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アベノン21mm及び28mmのLマウントレンズについて

最近のブームで国産のライカマウントレンズは増えてきたが、それより前からこの分野で生産を(しかも継続して)していた数少ないメーカーがアベノンである(どうもコムラーの系譜を引いているらしい)。これ以外にもコンタックスG用のレンズをライカ用に加工したり(私もGビオゴン改28mmを持っている。それはビオゴンの描写もさることながら、この後述べるアベノンの企業としての良心に対する恩返しの意味もある)マニア相手に徹した商売をしており、大手メーカーにない職人気質のようなものを今も持っている良心的な会社である。そのエピソードはこの2本のレンズの解説の中に織り込んで話を進めよう。

1.  21mmf2.8 28mmと同じく鏡胴全体がアルミ系の白い梨地仕上げであるが、その仕上げは28mmより少し良いようである。絞りリング、ヘリコイドリングの作動感は確実でスムーズである。フィルター径は58mmとライカマウントのレンズとしては太いレンズである。ただし長さは短く重さも比較的軽いためカメラに取り付けた時のバランスは見た目ほどは悪くない。レトロフォーカスであるのでレンズ後部の突出も少なく、当然にM5への取り付けやM6でのTTL測光も問題ない。このレンズを買ったときは21mmのライカマウントレンズはライカ純正以外にはアベノンしかなく(中古では色々あったが値段はたいへん高い)、それまでの経験でも私は20mmクラスのレンズはあまり使わないので(実は今でも撮影旅行に行ってもワンカット程度しか使わない)、とりあえずこれで良いと思って購入した。ジュピターや国産の古いLマウントレンズを買った時もそうだったように、それほど期待しないのが良いのである。コレクター的な趣味はそれほど無いと以前に書いたが、使うことを前提にするとプレミアの付いた古いレンズを買うのは感心できない。価格は希少価値と姿の美しさで決まっている事が多いのである。新品のレンズや中古でも現行品のレンズはおおむね高価なものが良いと云えるが(それとて絞り一段明るいとか、開放で少々良いとか決定的な差では無いことが多い)中古では買って良いかどうかを確かめるわけにもいかず、雑誌の記事を参考にするか、使っている人から聞くか、それともカメラ店の上得意となって買う前にテストさせて貰うかして(実際はこの方法は薦められない。もっとお金がかかる事となる)確かめることである。少なくとも研究するべし。それもカメラを扱う楽しみと心得ていただきたい。かくして私は「安いレンズほど良い。」という逆説的なテーゼをたてて購入しているのである。この事は常連になっているカメラ店にも最初は理解されにくかったが、今は理解して貰っているようで、いつも良い品物を薦めてくれる。何度も書くが、私は写真家であるのと同時に研究者なのであり、プレミアの分まで支払えず、その分の予算を、研究を進めることに使わねばならない宿命があるのである。そのような態度でお店やコレクターの間を行き来していると高価なレンズもいつの日か半分ぐらいの値段で手に入る事もあるのだ。こんな理屈で購入している。

それ程期待せずに坦々とテストしてみると、思っていたより悪くないのである。コントラストがあまり高くなく、ごく周辺を除き、線の細い綺麗な描写をし、またレトロフォーカスの特徴として周辺光量もほとんど落ちず、しかも歪曲はタル型ながら大きくは目立たず、色もニュートラルで予想外に良いのであった。その後、限定版のリコーGR21mmを購入して比べてみても遜色がない事がますます分かり、GR21の半分の価格を考えると断然こちらがよいと思う。レンズの個性としてはGR21の方が強く、おそらくスーパーアングロンを意識したような周辺光量の落ち具合や中心部の高コントラスト・シャープ感を持っている。使い方次第では「味」を生かせるが、平均的な使いやすさとコストパフォーマンスにおいて一本を選ぶならアベノンに軍配が上がるということである。ただし次の28mmのところでも述べるが、製品にばらつきがある可能性があるので全てに一般化はできないのではないかと考えている。云えることは35mmを除き、ワイド系のレンズはおおむね国産が良く、21mmでも少なくともS・アングロンと同等とだけ記しておこう。ただし逆光時にはかなり派手なゴーストやフレアが出ることがあり、一昔前の一眼レフ用の20mmレンズを使っているような錯覚に陥る。1970年代の絵作りに丁度いいように感じる。晴れた日の順光や薄曇りでの撮影に向いているだろう。

2. 28mmf3.5 上記のとおり、21mmとほとんど同じ仕上げだが、すこし梨地が荒い。ヘリコイドリング、絞りリングの動きにスムーズさが足らず、動かすとアルミ材のこすれるザラザラした感触(これは似たような仕上げのGロッコール28mmも同じ)がある。勿論、作動に支障がある訳ではないし、使い込むと適当になじんで感触は良くなるだろう。フィルター径は43mmと比較的大きいがこのレンズは極端に薄く、全体としては大変コンパクトである。CLやCLEに付けるとバランスが良く使い勝手も良好である。対称型のレンズ構成でフィルム面にレンズの中心を近づけ、かつレンズ後端をあまり出さないために小径で、必然的にレンズエレメント全体も薄くなったのだろう。エルマリート28mmとは大違いで半分以下の薄さである=ライカの28mmレンズは以前から少々大きくても余裕のあるレンズ設計をしている。材質は少し安直だが姿のいいレンズと云えよう(レンズの前板は白ではなく黒くしてもらいたい=コンパクトなレンズの印象がぶち壊しである)。絞り羽根は21mmと同じく6枚である。このレンズもフード付で4万円とライカは勿論、国産の限定レンズや国産の古いLマウントレンズと比べても、かなり安価である。この値段を見ると最近のコシナ=フォクトレンダーの値段は限定ではないのに少し高いように感じる。アベノンの作っている21mmと28mmを製品化していないのは値段の競合のことも関係しているのかとも思ったりもする(2000年現在...2001年コシナは21mmを安価で、28mmを高性能で出してバランスをとった。やはり意識しているのだろう)。しかしコシナを批判する気にはならない。各社へのOEMも含め、ある領域のカメラファンのために勇気をもって健闘していると思うし、単体のMFレンズとしては高価としても採算の限界なのだろうと了解している。なにせ限定生産のLマウントレンズでも(どれも素晴らしいレンズで性能的にはライカレンズと互角なのだが…。少々高いのと、取り扱い販売店が少ないこともある)国内/外で1000は確実に出ても、2000になるとかなり怪しく、3000はまったく無理という結果なのである。しかしこの事を考えても、アベノンは驚異のコストパフォーマンスを実現している事がわかる。特に21mmに比べ、汎用レンズたる28mmレンズである点重要で、決定版とまでは云えない(ライバル=もっと高価なレンズが沢山ある)が、入門用としては最適なレンズと云えよう。描写については21mmと違って多少の「癖」を持っている。コントラストは比較的高く、カラーバランスもニュートラルで対称型(変形ガウスタイプ)のためか歪曲も少なく、かつ絞りを開けるとワイドながら軟らかなボケ味もある。問題は絞り値によって描写の雰囲気が変わることで、絞りが開いていると周辺光量が隅で急落する。緩やかに落ちるのは「味」とも云えようが急落するのは問題である。しかもボケ味の綺麗さを出すために絞りを開けると、像が緩みかげんになることも好ましくない。つまり「癖」は良いが良い癖と悪い癖が相殺されるような出方が問題なのである。F5.6半まで絞ると癖は消え、線の細い素直な描写となる。エルマリートと比べても遜色がない。しかし更に絞ってF11を越えると回折の影響が出て、コントラスト、解像力共に低くなる。つまり癖を積極的に使う時以外の実用的な絞り値は、F5.6半〜F8半までとなる。ライカはM5/M7を除きボディの構造上シャッター優先の露出制御になるのだが、レンズの描写を考えると、アベノンに限らず絞り優先でなければならないのである。困ったものである。どうしてライカはM5の両方を優先して使える機構を放棄してしまったのだろう。M5の解説のところで色々書いたが、ベストなライカは(つまりはベストなレンジファィンダーカメラ)M5である最大の理由はマニュアルながらシャッターと絞りの両方を優先して露出を制御でき、かつファィンダー内にその表示が出る点で、これは今も機械式ライカでは実現されていない(M7やヘキサー等の電気カメラは別)。アベノンの話に戻ると、何度も言うようにここで言う描写の「好ましくない」というのは厳密な意味で、初心者が写す分には問題と言うほどではない。むしろ一眼レフのレトロタイプのレンズやズームレンズのワイド部の使用とは異質の描写をすることを学んで欲しいのである。使いこなせるようになった時、高価なレンズに移っても遅くはない。ライカマウントレンズは時空を越えた存在なのだから...。ともあれアベノン28mmの性能は実用上ではなんら問題はなく、抜群のコストパフォーマンスである。

ついでにこのレンズを購入したときの面白いエピソードを書いておこう。物言わぬ工業製品にもひとつひとつにドラマがあると言うことと、ユーザーとメーカーのつながりを考える上でも大事な話である。まず1998年秋に雑誌の通信販売(このモデルは私の行きつけの店では取り扱っていなかった)でこの28mmのアベノン25周年記念限定モデルとして発売されたものを購入したのが発端である。当時ノーマルモデルはあまり感心がなかったのだが、限定版はブラック仕上げで絞り羽根も10枚、ピントレバーも二又式の最近のライカのタイプと(ノーマルモデルは古いライカタイプによくあるチョボがひとつついたタイプである=ストッパーがないのでつまみだけがある)単に記念モデルと言うだけでなく、見かけも機構も少し改良されたものであった。そして21mmの撮影テストの結果が良かったこともあって購入したのである。いよいよ手に入ったのちテストをしたところ、画面の周辺の像が近距離時は目立たないが遠距離撮影時にボケることが判明し、これが絞っても完全には改善されないことが分かった。で、過去にもトプコン・コニカのレンズで別の問題だが今回と同じく外見上も操作上も問題ないが、ある不具合が見つかり、メーカーに直接コンタクトをとって解決を図ったことがあったので(このような場合、販売店では良品、不良品の判定が不可能であるし、それを無理に交渉するのは気の毒な面もある)、同じようにアベノンに連絡をとってみた。トプコンやコニカのときもそうだったが、案の定大変良い反応で、すぐ送って下さいとの答えで、テストのスライドと私の撮影の対象や撮り方の説明書をそえてレンズを送った。その後これもメーカー特有の反応として原因は明確にしないが不良を認め、別の新品に交換することで話がついた。ちなみにトプコンの時は交換、コニカの時は調整で解決した。メーカーはプライドがあるのとおそらく沢山の在庫のひとつという認識があるということとで、販売店とはレンズ一本の意味や価値感が異なっていることがよく判る。どの会社も丁寧でクールな対応で、解決も早く確実である。皆さんも良品、不良品の区別が分からず困った時はメーカーに相談を(決して怒鳴り込むのではない)してみると良い。勿論、なるべく早くの処理で、元箱や保証書その他の同梱物を捨てないように、かつ購入したらテストをどうしてもしてみる事である。新品は完全だというのは幻想である。今回のレンズは限定版でもうメーカーにも在庫がなく、ノーマルタイプと交換(記念モデルのデザイン、使い勝手が良かったので少し惜しかったが...)となったが、ここからのアベノンの良好な対応が私にとっての高い評価につながった。やはり小さなメーカーなので毎日どんどん作っているのではなく、小ロットを定期的に製造しているようで、少し待ってくれとの話であった。その生産が完了したのちまた連絡があり、現場の技術者から最も良い物理データのものを提供したい旨の話(と言うのも返品したレンズも検査の結果出荷したものであり、素人的な基準なら良品と言え、あとは手作り的に作っているこのレンズの製品のばらつきの内、最もよいものを供給することとなったようである)があり、今回のロットでは出なかったとの事で結局その次のロットの一本が送られてきた。かくしてユーザーと技術者がモノを通じてつながる事ができるのである。本質的に作る側も「良いモノを」供給することを仕事とし、ユーザーも「良いモノを」使いたいと考えており、実は共通の土俵にのっているのである。複雑な流通と様々な利害得失が交錯し、モノの流れがあまりに巨大な枠組みの中で行われるようになったために、作り手と使い手に距離ができてしまって、またそれが当たり前のようになってしまったのである。仕事の都合で信楽焼の窯元にしばしば行くが、ここでは今でも手作りの焼き物をつうじて作り手と使い手が直接話し合って、より良いモノが作り出されている。手作りブームの陰に自分の好みと用途にあったものが欲しいという素朴な欲求があるのだろう。カメラメーカーには幸運なことにどうもそれが残っているようだ。大手のニコンやペンタックスでもある意味で損をしつつF3やLXを少人数で作っているようである(残念ながら2001年どちらも生産終了)。おそらく技術の伝承をも計っているのだろう。まことに良きことである。結果として良い性能のレンズが手に入った。私はアベノンが新製品を出せば、このことを意気に感じて必ず購入することだろう。そういうものである。

琵琶湖堅田の船大工の船屋(造船場)。左は船の入れる掘り割り・・・霧と雪の日だった。CLE+アベノン28mmF3.5+EB-2=絞りは1段絞った程度で、周辺の崩れ・光量落ちはやむ終えない。

近所の寺の参道にて。桜の季節だが人は少ない。口径の大きさ由縁か、はたまたレンズ構成によるのか、周辺光量の低下は21mmとしては最低限である。 フォクトレンダーベッサL+アベノン21mm+EB−2

*追補 21mmはやはり逆光には弱く、かなり派手なゴーストが出る。しかし昔の一眼レフのレンズに似ていて、当世の高性能のレンズとはひと味違う、なんとなく悪くない雰囲気である(条件を整えると解像力は全然悪くない=色も微妙さは出にくいものの抜けのいい簡単な色再現をする)。

秋の吉野川、落アユの漁場。順光だとヌケはいい。

21mm...ごく最近の黒レンズを試してみた。ブラッククローム仕上げであることは見れば分かるが、それ以外の改良は絞り環の半絞り部のクリックがしっかりとしたこと、コーティングがマルチコートとなった、絞り羽根が6から8枚になったことがある。ただしこれは全部一緒に変わったのか、私のレンズ(1997)から少しずつ変わったのかは分からない。 実写してみると写りはほとんど同じ(レンズ構成や鏡胴そのものは同じなので当然か?)であったが、逆光特性や輝度差の大きい場合は光の滲みがなくなり、多少の見かけ上の鮮鋭度は上がったようである。これは同じ条件で撮影して見比べる(しかも8Xルーペでの基準)と分かるレベルである。しかしもし今後購入を予定しているなら文句なしに新しいタイプを選ぶべきと言うことになるだろう。

安原一式に取りつけた。このボディは大きさの割に重いのでアベノン21mmとのバランスがとれる。

これは28mmを取りつけたCLE。径は大きめだが、やはり薄くて、材質もアルミ系の軽さのためバランスがいい。レンズ構成図を見るとなかなか凝ったタイプである(変形ガウス)。全長が短く、それでいて後への突出の小さな、しかしF3.5を確保している。ただし径の大きさは(43mm!)どう考えてもこけおどし的で、39mmどころか34mmでも良さそうである。前面の銘板も黒にすべきだと思われる...フィルターを着けたときに面間反射が出るかも知れない。

M6トラベラーにアベノン28mmF3.5のブラックを取りつけた(最近入手のABENON/15thモデル)=軽くて薄くたいへん良好。レンズ構成などは同じだがコーティングや絞りに改良があると書いてある=しかし見比べても分からない。外観では黒いこと以外にピントレバーが二股のライカスタイルになっていて好ましい。性能に関しては簡単には結論できない...アベノンレンズは比較的バラつきが多いので注意は必要だろう。

塚口の公園で。黒モデル=やはり逆光性能には疑問がある。ひどいと言うほどでもないが、1970-80年頃の一眼レフ用のレンズと同じぐらいだろう。ピントはなかなか良くて、周辺光量も古い白レンズより改善されている(個体差かも知れない)。F3.5−4.5あたりの周辺の画像の崩れは同じである。そしてどうしたものか、上の白レンズと異なりF8まで絞ると画質が落ちる。ようするに絞りF5.6前後で使えということだろう...白レンズはF8あたりが一番いい。同じ定格のカラースコパー28mmF3.5と比べると総合的には少々落ちるが、限定された条件では同等で、かえって良い味も持っている。値段はどちらも随分安いのに、より高価なレンズと比べて「ほんの少し」落ちる程度なのは注目していいだろう。

2012.2.4 大阪市あびこ観音にて…LeicaM9で撮った。何の問題もなく綺麗な写真が撮れる。

このようなフードを付けると逆光には効果が少しはあるだろう。隣のSuper Angulon 21mmF4(私にはF3.4より良いように思われるのだが…)との大きさの違いが分かるだろう。

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