表面の仕上げは内面反射が大きそうなものなのだが…。レンズのエコーが大きいせいか、それとも最初からいい加減な表示なのか開放F値の2.8より実際はやや暗く、外部露出計の値より1/3絞り程度開けた方が良いだろう。問題はレンズのマウント面より後ろである。スーパーアングロンと同じぐらい突出しており、当然ながらM5.CLには付かない。M6に取り付けたところTTLも正確には動かない。シャッターをバルブにして後ろから覗くとTTLセンサーが半分程度隠れている。不正確だが(ヘリコイドの移動で隠れている範囲は変わるため)だいたいTTLでの指示値から一段絞ると適正に近くなる。少なくとも「勘」よりは正確で、外部露出計でゴチャゴチャ計るより早く、またTナンバーの低さの修正を考えるとM6でTTL撮影するのが妥当だと思う。ヘリコイドの繰り出しで光路の遮りの度合いも変わり、またボディによって差が出るだろうからテストをして癖をつかむことだ。レンズバックキャップはLMリングを付けたときはスーパーアングロン用の深いものが使える。ただし値段は国産でも6−7千円ぐらいする。そして突出したレンズエレメントの最後の部分は張り合わせのみでもっており多少不安であるが、修理屋さんに聞くとそのためのトラブルは聞いたことがないとのことである。ただし、これもボディによって多分差があるだろうから一般化はできないが、わたしのキャノンPに装着すると、このレンズの後端のコバの部分がボディのシャッター幕直前の上壁に少し接触し、へたをするとコバに圧力がかかり痛める事もありうることである。ここら辺が造りの粗雑さと言うものである。0.5mmの精度が出ていない。しかし多少擦れても壊れない丈夫さも持っている。好意的に見ると設計・製造の思想の差とも云えようか?この後読み進むと、これは本当の事として受け取れるようになるだろう。色々テストすると、ドイツの精密な工作技術で作られたレンズが意外に性能的には悪く(それもとんでもない位)、同じく精密で高性能な日本製のレンズがつまらぬ事で壊れたりと、コレクター的には良くても、使用する分には不都合なものが存在することが分かってくる。長い外から見た構造の話となったが、これも使い勝手と言う点では大切なことである。店頭に並んだ姿と値段だけで購入すると、尽き果てぬ「ライカ病」の入り口に立つこととなる。

次に肝心の描写について語ろう。テストの結果はなかなか良く、私の評価の基準である 1.解像力 2.コントラスト 3.周辺光量 4.各種の残存収差 5.色再現などを中心に考慮すると、1はズミクロン35よりは当然落ちるが、画面中心は大きな差はない。周辺に多少の緩みが出る。また絞り開放でも絞っても、そうは変わらず、4との関係で見ると(勿論、測定機器を持っている訳ではないので、あくまで経験からみた推測であるー私は各社のレンズを持っており、それらのレンズの光学者の測定・分析と私の実写を比較したり、あるいは撮影者としての視点から光学の専門書を読んでみたりした上での経験知と考えていただきたい)球面収差やコマ収差ではなく、どうやら非点収差によるものと思われる。歪曲はほとんど認められない。2のコントラストは70年代以降のライカレンズに見られるような固さはなく、かといって昔のライカレンズの軟らかさとも異なる、どちらかというとこの時代の国産のレンズに近い。従って、例えば明るく白い雲の空を背景にした細かな梢や電線などを撮ったときに背景に細かな線がとけ込んだり、白い壁の細かな模様が飛んでしまったり(このような事が最近のハイコントラストなレンズには時々あり、せっかくの高い解像力が低く見えることがある)するようなことは起こりにくい。3はワイドレンズとしては良好で、後玉の大きさが頼もしい。絞り開放付近で少し落ちるが気になる程ではなく、絞ると更に改善される。周辺光量の落ちについては時々評論に落ちるのを「味」と言って、好もしいともとれる表現が見られるが、好みの問題として片づけるならそれも良いとしても、光量の低下を改善できなかった昔のレンズを懐かしむ「懐古趣味」に陥らないことが大切である。やはり原則は周辺まできちんと写る事であろう。それを肯定した上で「味」という個性を見つけて行くべきであろう。私自身は「味」を否定しているのではない。昔のくせ玉をして、「これこそ本物」と言う姿勢を危惧するのである。光学者や技術者は日夜研究・開発し、実際問題として性能は良くなっているのであって、それを「最近のレンズは皆個性がなくなってつまらない」と断ずるのはあまりに一方的で彼らの努力を無にするような考え方と云える。要するに赤エルマーを作ったのもその時代の最新のテクノロジーだし、今アスフェリカル化を進めているのもこの時代の最新の技術なのである。次の新技術を期待するなら今を正当に評価し、彼らをやる気にさせなければならない。中古のレンズが市場でグルグル回っているだけではメーカーは一向に儲からず、デジタルカメラやムービーその他の売れる商品に開発の予算が回っていく。ここ10年の国産のメーカーの動向を見ればよく判るだろう。ライカですら「M6限定カメラ」どころかOEMによるコンパクトカメラの販売に踏み切っているのが実状である。いやいや堅苦しい脇道の話はこの位にして次に移ろう。4としては前述のとおりおそらく非点収差だろうが、少なくとも横軸の収差が補正しきれていない。5はやや温調であるが実用上問題ない。60年代のライカレンズより軽微である。ズミクロン35mmのASPになる前の最終型と同等と思える。温調と言っても黄色系の色で往年のキャノンの35mmf3.2(1951)のようなマゼンタ系の色調とは違う。ただし、良く調べるとこのレンズの最大の個性(味)が色調にあることが分かる。ライカのレンズは色調がやや黄色いが俗に「コダクローム」の色と言われるように彩度が各色相に対して低くなり、全体にグレーのトーンの中の押さえられた色味が「味」である。それに対しジュピターではやはり黄色系の温調ながら黄色系の彩度が上がり、緑系、そして赤系の色の明度があがる傾向になる。結果として一般的な日本の自然の中では色飽和度の上がった最近のカラーネガフィルムと同じく実際よりやや派手な発色となり、かつハイキーの部分の色の乗りが良いため、独特のねっとりとした空気の湿度を感じるような描写となる。今回の解説の三本のレンズに共通の特徴だが、特に35mmに強く現れているようである。ツァイスのレンズから出発したのだから当然かも知れないが、現代のコンタックスG用のレンズの発色をより強調したような色で大変興味深い(悪く云えばオモチャっぽい色)。この特徴を補正することは止めた方が良い。この点を除くとズミクロンに全ての点で劣るため、存在の価値がなくなる。むしろライカにないこのねっとりとした色調を生かすべく、最近発売されたコダックE100VSなどの色飽和度の高いフィルムをあえて使うべきだろう。青系が多少濁るため、必要に応じそのような状況では、少し絞りを開けた方が軽い表現になるだろう。ただし晴天の日陰などの青い光線下ではかえって真っ青にならず良いこともある。同じ条件で冷調のレンズ(例えば、最近のレンズではロッコールG28mm)で写すとブルーフィルターをかけたように鮮やかな青色に全体がなる。露出を切りつめると、更にこのねっとり感は強調される。自然の中でも、都市の中でも使える「色味」である。

2. ジュピター−3 50mmf1.5 1987年製
35mmよりは年代が新しいが造りの粗雑さは似たようなものである。湿度によってヘリコイドが固くなったり軟らかくなったり、ピントを1.5mの距離に合わせるとレンズの表示上では1.7mの所を指している。かといって現像するとピントはぴったりである。そして無限遠では表示と距離計は合う。つまりヘリコイドリングの目盛の位置が違っているのである。距離計で合わせれば問題ないが、目測で合わせ深度を利用して写すような方法は絶対にしてはならない。絞りリングにクリックストップはなく、しかも結構軽く回るので要注意である。私はクリックストップの固いのは好みでなく、最近のライカレンズのカタンカタンというタッチよりはクリックのない形式のほうが良い。余談ながら最近Lマウントレンズに力を入れているコシナのウルトロン35mmの固くないツンツンというような感覚のクリックストップは最良である。単なる懐古趣味ではなく確実に現代版のライカ系レンズを作る姿勢には共感をおぼえる。また話が脱線したがコシナ=フォクトレンダーレンズは後日まとめて論じたいと考えている。まだ何本かでるだろうから...。
ジュピターの話に戻すと、ツァイスゾナーと似たデザインで、面白いことにかなり後で発売されたズミクロン50mm(現行品)のデザインはこれと類似しており、新ズマロン35mmや最初のズミクロン35mmが先発のキャノン35mmにデザインが似ていることと合わせ、また昔強烈に競い合っていたツァイスのテッサーの特許の切れた時(厳密には異なる設計)エルマー50mmf3.5を出したり、結構柔軟な戦略で製品の改良をしていることに気が付く。ドイツで35mmRFカメラを今も作っている唯一のメーカーの適応戦略はこの辺にもあるのだろうか?ジュピター50mmはf1.5に見合った大口径の前玉で、鏡胴は逆にコンパクトに作ってあり、ズミルックスに比べると貧弱に見えるが携行し易さと言う点ではいいと思う。コーティングの色は薄いアンバー系で1950年代のレンズのように見えるが、Tナンバーはそう低くない。f1.5の実力はあるだろう。しかしレンズを前から覗くと内面の塗装はグレーっぽく、内面反射対策は万全とは云えないようだ。しかし実写では35mmと同じく想像より悪くなく、コーティングの効果は大きいのだろう。距離計の連動カムがアルミ材でできており、摩耗が少々心配である。フィルター径は40.5mmで汎用のゴム製フードがあり、ぜひ着装すべきだろう。描写を見てみるとレンズ中心部から中帯部にかけてはかなりシャープで(絞り開放では甘さがあるが、明るいのでf4まで絞ればOK)ごく周辺を除き実用性充分である。現行ズミクロンより落ちるが現行エルマーより良好である。また、同じゾナーコピーのニッコール50mm(1950年代初期)より年代は全く違うが良いと云える。ただしこの結果は中遠距離に云えることで近距離(接写も含む)では崩れる。歪曲収差はかなり大きくはっきりとした糸巻き型で、シャープなだけに目立つので撮り方に注意が必要。またビゾフレックスにつけて接写をすると像面の湾曲が大きくなり、この性質が近接の撮影での崩れにつながっているのだろう。(ちなみにニッコールでも接写では同じ傾向があり、ゾナータイプの弱点か...?)色再現はやや黄色みを帯びた温調で、35mm程の色の濃さは無いものの同年代のライカレンズに比べるとカラフルと云えよう。歪曲があるので背景をぼかすような撮影法か、直線のない自然の中での撮影かそんなところだろう。ニッコール50mmf1.4が実勢価格6−8万円、ズミルックス50mmf1.4が10数万円と比べて2万円強と値段がかけはなれて安く、いずれ価格の上昇があるだろうから持っておいて良いレンズである。勿論、投機的な理由ではなく、今なら安く手に入ると言う意味である。


3. ジュピター−9 85mmf2 1987年製
このレンズは35.50mmと違って大型で重量もあり、造り自体も良く感じる。コーティングはほぼ50mmと同じよう(共に1987製)である。絞りリングもほぼ50mmと同じ使用感で良好。ヘリコイドリングは少々固かったがグリスアップで簡単に解消した。距離の表示は今回の3本は全てm表示でf表示はない。社会主義国でしかもフランスの文化の影響を昔から受けているソ連=ロシアでは当然の事かも知れない。フィルター径は49mmで他の2本の40.5mmよりは大きな前玉である。鏡胴の内面処理は相変わらず見た目には良いとはいえないが、他の2本よりはまだ良い。鏡胴表面のブラック仕上げも一番良いようである。外見は昔のニッコール85mmf2(同じゾナーコピーレンズ−1950年代前半)とよく似ているが、最近のレンズなので直進ヘリコイドである。描写に目を向けると、焦点距離が長いせいか各収差は良好に補正されているようで「癖」は感じられず、f4位から良い像をむすび、率直な写りと云えよう。色再現はやはりやや温調である以外特に記すことはない。絞り羽根はなんと16枚でぼけ味を軟らかくする効果はあるだろう。年代は異なるが基本の設計の似ているニッコール85mmf2と比べると、当たり前とも云えるがよく似た描写で、ニッコールはカラー対応ができていなかったせいか更に温調(黄色いーしかし実用の範囲内)である。両レンズともコントラスト、解像力共に高く、エルマー90、同C90より高い性能と云える。ニッコールに比べるとやや線が細く、中心部では解像力でほんの少し勝り、ごく周辺部には甘さがあり、やや劣ると云えよう。ついでに証すとズミクロン90mm(1977)エルマリート90mm(1999)よりはやや落ちるが、コストとの兼ね合いで選ぶなら(ニッコールの半分以下、ズミクロンの四分の一以下)最良の選択とさえ云えよう。反対に1950年のニッコールの良さは時代を超えた性能とも評価できる。ダンカンが激賞した伝説的なレンズであるが、それはテストの結果もっともなことと思える。カラー撮影では少しの注意が必要だが当時のモノクロ中心の時代ではライカやツァイスを凌いでいたことは事実であろう。ともあれジュピターはコンタックス=ツァィスの子孫であり、その性能も受け継ぎ、かつ遅々たる速度とは言え改良された実用性充分のレンズと確信できる。またマニア的な発想で見ても、往年のツァイスの味を現代のライカで味わえるチャンスがあるのは(しかも新品同様のコンディションで)まことに良いことである。

総論として最初に論じたとおり性能的には最新のライカレンズや最近限定版で出た国産Lマウントレンズに比べて多少落ちるが、実用的にはなんら問題なく、それ以上に「癖」や「味」を色濃く残したレンズで、注意すべき点に気をつけ、特徴を出すような使用法を身につければ、現代のレンズには希薄となった個性を望み得るレンズである。ただし個体によるばらつきもあるので実際にテストすることである。更にコストパフォーマンスの極端な良さと、比較的数もあるため手に入れやすい点も特筆すべきである。いずれ値段も上がって国産の1950-65年代のLマウントレンズ並にはなってしまうだろう。(どうもソ連の崩壊以降の製品を見ないので...。もう作っていないのかも?)興味のある人は信頼できる店で購入することである。

ここで関連した辛口の議論をひとつーライカ党の人達のなかにはボディ、レンズ共にライカでないと納得せず、高じてそれ以外の組み合わせをまるで偽物か幼稚なもののように言う人が一部に存在する。しかし冷静に見ると決して妥当なこととは云えない。俗に云う「ライカ病」と言っても良いし、もう少しトーンダウンして評してもライカの偉大さは35mmレンジファインダー機の世界を開き、それを発展させ、今に至っている「継続性」であり、私の研究でも各時代にライカに挑戦したメーカーはいずれも敗れ去ったかも知れないが、ライカ自身も他メーカーの良いところは取り入れ、必要に応じて対策している。そして大きな特徴として「互換性」があることも重要である。35mmカメラ全体の勝負は1960年代に日本のメーカーの圧勝でついてしまった今、ライカはライカであり続けることで生き残ってきた。マウントを変えず(L−Mの変換は簡単なアダプターで完全に可能)距離計に連動するか否かのみを制約として継続性を維持し続け、それが最近の国産のレンズメーカーのLマウントへの参戦を可能とし、さらにボディの発売(今のところ、ベッサLと安原一式。しかし増える可能性大...その後ヘキサーRFやベッサR/T等々が出た)そして日本限定とは言えライカのLマウントレンズの販売。全ては「互換性」が生んだチャレンジなのである。そして恩返しともいえる日本のメーカーの挑戦した製品は質(性能、外観)においてもライカに劣るものではなく、物によっては凌ぐものすら存在する。本気なのである。迎え撃つライカも非球面化やアポクロマート化(色収差の高次補正用)などを取り入れた新商品を開発している。ライカの最大の市場である日本を舞台として、戦後すぐの時に次ぐ二度目の激動期が始まっているのである。私も良いボディが国産で発売されれば使うだろう(改訂している現在、既にヘキサーRF−安原一式−ベッサT/R/R2/R2Aは所有している)し、レンズは既に(具体名は今は避けるが)21mm.28mmは国産品が性能的に上回ったため、ライカレンズがお蔵入りになった。勿論、分析的にみた性能と言う意味で、「個性」と言う点ではまだまだ色々考慮すべき点があるので、サブレンズとしての意味で重要な存在理由があり、必要に応じて使用することは言うまでもない。この原稿を書いている最中にもコシナのウルトロン35mmのテスト結果が出て、ズミクロン35mmノーマルタイプを性能的に上回っている事(「味」のことは別...現代のライカレンズにも「味」は残されている)が判明した。(ズミクロン35mmASPと同等か?詳しくは更に詳細なテストが必要)f1.7という明るさはズミクロンとズミルックスの中間だが、あえて言えば両方のセールスポイントを押さえて性能的には同等かそれ以上、値段は実勢価格1/2-1/3といい線をいっているようである。ともあれライカは色々な組み合わせで楽しめば良く、レンズはバルナック時代のもの、Mになった時代、ライツウエッラー、カナダライツ、最近の物、膨大なキャノンやニコンのLマウントレンズ群(特にワイド系はその時代のライカより良く、その他のレンズも肉薄していた)、外国製のよく判らぬレンズ、ロシアンライカレンズ、最近の国産限定レンズやコシナのフォクトレンダーシリーズ、ヘキサノンKM(実際この三つのレンズグループは明らかにライカと互角である)等々、更に今後もレンズは発売されるだろう。ボディはバルナック、M3−M6、キャノンの多種のボディ、世界中のライカコピー機、更に予測として、最新の技術を投入したL−Mマウントボディ(改訂時3/17、ベッサR.ヘキサーRFが既にある)の登場も間もないことだろう。前の報告でも書いた通り、ミノルタCLEが相当に珍重されているようにライカだけでこの市場は成り立っているのではない事は自明のことである。M6にジュピター3本持って今度撮影旅行に行ってみようと思っている。85mmの枠はなくとも90mm枠でもたいした差はない。レンジファインダーって言うのはそんなものである。メーカーや時代をたがえた何十種のボディと何百本のレンズ、無数のアクセサリーの組み合わせ。そんな楽しみを与えてくれるのが世界規模―70年以上にわたる、空間軸と時間軸を越えたライカの世界なのである。

奈良県生駒市高山地区。これがこのレンズの典型的なゴーストである。コーティングの違うレンズだと違う色のゴーストになる。M6+J35(F8)+E100VS

近江八幡・円山にて。順光でやや絞って撮ると(F8にはしたい)結果がよい。ただしここまで絞っても多少の周辺落ちは残る。 M6xJ35mmxRDP

トップの写真はジュピター50mmF1.5−35mmF2.8−85mmF2。35mmの後ろの出っ張りが分かるだろうか、画像では斜めなのでたいしたことが無いようだが、実物はもっと大袈裟である。

III f/c-1/2 に取りつけても他の大口径レンズと比べると小型で使いやすい。軽合金を多用しているため軽いのも良い点だろう。

M4に取り付けたジュピター35mmF2.8。下のジュピターよりはレンズのラッパのような雰囲気が少なく感じられる(実際は同じ)。

ジュピターのもう一つの個体。これは1958年製でいかにも古いが、構造はまったく同じである。違うのは鏡胴の仕上げとレンズコートだけである。あとはレンズの焦点距離が3.5cmという古いスタイルの表記になっていることと全体にロシア文字で書かれていることぐらいだろう。クローム仕上げ!と云いたいところだが、非常に汚かったアルミの鏡胴表面を自分で完全なポリッシュ仕上げにしたものである。写りは古い分やや新しいものより周辺に難がでる=同時に発色が浅い。

新旧のジュピターを眺めていて意外なことを発見した。外から見ると仕上げの差はあっても中身はコーティング以外は昔の設計のままだと思っていたが、レンズそのものにも改良があることに気が付いた。私はキヤノンLマウントボディをVT.P.7と3台所持しているのだが、VTとPについてはジュピター35のレンズ後群がシャッター前の天井に当たり取り付かず(実はほんの僅かなので天井を少し凹ませればOKだが、そこまでして着けることもあるまい)、7も一応試してみた。7は少しだけ天井が高く、干渉せずに取り付いた。そこであまり使われず眠っていたジュピター3本組を7用にしようと思い、同じなら35mmも黒の方に変えようとねじ込むとほんの僅か天井にこすれた。妙に思い2本のジュピターを並べて見ると、少なくともレンズの最後面の径、曲率(当然硝材も)、形状が異なっているのである。そのため少し(1mm以内)径の小さな1958年製がすんなり納まったのである。1958年から1979年までのどの時点かは分からないが改良がなされており、性能にも当然に差が出るだろう。ロシアンレンズあなどるべからず。

 2本のジュピター35mmF2.8 

これはM5に取りつけたジュピター50mmF2。F1.5レンズとは兄弟レンズである。こちらの方が描写の癖はない。解像線はF1.5の方がシャープだ。

これもLeica DIII に取りつけたジュピター50mmF2。このレンズは最新式である。新品同様で買えるゾナータイプレンズである。その写りと共に評価できるだろう。上の旧型よりずっとシャープ感がある。

85mmをM4−2に取りつけると、かなり大きなレンズであることがわかる。口径も49mmとキヤノン85mmF1.9やニッコール85mmF2(どちらも48mm径)と大きさは同じぐらいである(性能でも負けない)。ただし鏡胴がアルミ系のため軽い。49mm径だから汎用のメタルフードが簡単に取りつけられる。

リコーGXRの登場で測光がセンサー上でできるため、このレンズだけではなく後端突出レンズ群がAE(しかもライブで)可能となった。 ファインダーの位置や大きさも具合が良い…外付け光学式ファインダーでも良さそうに思われるが、パララックスの問題や各種の撮影情報の表示などEVFのメリットは大きい。なにしろライブで見られるのだから…外付けだと微妙に実画像とは違う。だいいち現在プロでも時々見られる、シャッターを切ったあとファインダーから目を離してモニターでプレビューを確認する必要がない(人間は弱いものだから確認したくなるのである)。私はこれを「みっともない」と感じてしまう…昔は一眼レフの一瞬の暗転すら問題視され、被写体をずっと見続けることが大事と皆が考えていたのである。

1962年のジュピター8(50mmF2、ゾナーコピー)と1958年のジュピター12(35mmF2.8)、いずれも古き良きソ連時代のアルミ鏡胴のモデルで、写りも悪くない。

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